激しい恋
今、目の前で行われているこれは、一体何なのだろうか?
サトシ一行は、サトシの幼馴染に会うために、待ち合わせとなった森に来たはずだ。それなのに、なぜその幼馴染同士で、殺し合いをしているのだろうか?
状況を整理しよう。サトシがいつものようにオーキドに定期連絡を入れると、そのオーキドが、サトシの幼馴染がプラターヌ博士の研究所に研修に行っているという。
話を聞く限り、彼の幼馴染はもう一人いるらしい。そのもう一人も、カロスにいるらしいのだ。
サトシはもちろん会いたがった。そして今日、お互いの都合が合い、再会できることとなったのだが……。
幼馴染と再会して、幼馴染の片方と目があった瞬間、サトシはリュックを投げ捨て、斧で襲いかかり、相手は鉈で応戦した。そして現在の命をかけたりあるファイトが勃発されることとなったのだ。
……うん、意味がわからない。
もう一人の幼馴染と言えば、呆れたような表情で2人の攻防を見つめていた。
鉈を持った幼馴染は、頭をたたき割ろうとするかのように鉈を振り下ろした。
サトシはそれを頭上で受け止め、斧を斜めに構え、鉈をいなす。そして斧を真横に払うと、幼馴染はそれを後ろに下がることでかわした。
2人が地を蹴り、鍔迫り合いを繰り広げれる。
そこで我に返ったシトロンたちが狼狽した。
「ど、どうしよう。止めないと……!」
「でもどうやって!?」
「止めなくていいよ」
オロオロとうろたえるシトロンたちを見かねてか傍観に徹していた幼馴染の少年が声をかけた。
呆れたように肩をすくめてサトシ達を見つめる少年に、セレナたちが顔を見合わせる。
「あの、止めなくていいっていうのは?」
「もうすぐ終わるから」
刃物から火花を散らし合っている2人を見るに、もうすぐ終わるとはとても思えない。しかし少年の落ち着き具合を見るに、そう慌てる事態ではないのかもしれないと思えてくる。
落ち着きを取り戻し始めたユリーカたちを見て、少年が苦笑した。
「2人が驚かせてごめんね? 僕はシゲル。研究員見習いの方のサトシの幼馴染さ」
「初めまして、シトロンです」
「ユリーカよ!」
「私はセレナ、よろしく」
「よろしく」
和やかにあいさつを交わし、ほのぼのとした空気が流れる。
けれども近くから聞こえる金属音に、すぐに我に返った。
「ところで、あの2人はどうしていきなりあんなことを?」
「仲が悪いの?」
「いや、むしろお互いが好きすぎて、かな?」
「え?」
シゲルの言葉にセレナたちが目を丸くする。
仲が悪いにしたって刃物を持ち出すなんて、よほどのことだ。好きならばなおさら。
理解しがたい、というような表情を浮かべる3人に、シゲルが苦笑した。
「今あっちでサトシとやりあってる奴、シンジって言うんだけど、あの子、ああ見えても女の子なんだよ」
「「「えっ?」」」
「それで、あの2人はお互いがお互いに恋愛感情的な意味で好きあってるんだよね」
「「「えっ!!?」」」
次々に飛び出てくる驚きのシンジ実に、シトロンたちに口がふさがらない。特にセレナはサトシには絶対に見せられないような顔をしていた。
セレナのサトシに対する想いと、その表情のひどさには見て見ぬふりをして、シゲルが続けた。
「サトシって頑固だろ? シンジも頑固な部類に入る人間でね? 元来の面倒くさい性分に加えて幼馴染って言う近すぎる立場にあるから、今更告白なんてできなくてさ、生きてるうちは素直になれないだろうっていう結論に達しちゃったんだよ」
「そ、それがどうしてあんなことに……?」
「それは僕にもわからないよ。あの2人、頭のネジが飛んでるもの」
やれやれ、と困ったように肩をすくめるシゲルに、シトロンたちは絶句した。
「どういう経緯を経てそこに至ったのかは知らないけど、相手を殺して一生愛でようっていう危険思想に陥って、その道を全力で突っ走っちゃってるんだよね。あの猟奇無自覚リア充共は」
「いやいやいや、さっぱりわかりません!!!」
「まぁ要するに、ツンデレこじらせたヤンデレってことだよ」
シゲルのまとめとともに、サトシとシンジの攻防にも終止符が打たれる。2人の刃物が刃こぼれを起こし、使い物にならなくなったところで、2人の過激すぎる愛情表現は幕を閉じた。
「出来るだけ完品のまま死なせてやるからさっさと私に殺されろよ」
「それはこっちのセリフ。早く俺に殺されろよ」
物騒な会話を繰り広げるサトシ達に、シトロンたちが目を向けた。
今までの攻防を見るに、親の仇を討ちロランとする2人に見えたが、話を聞いてから2人を見ればよくわかる。何故今まで気付かなかったのか不思議な蔵に、お互いに熱い視線を送りあっている。
刃物を持っている状態でも2人が好きあっているとわかるのだから不思議なものである。
「えーっと、こんな僕たちだけど、よろしくね?」
困ったように笑うシゲルに、シトロンたちはもちろん!と笑った。
「確かに驚きましたけど、普段は普通ですし、サトシがいい人だって知っていますから!」
「そんなサトシと幼馴染の人たちだもん、いい人たちだってわかってるから!」
「そうよ! それに、激しいサトシもぜんっぜんありよ!!!」
「「え?」」
「え? あ、何でもないの!」
「(強いなこの子たち……)」
楽しげに笑うセレナたちにシゲルが感心したように腕を組んだ。
類は友を呼ぶとはまさにこのこと。ネジが飛んだ奴の周りには、同じくネジが飛んだ奴が集まるのである。
おまけ
シンジ「自己紹介が遅れたな。トバリシティのシンジだ」
セレナ「初めまして! 私、セレナ」
ユリーカ「ユリーカよ! こっちはお兄ちゃんのシトロン」
シトロン「よろしく」
シンジ「ああ。……それにしても、綺麗な瞳をしているな」
ユリーカ「水色の目って珍しい?」
シンジ「こちらではあまり見ないな」
サトシ「……おい、欲しいとかいうなよ?」
シンジ「一番のお気に入りがあるのに、そんなこと言わない」
サトシ「…………(イラッ」
シゲル「やめて」
セレナ「え? 欲しいって……?」
サトシ「こいつゲテモノ趣味で、特に目が好きなんだってさ」
シンジ「ちなみに一番のお気に入りはシゲルの目だ」
シゲル「ほんっっっとにやめて!!!」
「「「(あ、この人、苦労してるんだな……)」」」