歩くバトルフロンティアと呼ばれる2人の少年
バトルフロンティアがメジャー施設になって早数年。
バトルフロンティアにタッグバトル専用のバトルフロンティアが出来た、という話題は今現在、トレーナーたちの間で持ちきりだった。
「できた」と言っても、固定の施設を持たず『歩くバトルフロンティア』として世界中を旅しているのだという。
聞けば十代前半の少年らしい。
その2人に勝てば、一気に2つのシンボルが手に入るという話だ。
俺は一緒に旅をしている幼馴染の友人と、そのフロンティアに挑戦することを決めた。
こう見えて、俺も友人も、フロンティアシンボルは4つずつ持っている。
苦戦を強いられているが、なかなか順調にシンボルを増やしていってる。
リーグでも本選に出場できるだめの実力はあり、最高はベスト4。
友人も準優勝を経験している。
十年来の幼馴染で、息も合っている。タッグバトルは、俺たちの最も得意とするバトル方式だ。
ブレーンと言っても、同い年くらいのトレーナーに負けるわけがないと思っていた。
それは思いあがりとかではなく、長年の旅で得た知識と、時にはけんかもして得たポケモンたちとの固い絆。
挫折から立ち直ることで強くなった精神。
それらがすべて自信となって、俺と言うトレーナーを作っていた。
同い年くらいというのだから、旅した地方の数も、そう変わらないだろうと、たとえ負けたとしても、いい勝負にはなるだろうと、そう思っていた。
だから、本能的に”勝てない”と悟る瞬間が来るとは思ってもみなかった。
「おっ、シンジ!来たみたいだぜ!」
「そんなことは見ればわかる。少しは落ち着け」
「だって、久々の挑戦者だぜ?燃えてくるだろ!」
「久々なのは当たり前だろう。俺たちが旅をしながらフロンティアブレーンを務められるように意図的に挑戦者を減らしているのだから」
穏やかな雰囲気で話す2人の少年。
同い年くらいだと思っていたが、年下かもしれない。
背もそんなに高くないし、がっしりした体形というわけではないから、そう見えているだけかもしれないけれど。
一人は元気いっぱいで、日焼けした肌がいかにも旅のトレーナーらしさを醸し出している。
ヒマワリのような笑みを浮かべて、その方にはちょろちょろと動き回る元気で愛らしいピカチュウ。
もう一人は大人しそうで、落ち着いた雰囲気を持つ少年。
旅のトレーナーとはとても思えない肌の白さを誇っている。
日向ぼっこをしているドダイトスの甲羅に腰掛け、足を組んでいた。
何もかもが正反対に見える。
正反対すぎて反発しそうなくらいだ。
あれだけ違うと逆に息が合うのだろうか?
冷静に観察しながらも、俺は冷や汗が止まらなかった。
一見穏やかに見えるが、ブレーンの2人の集中力は、すでに極限状態だ。
だからこそ逆にリラックスしているのだろう。
見た目とは真反対の圧倒的な威圧感に、足が震えた。
「(こんな感覚に陥ったのはチャンピオンのエキシビジョンマッチを見に行った時以来かな・・・)」
その時は凄まじい威圧感は感じたが、足が震えるようなことはなかった。
多分、その威圧感をこちらに向けられたら足がすくんでしまっただろうけれど。
「さて、」と明るい少年がこちらを向いた。
どうやら、会話がひと段落ついたらしい。
「まずは自己紹介をしなきゃな!俺はバトルワールド・ワールドストレンジャーのサトシ!こっちは相棒のピカチュウ!」
「ぴかっちゅー!」
「同じくバトルワールド・ワールドウォーカーのシンジだ。俺の相棒はこのドダイトスだ」
「ドッダ」
方や笑顔。方やすまし顔。
けれどもその表情では隠しきれないさっきにも似た、獰猛な気配がにじみ出ている。
彼らは挑戦される側であるはずなのに、まるで挑戦者のようだ。
バトルがしたくてたまらない。ぎらついた瞳が物語っている。
「(どうしよう・・・。逃げたい・・・)」
正直このバトル、ものすごく逃げたい。
腰が引けてるのが自分でもわかる。
強い相手とバトルしたい。その気持ちはある。
けれども彼らの期待にこたえられる気がしない。
というか、喰い殺されそうなほどの殺気に生物としての本能が逃げろとささやいている。
彼らとバトルしたい。けれども勝てる気がしない。
何より生物としての本能が、相手を格上だと認識してしまっている。
そんな状態で勝てるわけがないのだ。
もっと強くなってから出直してもいいですか。
そういいたいけれど、バトルが始まるのを今か今かと待ち望んでいる2人にそんなこと言えるわけがない。
「(逃げるという選択が出来ないことに絶望する瞬間が訪れようとは・・・っ!)」
うなだれる俺の肩を友人が叩く。
顔を上げると、友人はさわやかな笑みを浮かべて、ぐっ!と親指を立てた。
――――献上金の準備はできてる!
――――相棒・・・!お前・・・っ!
――――強くなって、また挑戦しようぜ?今は、当たって砕けよう。
そうだ。目があったらバトル。売られたバトルは買うのが礼儀。
バトルを売ったのは俺たちだ。
逃げるなんてトレーナーとしてのプライドが許さない。
2人でブレーンの少年らを見やれば、俺たちの空気が変わったことに気づいたらしい。
2人はにっと笑った。
「フィールドはその名の通り、この世界!使用ポケモンは3体!」
「交代はチャレンジャーのみ認められる。全てのポケモンが戦闘不能になった時点でバトル終了だ」
ルール説明が入る。
どうやら審判はいないらしい。
まるで野良試合だ。
俺は友人と2人でうなずきあって、ボールを取りだした。
「「バトル、お願いします!!!」」
「「おう!」」
タッグバトル専用バトルフロンティア・バトルワールド。
固定の施設を持たず『歩くバトルフロンティア』として世界中を旅している。
2人は旅をしているから固有のフィールドを持たないって言っていたが、その日俺たちは、その理由を知った気がした。
――――ただのバトルで山が一つ消し飛ぶとは思わなかったなぁ・・・。
平らになった山を見つめながら、俺たちは立ち尽くしていた。
結果は言われなくとも分かるだろう?
「俺たちがあの2人に再戦できる日が来るのはいつになるんだろうなぁ・・・」
「言うな」
勝てる気がしない。