2人のみこ 2
「サトシとシンジが、神のみこ・・・?」
2人はすべた話した。
自分たちが神のみこであること。
対となる存在であること。
イベルタルはある周期に目を覚まし、自分たちが眠りにつかせる約束をしていること。
その関係でイベルタルは生まれてからほとんど眠りについており、まだまだ幼い子供であること。
破壊の力を望まずして得てしまった、哀れなポケモンであるということも、全て。
「なんだか、スケールが大きすぎて・・・」
「ですね・・・」
セレナとシトロンは、頭が追いつかないのか、呆然としたように2人を見つめていた。
けれども幼いユリーカは、目を輝かせて2人を見つめていた。
「2人ってすごいんだねぇ!イベルタルもまだ子供なのに大きいねぇ!」
『僕は子供じゃないよ。シンジのお父さんなんだから!』
「あ、そうだった」
えへ、と舌を出してユリーカが笑う。
それに和んだセレナたちが、表情を和らげてサトシ達を見つめた。
「まだうまく理解できないけど、イベルタルは私たちの思っていたような危険なポケモンじゃないってことはわかったわ」
「サトシ達の友達に、悪い人はいませんよね」
「ありがとう、セレナ、シトロン、ユリーカ」
『ありがとう、サトシの仲間たち!』
イベルタルが、サトシやシンジごと、シトロンたちも大きな翼で包み込んだ。
3人は驚いていたが、予想外に優しい抱擁とイベルタルの暖かさに、自然と顔をほころばせていた。
「じゃあ仲直りもしたことだし、遊ぼうぜ!」
「「「さんせー!」」」
最初はだるまさんが転んだで遊ぶことになった。
鬼ごっこではイベルタルを捕まえられないし、かくれんぼではイベルタルが隠れられないからだ。
最初はサトシが鬼になったのだが、「転んだ!」とサトシが振り向いたときに丁度片足を上げていたイベルタルがバランスを崩し、尻もちをついた。
その衝撃で周りにいたシトロンたちも転び、結局は全員が鬼となった。
「もう、イベルタルったら~!」
『ごめ~ん!』
次が花一匁だ。
「「「イベルタルがほしい!」」」
「「「ユリーカが欲しい!」」」
「「「じゃんけんしましょ」」」
「「「そうしましょ」」」
サトシ、シトロン、ユリーカ、デデンネのチームがイベルタルを選択し、シンジ、セレナ、イベルタル、ピカチュウのチームがユリーカを選択した。
2人はじゃんけんをすることになり、少し離れたところでサトシ達はじゃんけんの勝敗を眺めていた。
イベルタルは翼のため、翼を出した時にツバサが現している手を口で言うことになっている。
「『さーいしょはグー、じゃーんけん、』」
『パー!』
「きゃうっ!?」
イベルタルが翼を出した時に巻き起こった風で、ユリーカがころりと尻もちをついた。
イベルタルやシトロンたちが慌てるが、ユリーカは何事もなくむくりと体を起こし、はじけたように笑った。
「イベルタルすご~い!ユリーカぐらいならイベルタルの羽ばたきで空も飛べちゃいそう!」
『僕は力が強いからね、小さい子だったら飛ばせちゃうね』
「ユリーカ、空飛んでみたい!」
ユリーカが楽しそうにはしゃぐ姿に、イベルタルが嬉しそうに笑う。
「空か・・・。よし、じゃあ空中散歩に行こうぜ!」
『いいよ!僕が連れて行ってあげる!』
「「「やったー!」」」
ユリーカ、セレナ、シトロンを背中に乗せ、イベルタルが高く飛び立つ。
サトシはシンジとともにドンカラスにまたがり、イベルタルの前を飛んでいた。
「綺麗な景色~!」
「イベルタルはいつもこんな景色を眺められるんですね!」
「いいな~!」
『ふふ、いいでしょ』
イベルタルが嬉しそうに笑うのを見て、サトシとシンジは顔を見合わせて嬉しそうに笑った。
「よかったな、イベルタル」
「ああ・・・。これなら、いい夢が見られるだろうな・・・」
楽しげなイベルタルの心が伝わってくるのか、シンジもいつになく機嫌がいい。
自分の片割れが幸せそうに笑っているのを見て、サトシも満面の笑みを浮かべた。
「そうだ、サトシ」
「ん?」
「あいつを、呼んでくれないか?」
「!ああ!」
シンジがサトシにハーモニカを差し出す。
それを受け取って、サトシはハーモニカを吹き始めた。
~~~♪~~~♪
サトシの奏でる『神降ろしの曲』が風に乗って森を超えて行く。
その音色にうっとりと目を細め、シンジが空を見上げた。
「綺麗な曲・・・」
「サトシって楽器も吹けるんですね」
「何ていう曲なのかな?」
『これはね、神降ろしの曲だよ』
「神降ろしの曲?」
『そう、』
イベルタルがサトシの演奏に耳を傾ける。
それに合わせるように、セレナたちも目を閉じて、ハーモニカの音に聞き惚れた。
『僕たちにここにきてって語りかけてくれる、とってもとっても優しくて、暖かい曲なんだよ・・・』
――――――たーん、たーん、と森の中に軽やかな音が響く。
その音が通った後は、生命が活気づいていた。
草は成長し、花は開き、木々が嬉しそうな音を奏でる。
その音の主はイベルタルと対をなす存在、ゼルネアスだ。
ゼルネアスは、サトシの奏でる曲に呼ばれて、彼の元に参じた。
『あ・・・』
その存在に気付いたイベルタルは、思わず声を漏らした。
「あれは・・・」
「もしかしてあれがゼルネアス?」
『うん・・・。サトシ、呼んでくれたんだ・・・』
イベルタルが、嬉しそうに眼を細める。
柔らかい表情になったイベルタルに、セレナたちも優しい笑みを浮かべた。
『ね、降りていい?』
「ええ、どうぞ」
イベルタルが、ゆっくりと降下する。
ゼルネアスから少し離れた位置に降り立ち、セレナたちが背中から降りるのを待つ。
3人が完全に降りたのを確認して、イベルタルがゼルネアスに駆け寄った。
サトシ達は彼らの邪魔にならないよう、セレナたちの近くに降り立った。
『久しいな、イベルタル』
『うん、久しぶり』
『元気そうで何よりだ』
『ゼルネアスもね』
和やかな空気で会話が紡がれる。
自分の対となる存在の元気な姿に、双方ともに笑みを浮かべた。
『あのね、ゼルネアス』
『何だ?』
『ありがとね』
『何故?』
『いつもサトシ達にお願いしてくれてありがとう。僕の幸せを願ってくれて本当にありがとう』
『そんなことは当たり前だろう?自分の片割れの幸せを、なぜ願わない』
『ふふ、それでも、ありがとね』
『ふ・・・、どういたしまして』
そこにいたのは癒しを司る神でも、破壊の化身でもない。
ただ大切な者の幸せを願う、どこにでもいる普通のポケモンたちだった。
『あのね、ゼルネアス。一つ、わがまま言ってもいい?』
『ああ・・・。何だ?』
『サトシたちと一緒に、子守歌、唄って欲しいなぁ・・・』
『!』
『僕、もう眠くなってきちゃった』
眠たそうな目でゼルネアスに甘えるイベルタルは、ただの子供。
イベルタルの望みに驚きながらもゼルネアスがもちろんだとうなずけば、イベルタルは嬉しそうに笑った。