シンジがチートでニューゲームする話
逆行という世にも珍しい現象を体験することになって一週間が経過しようとしていた。
その間、兄貴や育て屋のお使いで言ったナナカマド研究所にも、どうやら逆行前の記憶を持つもんはいないらしい。
研究所に行ったときにもしかしたらナエトルがいるかもしれないと思ったが、そこにいたのは俺の見覚えのないナエトルで、正直に言うと少しへこんだ。
そのうっ憤を晴らすように体を動かしてみるも、狭い庭の中では運動量が限られてくる。
体力は17歳のままで、無意味に走りまわって見ても有り余っている。
バトルが出来ないのも苦痛だ。
しかし兄貴のポケモンを勝手に使うわけにはいかないし、ポケモンたちは(俺ももちろん手伝っているが)育て屋の手伝いがある。
仕事でポケモンを鍛えるためにバトルはするが、自分の満足するものではない。
あいつらなら俺の指示がなくてもバトルは可能だから、好きなだけバトルがせきるのだが、肝心のあいつらが俺の元にいない。
つまり俺は体力と余暇を持て余しており、いっそ死活問題なほど暇だ。
「(旅に出られたらいいんだがな・・・)」
そうしたらエレキブル達を探しながらカントーに行くのに。
こういう不測の事態で解決策になってくれそうな人物が、カントーにはごろごろいる。
しかし6歳。先は長い。
これならチャンピオンの責務をこなす方がよっぽどましだ。
思わず重いため息が漏れた。
「シンジ、暇そうだな」
「!兄貴・・・」
兄貴が困ったように笑った。
兄貴はトバリシティ唯一の育て屋で、それなりに有名な育て屋だ。
その分預かるポケモンも多く、忙しい。
その仕事を俺にも回してくれたら少しは気がまぎれるのだが、兄貴は俺を6歳の少女だと思っている。
当然、ブラッシングやフーズ作りくらいしかやらせてもらえない。
知識は17歳のものを有して言うので、今現在、俺より年下の兄貴よりたくさんのことを知っている。
もっと効率のいい仕事の回し方も知っているが、6歳が指摘できるような内容ではない。
兄貴が俺の髪を混ぜながら、言った。
「キャンプに興味はない?」
「キャンプ?」
「そ。オーキド博士のポケモンサマーキャンプ」
「!?」
オーキド博士と言うのは、カントーのオーキド研究所の博士で研究界の権威。
逆行前ではあるが、俺も何度もお世話になった博士だ。
そう言えば、時折キャンプを主催して子供たちにポケモンたちとのコミュニケーションの取り方を教えていると聞いたことがある。
兄貴が俺に見せてきたチラシを見れば、オーキド博士がカントーでキャンプを開催するらしい。
まさかのカントーに行くチャンスが到来したことに、俺は思わず絶句した。
「シンジ、どうする?無理に行けとは言わないよ」
「行く、」
「嫌なら、って、え?」
「キャンプ、行く」
「え?あ、うん、そ、そう?」
集団で行動することは苦手な子供だったという自覚はある。
キャンプなんて大人数で行い行事に興味を持つとは思っていなかっただろう兄貴が、呆然と俺を見ていた。
開催は一週間後。期間は3日間。
おそらくサトシも参加するだろう。
きおくがあるかはさだかではないが、何にせよ、当日が楽しみだ。
未だに首をかしげながら俺を見ている何気なんて、眼中になかった。