とある少年の犠牲によって成り立つ世界
これは、とある”気付いた”少年の話。
片鱗はあった。
サトシがガブリアスを助けるためにプリズムタワーに上った映像は、全世界に向けて放送されていた。
プリズムタワーのかなり上階で、足場が崩れ、プリズムタワーから投げ出されたピカチュウを助けるために、躊躇なく飛び降りたという事実に、例え画面の向こうの出来事ながら、誰もが息を飲んだことだろう。
特に彼をよく知る彼の仲間たちは。
けれども、彼に連絡をよこすものはいなかった。
彼が個人のポケギアやポケッチを持っていないこともあるだろうが、それでも彼の母親に連絡することはできたはずだ。
彼の自宅の番号を知らないというのなら、彼の友人たる博士に連絡を取ることだってできたはずだ。
博士号を持つ権威たちの(もちろんプライベート用ではなく、あくまで仕事用の番号だが)研究所の電話番号は公にされているのだから。
サトシの安否だとか、その後の彼を知ろうとして連絡することくらい、いくらでもできたのに。
出来たはずなのに。
それをしたものは、誰ひとりとしていなかった。
そう、誰ひとりとしていなかったのである。
自分のライバルの愚かな行動に、説教の一つでもしてやろうとして、オーキド廷に連絡を入れたシンジは、その事実に戦慄した。
むしろ連絡を入れてくることを不思議に問い返されたのだから、狂っているとさえ思った。
「――――・・・恐ろしいな、」
誰ひとりとして、彼が自分の身を投げうつことに、何の疑問も抱いていないのだから。
「(いつかこの世界は、あいつを殺してしまうんじゃないだろうか?)」
気付いてしまった少年は、その事実に肩を震わせた。