線に触れる
「シンジ、それどうしたの?」
あの後サトシは、偶然を装ってシンジと合流した。
しばらくは他愛ない会話を楽しみ、そして、たった今気付いたというように、シンジの頬に触れた。
「別に」
頬の赤みに触れると、シンジはすぐにその手を払い、サトシの前から立ち去ろうとした。
「ちょ、待てよ!」
サトシがシンジの腕を引くと、シンジは簡単にサトシの腕の中におさまった。
シンジは、この問題を一人で片付けようとしているのだろう。
シンジはいつもそうだ。
こういった問題に対しては、いつも自己完結で物事を終わらせてしまうきらいがある。
前にも一度、こんなことがあった。
自分の好きな人に惚れられているシンジのことが許せなくて、逆恨みした少女が、あらゆる手を使ってシンジを傷つけようとしたのだ。
その時も、シンジは一人で解決しようとしていた。
そうしてその時も、こうしてシンジの腕を引き、シンジを引き留めたのだ。
その時は、予想外に簡単に自分の腕におさまったことに、サトシはひどく驚いた。
シンジは強い。バトルだけでなく、格闘技とか、そういった面でも。
けれどもいくら強いと言っても、シンジは女の子だ。
男の力の前では、こんなにも弱くて、少しでも力を込めれば、あっさりとシンジを独占できるのだと知った。
そうして、我慢できなくなった。
――――シンジを自分だけのものにしたい
そんな思いがあふれて止まらなくなった。
そんな思いがあふれてしまってからは、許せないと思うことが多くなった。
今回も、シンジを傷付けた相手のことも、自分以外には関係ないというように、自分だけで事を解決しようとするシンジのことも。
許せなかった。
――――シンジは俺のものなのに、
そう思うと、シンジを抱きしめる腕に、自然と力がこもった。
「サトシ?」
腕の中に閉じ込められたシンジは為すすべもなくサトシを見上げた。
「俺を頼ってよ」
「は?」
サトシが真剣な目でシンジを見つめると、シンジは呆れたように肩をすくめた。
「意味がわからん。お前に頼らなければならないほど困ってなどいない」
「・・・じゃあ、困ったことがあったら俺を頼ってよ」
「お前の力が必要だと感じたらな」
「・・・それでいいよ」
そう言って、サトシはシンジを離した。
シンジはそのまま、軽くサトシに片手をあげて、その場を立ち去った。
そんなシンジを見送って、シンジの背中が見えなくなると、サトシは肩を落とした。
「(これは・・・絶対に頼ってくれないなぁ・・・)」
サトシは深いため息をついた。
「(ま、俺がシンジが困らないように、原因を消せばいいだけなんだけど、)」
――――あいつらはどうしてやろうかなぁ・・・?
サトシはうすら寒い笑みを漏らした。