激しい恋
「ふぁぁ……」
早朝。目を覚まして体を起こしたシトロンは、大きな欠伸を一つこぼした。
昨日、サトシの幼馴染と合流した。
合流した時間が遅かったこともあり、彼らとともに一夜を明かした。
シトロンは朝食作りを担当し、少し早く起きるため、セレナたちはまだ眠っている。同じテントで眠ることになったシゲルも、まだ目を閉じていた。
「あれ……?」
真ん中で眠っていたはずのサトシがいない。寝袋もすでになくなっており、片づけられていることが分かる。すでに起床したようだった。
(珍しい……。サトシが僕より早く起きるなんて……)
サトシはきっちり睡眠を取るタイプだ。睡眠時間が足りないと起きられないことが多い。
何か楽しみにしているようなことがあると起きられるのだが、何かサトシが楽しみにしているようなことがあっただろうか。
(まぁ、いっか)
たまにはそんなこともあるだろう。シトロンは着替えを済ませ、寝袋を片づけた。
+ + +
着替えを済ませたシトロンは、顔を洗うために外に出た。その時にサトシも探してみようと思ったのだが、その姿を見つけることはできなかった。
「一体どこにいるんだろう……?」
ぽつりと呟いて、顔を洗う。
軽く髪を整えて、シトロンは調理を始めるためにテーブルを設置した。
――キィン
「……ん?」
固い金属音が聞こえた。つい最近聞いたばかりの音だった。妙な不安を掻きたてられる、高い音。
シトロンは顔をひきつらせた。
「まさか……」
想像して、身を固くした。昨日と同じようなことになって知るのではないか。昨日と同じように殺し合っているのではないか、と。
「た、大変だ……!」
シトロンが走り出す。
金属音は少し先にある茂みから聞こえてくる。
シトロンが茂みに飛び込んだ時、丁度音が鳴りやんだ。
「「ちっ」」
二重に聞こえた舌打ちに、シトロンが足を止め、すぐそばにあった木の後ろに隠れる。
木の陰から茂みの奥をのぞくと、曲がった鉄パイプを持ったシンジと、へこんだ金属バットを持ったサトシがいた。
おそらく狂気が使い物にならなくなり、殺し合いを止めたのだろう。
特に傷がないことを確認して、シトロンがほっと息をついた。
「さっさと殺やれろ」
「それはこっちのセリフだ」
サトシとシンジがにらみ合う。
凶器が使い物にならなくなると殺し合いをやめるようだから、今はもう殺し合いは行われないだろう。しかしながら不安である。
「…………っ」
唐突にシンジが顔をゆがめる。
右手をポケットに入れようとしたのを目ざとく見つけて、サトシがシンジの右手を引いた。
「……! おい!」
「血が出たのか」
「……少しな」
「ふぅん?」
サトシがシンジの右手を開く。
皮がむけて血が出たらしい。掌が赤く染まっていた。
しばらくそれを見ていたサトシが、おもむろにシンジの右手に顔を近づけ、べろ、と掌をなめた。
「…………っ!?」
驚きに目を見開いたのはシンジだけでなく、シトロンもだった。
右手をなめられ肩を震わせるシンジを楽しそうに見ているサトシなど、自分は知らない。
「吸血鬼か、お前は」
「…………」
――ガリッ
「い゛っ……!?」
シンジの強がりに、サトシが掌に歯を立てる。シンジが痛みに顔をゆがめた。
「貴様っ……!」
「じゃあ、手当てするか―」
「おい……っ!」
サトシがシンジの手を引いてテントへと戻っていく。
一連の様子を見ていたシトロンは、なんとも言えない表情を浮かべていた。
「……あの2人、本当に付き合ってないんですか……?」
「それが付き合ってないんだよねー」
「……いつからそこに?」
「”血が出たのか”の辺りから」
「そうですか……」
シトロンの呟きに、いつの間にか隣にたっていたシゲルが渇いた笑みを浮かべた。
遠い目をしたシゲルに、シトロンは思わずその肩に手を置いた。
おまけ
シゲル「それでね、そいつはシンジが好きだったから、シンジを傷付けたサトシが許せなくて、サトシに仕返ししようとしたんだよ」
シトロン「あの2人のあれは周りから見たら喧嘩ですからね」
シゲル「今は喧嘩なんて可愛いもんじゃんないけどね。それで、仕返しをしようとしていることに気づいたシンジがそいつに言ったんだよ。『サトシを殺すのは私だけだ。傷つけていいのも私だけだ。なぁ***。ギャロップに蹴られたくはないだろう?』って」
シトロン「蹴られるというか、踏みつぶされそうなんですけど」
シゲル「だよね」
セレナ「あの2人、仲良くなってるね」
ユリーカ「そうだね~」
セレナ「やっぱり男の子同士だからかなぁ?」
ユリーカ「かなぁ?」