サトシの本領発揮
サトシ達は、とある町の郊外にいた。
小さな町で、ポケモンセンターはなく、宿も旅のトレーナーでいっぱいだった。
溢れてしまったサトシ達は街の近くの森で野宿することを余儀なくされた。
デントたちは買い出しに行き、サトシは修業のために森に残っていた。
そして、特訓を終え、テントに戻ると、アイリスとデントが何やら雑誌を読みふけっていた。
「ただいまーって、何読んでるんだ?」
「あ、おかえり!これは月刊トレーナーよ!トレーナーのための雑誌なの!」
「今回はいろんな地方で活躍するトレーナーが特集されているんだ!」
「へぇ~!」
雑誌の表紙には『月刊トレーナー』と書かれ、モンスターボールがデザインされている。
少し小さい文字で「特集・活躍する子供たち!」と書かれていた。
どうやら、年齢を絞った特集を組んでいるらしい。
「これすごいのよ!もともとトレーナーだった子が、今は研究員として活躍してるんですって!」
「こっちもすごいよ。10歳の少年がリーグ優勝したんだって!」
そう言って見せられたのは特集ページの表紙らしき見開きだ。
そこにうつる2人の少年に見覚えのあったサトシとピカチュウは眼を見開き驚いた。
「シンジ!?シゲル!?」
「ぴかぴー!!?」
アイリスの手から雑誌をとり、2人の紹介ページを見る。
シゲルには『その才能はオーキド譲り!』
シンジには『その実力はチャンピオンの折り紙つき!』という煽り文が付けられていた。
シゲルの紹介分にはプテラの復元の成功を湛える文章が書かれており、最近はカロスでアマルスとアマルルガというポケモンの復元に協力したことが書かれていた。
シンジの紹介分にはシンオウリーグ優勝とフロンティアブレーン最強のジンダイに勝利したことが書かれており、結果は負けであったが、シロナを追い詰めたことを湛えられていた。
写真ではあるが、懐かしい顔ぶれにサトシが顔をほころばせた。
「ちょっ、サトシ・・・。どうしたのよ?」
「2人のことを知っているのかい?」
「ああ。俺の幼馴染のシゲルとライバルのシンジだよ」
だいぶ先を行ってしまったライバルたちに、サトシが嬉しそうに笑った。
しかし、デントとアイリスは訝しげにサトシを見つめた。
「それ本当なの?こんなすごい人たちとあんたが知り合い?」
「冗談にしてはスケールが大きすぎて面白くないよ?」
「本当だよ!シゲルについてはオーキド博士に聞けばわかるし、シンジについても公式の記録にバトルした記録は残ってる!」
「ぴかっちゅー!」
サトシの真剣な表情に、デントとアイリスが顔を見合わせた。
それからしぶしぶといったふうにうなずいた。
「分かった、信じるよ」
「そうね、信じるわ」
「!」
2人の言葉にサトシが顔を輝かせる。
けれど、2人は残念そうな顔をしている。
「でも、そうだとすると、この評価は過大評価ってことになるわね。サトシのライバルだもの。大したことなさそうだわ」
アイリスのつまらなそうな声に、サトシとピカチュウが硬直する。
デントも同意するようにうなずいた。
「確かにそうだね。10歳でリーグ優勝なんて・・・」
「きっとレベルの低いトレーナーしかいなかったから、まぐれで勝ち進んだのよ。シロナさんを追い詰めたっていうのも、きっとあまりの結果だったものだから記者さんがかわいそうに思ったんだわ!じゃなきゃ、ガブリアス使いのシロナさんを追い詰めるなんてできないわよ!」
この人がドラゴンタイプ使いなら別だけど!とアイリスが笑った。
デントもくすくすと可笑しそうに笑っている。
今度はシゲルが特集されたページを見て笑った。
「大体10歳の子供が復元なんてできるわけないのよ!」
「確かに怪しいよね。もしかしてオーキド博士の力を借りたんじゃ・・・」
「きっとそうよ!自分の実力を偽るなんて子供ねぇ」
――――ブチィッ!!!
シンジとシゲルの功績を怪しむ2人に、サトシの中で何かが切れた。
何がわかるっていうんだ。実際に会ったこともない相手なんて。
けれど自分は知っている。
研究の道を進むと決めた彼が、その道だけをまっすぐ見つめ続けていたことも。
強くなりたいと願い、より高みを目指す彼の努力も。
全部全部知っている。
だから、
何も知らないお前らが、好き勝手いうのは許さない。
「みんな!力を貸してくれ!!!」
「「!!?」」
突然空に向かって吠えたサトシに、デントとアイリスが目を丸くする。
目を白黒とさせて、それから怒りをかたどった表情を向けた。
「ちょっと!びっくりしたじゃない!いきなり叫ぶなんて、子供ねぇ!」
「そうだよ。びっくりしたじゃないか」
言外に謝れ、と言っている2人に、サトシが冷たい目を向けた。
怒った2人の沸騰した頭が、一瞬で冷めるくらいの、冷たい目だ。
「ま、まぁ、別にいいけど。でも何で叫び出したのよ?」
「うん。2人の実力を分かってもらうためにみんなの力を借りようと思ってさ」
「は?」
ぽかんと口をあける2人に、サトシが満面の笑みを向けた。
「シゲルがちゃんと復元したっていうのと、俺とシンジが戦ったリーグ戦、あとこの雑誌に取り上げられてるリーグ戦も見に行こう。その前に見てもいいか2人に確認を取らないとな。それからオーキド博士とシロナさんのところに行こう。2人の実力は本物だって証明しないと・・・」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、サトシ!」
「そ、そうよ、待ちなさいよ!リーグ戦はともかく、復元の様子が記録として残ってるわけないでしょ!!」
何を言ってるんだ、と2人が呆れをにじませた顔でサトシを見た。
けれどもサトシは笑みを深めて言うのだ。
「見れるよ。俺の友達の力を借りれば、」
「はぁっ!?そんなことできるわけないでしょ!過去を見るなんて、神様くらいしか・・・」
「できるよ」
――――俺の友達ならね、
ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
幾重にも重なった叫び声が響く。
空から降ってきた声に空を見上げれて、アイリスたちは呆然とした。
――――アルセウス、ギラティナ、セレビィ、ミュウ、レックウザ、ディアルガ、パルキア、ルギア、ホウオウ・・・
まだまだたくさんの伝説のポケモンたちがサトシの元に集まってきていた。
「これでわかっただろ?こいつらの力を借りれば、時を渡ることも、空間を超えることもできる」
本当はこんなことでこいつらの力を借りたくなかったんだけど、と口の中で呟いて、サトシは満面の笑みで言った。
「さ、行こうぜ?ちゃんと証明してやるから」
――――あいつらの実力が本物だってことをさ、
サトシの笑みに、アイリスとデントが震えあがった。
何があったかは定かではないが、その日以来アイリスとデントが他人や他人のポケモンを見下すことはなくなったという。
むしろ蔑むような物言いをとがめるようになったものだから、サトシは嬉しそうに笑っていたということだ。
めでたし、めでたし。