旅路を送る






シンジは旅の節目にトバリシティの育て屋に帰ってきていた。
シンジの旅の節目は長い。と言っても一週間程度であるが、マサラタウン在住の彼なんかよりはずっと長い間、家にとどまる。
その理由はポケモンたちの休息や調整。そして兄の手伝いをするためだ。
そしてゆっくりと次の旅に備え、新たな地方へと赴くのだ。
それがシンジのやり方だった。
今日は3日目の朝。そろそろポケモンたちの調整に入ろうかという頃あいだ。
ポケモンたちの様子をみに、シンジは庭に来ていた。


「ムクホー!」
「ん・・・?」


見慣れないムクホークが、ドンカラスと談笑している。
見慣れない、と言っても、この庭にいることが見慣れないだけで、そのムクホーク自体はとてもよく知っているポケモンだった。


――――――――サトシのムクホークだ。


サトシのムクホークは首にポシェットを下げていた。


「(ああ・・・。サトシも旅を終えたのか・・・)」


シンジに気付いたムクホークが、嬉しそうにシンジのもとに羽ばたいた。
シンジの前に降り立つと、シンジが翼をなでつけてムクホークをねぎらう。
手に擦り寄ってくるムクホークにかまいながらポシェットを受け取って中を確認すると、ポシェットの中には封筒が入っていた。


「(今度はどんな旅路を歩んできたんだろうな・・・)」


封筒の中身は写真だった。
飾り気のない封筒に入った、色鮮やかな写真。
それを受け取って、シンジは淡く微笑んだ。

子のやり取りは、実は数年前から行われている。
数年前、カロスを旅したときに、ハクダンジムのビオラに、シンジが写真を取らせてほしいとせがまれたのだ。
ビオラはポケモンたちに囲まれたシンジを撮影し、お礼としてその写真をプレゼントした。
それに『ハクダンシティにいる』というメッセージとともに、定期連絡代わりに実家に送ったのだ。
それが届いたとき、ちょうどシンオウに遊びに来ていたサトシに、レイジが写真を見せたのがことの始まりだった。
写真とメッセージのやり取りを「いいな」と思ったサトシが、文通ならぬ写真通をしようと言いだしたのだ。
ライバルの現状や歩んできた旅路が知りたい、シンジの書く字が好きだからもっと見てみたい、だとか、口説き文句まがいのことをさんざん言われたシンジが、恥ずかしくなって了承し、写真通は始まった。
けれど、お互いの居場所など知りえないから、旅の終わりに歩んできた旅路を実家に送りあう、という形で落ち着いたのだが。

やり取りの回数が少ないからか、面倒だということはなく、今の今までこのやり取りは続いていた。
シンジは封筒から中身を取り出し、丁寧に写真を見つめた。
新たな仲間が加わった時に1枚。
ポケモンをゲットした時に1枚。
バトルに勝ったときに1枚。
微笑ましい写真が続いている。
殊、微笑ましい写真は、ピカチュウやサトシのポケモンたちが一か所に集まって昼寝をしている写真だった。
メッセージには「これから俺も混ざる」と書かれていた。
わずかに口元を緩ませ、次の写真に目を向けようとした時、シンジが手を止めた。


「(ちょっと待て)」


あまりの愛らしさに見落としていたが、その写真には違和感があった。
もう一度写真を見て、シンジは絶句した。


――――――――ミュウとセレビィがいる


ピカチュウの横にはミュウが丸まっている。
その丸まっているミュウの横に、セレビィが眠っていた。


「・・・ムクホーク」
「ムクホ?」
「サトシはまだマサラタウンにいるか?」
「ムクホー!」
「そうか・・・。少し待っていろ」


ぱらぱらと写真に目を通しながらムクホークに尋ねると、ムクホークは笑顔でうなずいた。
一通り写真に目を通したシンジも、ふ、と笑みを浮かべた。

1枚はカイオウガの背中に乗って海を回遊する写真。
1枚はライコウの毛並みに埋もれる写真。
1枚は雪山でファイヤーで暖をとる写真だった。
他にも似たような写真が数枚おさまっていた。
一体どんな旅路を歩んできたらこんな写真が撮れるのか・・・。


「全部吐かせてやる」


そう言ったシンジの声はまさしく「地を這うような」と表現されるべき低音だった。
庭の温度が急激に冷え込んだのは地域柄だけではないだろうな、とムクホークがそっと合掌した。




















おまけ

「で、どういうことなんだ?」
『いや、俺がシンジに写真を送ってるって知った仲間が写真撮ってくれただけだけど・・・』
「俺が聞きたいのはそういうことじゃない。何故ライコウたちと出会ってるんだ、お前は」
『ふ、普通に旅してたら会わない・・・?』
「普通は会えん!一体どんな旅路だ!余計謎に包まれたわ!」
『え?でも。シンジも会ってるだろ?』
「あ?」
『前に送ってもらった写真にダークライとかエムリットたちが映ってたじゃん』
「・・・は?」




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