海に重ねて君を見つめる
サトシ達は今、セレナの提案で、コウジン水族館に来ていた。
普段見ることのできない海の中のポケモンたちの様子を、サトシ達は存分に楽しんでいた。
「いつもと違う姿が見れるっていいね!」
「水の中での暮らしなんて、普段見れないものね」
幼いユリーカが元気いっぱいに笑う。
それにつられるように、セレナも笑った。
「次はなんのポケモンかな?」
「楽しみですね!」
サトシがシトロンに笑いかけ、次の水槽へと移動する。
案内板には『西と東の海の共演』と書かれていた。
「『西と東の海の共演』・・・。素敵な響きね!」
「おっ!見えてきたぞ!」
次のエリアに進むと、まず出迎えてくれたのは水のアーチだった。
幾重にも折り重なったアーチの中を、ネオラントとケイコウオが楽しそうに泳いでいる。
それを見たサトシ達は歓声を上げた。
「すっげぇ!」
「ぴかぴー!」
「きれぇ・・・!」
「これはすごいですね!」
「ケイコウオ、かわい~!」
アーチの下をくぐりながら上を見上げる。
水の中にいるようだ、とサトシは眼を細めた。
「あ、見て!向こうに大きな水槽があるよ!」
「行ってみましょう!」
「おう!」
ユリーカが示した方向には壁一面に広がる大きな水槽があった。
サトシ達は眼を輝かせて、そちらに向かった。
その水槽では桃色と水色のポケモンが楽しそうに泳いでいた。
「西と東の海の共演ってトリトドンのことだったのか!」
「ぴっかぁ!」
水槽の中で泳ぐポケモンに見覚えのあったサトシは歓声を上げた。
サンゴのはりついた岩の上を這う水色のトリトドンと目が合い、サトシとピカチュウは嬉しそうに笑った。
「この子たちって同じポケモンなの?」
「そうだよ。生息する海によって姿が違うんだってさ。ピンクのが西で水色が東の海に生息してるんだ」
ユリーカの純粋な疑問にサトシが笑顔で答える。
ポケモンのことは大好きだが、物事を感覚で学ぶサトシの明確な説明に、セレナ達が面食らった。
「サトシ詳しいのね」
「初めて知りました」
「俺の知り合いにトリトドンを持ってるやつがいるんだ。そいつに教えてもらったんだよ」
目を細めて、サトシは穏やかに笑う。
懐かしむような優しい表情に、セレナたちの表情も綻んだ。
「その人って、どんな人なの?」
「うん。俺のライバルの女の子で、シンジって言うんだけど、バトルがすごく強いんだ!」
「・・・女の子?」
「おう!凄くきれいなやつなんだぜ!」
微笑ましげな表情で尋ねたセレナの顔が一変する。
サトシが女の子の容姿を褒めたのは初めてで、衝撃のあまり、セレナは硬直した。
「その子はどっちのトリトドンを持ってたの?」
「あいつは東の海のトリトドンを持ってたよ」
「そうなんだ!」
サトシが水槽を見つめる。
その視線の先には、水色のトリトドンがいる。
優しげな眼でトリトドンを見つめるサトシに、その人のことが大好きなんだな、とユリーカが口元に笑みを浮かべた。
「会ってみたいなぁ、シンジさん・・・」
「うん。俺も、会いたいなぁ・・・」
海の向こうにいるであろうその人を見つめるように、サトシが目を細める。
酷く幸せそうで、それでいて寂しそうな顔をするサトシに、セレナが拳を握った。
「(私のライバルにもなりそうね・・・)」
顔も見たことのないかの人に、セレナは闘志を燃やした。
絶対負けないんだから!と意気込むセレナの迫力に、シトロンが怯えていたのだが、それはまた別のお話。