2人のみこ 2
――――――古代の遺跡。
それはセキタイタウン郊外にあるイベルタルの眠る場所。
サトシ達は、イベルタルとともに、古代の遺跡に来ていた。
「皆で一緒に歌おう。ゼルネアスだけじゃなく、セレナたちも」
「え?でも私たちは・・・」
サトシの申し出に、セレナたちが渋った様子を見せた。
けれども、眠たそうなイベルタルが、セレナたちを優しく見つめた。
『聞かせて?僕、皆と遊んだの、楽しかった。皆のことも、夢に見たいよ』
「イベルタル・・・」
「わかりました。僕たちも一緒に歌います!」
「頑張って歌うから、ちゃんと聞いててね、イベルタル!」
『うん!』
「それじゃあ、行くぞ」
すう、と、息を吸い込んだ。
――――――静かにただ 見つめてた 小さきもの 眠り顔
――――――眉間にしわ 少しだけ寄せてる 怖い夢なら 目を覚まして
――――――水がこわくて しり込みしてた あの夏が よみがえるよ
――――――背中押されては やっと泳げた まるで 昨日みたいです
サトシ達の声が重なり、一つの歌声となる。
木々のさざめきや森の生きる音がサトシ達の歌声に合わせるように聞こえてくる。
大好きな人たちの、自分を想って唄ってくれる子守唄に、イベルタルは幸せを感じていた。
――――――声が 聞こえる
――――――ゆくべき道 指さしている
――――――さらさら流る 風の中でひとり
――――――わたし うたっています
『ありがとう、皆・・・。皆のおかげで、いい夢が見れそう』
「よかった!」
「おやすみ、イベルタル」
『よい夢を』
『おやすみ、みんな・・・』
イベルタルはくるりと体を丸め、一つの繭となり古代の遺跡の中で眠りについた。
その寝顔は幸せそうで、きっといい夢が見られることだろう。
「眠っちゃったね・・・」
「そうですね・・・」
「でも、幸せそうだよ」
「幸せだよ、あいつは」
「!シンジ・・・」
「私には、わかる」
イベルタルの心から伝わってくる。
しあわせの心。
イベルタルは、ゼルネアスの願いの通り、笑顔で、幸せの中で眠りにつくことが出来た。
今はきっと、優しい夢を見ていることだろう。
自分の片割れがしあわせの中で眠りに落ちたことを確認し、ゼルネアスが笑みを漏らした。
『ありがとう、我が娘よ。そしてわれらが心の友、サトシ。そしてその友人達よ』
「当然だろう?私はお前たちの娘だ」
「そうそう!友達なんだから、これくらい当然だって!」
「私たちももう友達よ!」
「そうですよ!」
「こんなことくらいお安い御用よ!」
『・・・感謝する』
ゼルネアスがたーんと地面をけると、そこから命が芽生え、大輪の花が咲き乱れた。
その美しさに見惚れている間に、古代の遺跡は花で埋め尽くされ、花畑が出来上がっていた。
『心から感謝する。我ら対の友人達よ!』
ゼルネアスはたーんと軽い音で大地を踏みならし、花を咲かせながら森の中へと消えて行った。
「ゼルネアスも行っちゃったね」
「そうですね」
「仕方ないさ。あいつは生命の循環には必要な存在だからな」
「破壊と癒し・・・。確かに、生命の循環には、その2つが必要なのかもしれませんね・・・」
「この世に不必要なものなどありはしない。必要だから生まれてくるんだ」
――――――だからイベルタル、目覚めなければよかったなんて、そんなことはあり得ないんだ。
そう言って、シンジは古代の遺跡で眠りについたイベルタルに笑いかけた。
「さて、イベルタルは眠らせたし、ゼルネアスの願いはかなったし、旅を続けようぜ!」
「目指すはシャラジムね!」
「よーし!シャラジム目指してレッツゴー!」
「「「おー!!!」」」
サトシ達は命あふれる道を、あふれんばかりの笑顔で進んでいった。
たった今歌ったばかりの、しあわせの子守唄を口ずさみながら。