イッシュ消滅の危機
『サトシを私たちの世界に連れていく』
そう言ったのはアルセウスだった。
アルセウスはオーキド研究所の庭にいた。
彼の他にもたくさんの伝説のポケモンたちが怒りをあらわにし、裏庭に集まっている。
この庭の持主たるオーキドは、サトシから話を聞いていたため、特に驚くこともなく、ただ人目につくことのないよう注意して過ごすのなら、と庭に滞在することを許可したのだ。
(この際ケンジに「規格外すぎる・・・」と呟かれたが気付かないふりをしておいた)
そんな彼らの前に、サトシのポケモンたちと相棒のピカチュウがいた。
何故彼らと、そしてピカチュウがカントーのオーキド研究所にいるのかというと、それはもちろん伝説にポケモンたちが自身らのチート能力を発揮してここに連れてきたからだ。
そして、その理由は冒頭の言葉とともに説明させていただこう。
サトシは今、イッシュを旅している。
道なる土地にサトシは夢と希望を持って旅を始めた。
しかし、待っていたのはつらい現実だった。
イッシュについてすぐにピカチュウは不調に陥り、新人に自分の故郷を田舎だと罵られ。
ポケモンを総とっかえしろだとか、川に突き落とされたりだとか。
今までにも辛いことはたくさんあった。けれども今回の地方はその頻度が高すぎる。
サトシは疲れてしまっていた。
そんなサトシを見ていられなくなった伝説のポケモンたちが、サトシを自分たちの世界に連れていくために、サトシのポケモンたちに許可をもらいに来たのだ。
もちろん、サトシのポケモンたちも一緒に、
『サトシは人間とともにいるから、あれほどまでに苦しんでいるのだ。サトシは私たちの世界に来た方が、幸せになれる』
伝説のポケモンたちを代表したアルセウスの言葉に、後ろに控えた伝説のポケモンたちが深くうなずいた。
彼らの言葉を黙って聞いていたサトシのポケモンたちは、
――――代表して、ピカチュウはふ、と口元を緩めた。
『それはいい案だね!
何ていうと思ってんのかアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
にっこりとかわいらしく笑ったピカチュウが、表情を一変させる。
鬼と呼ばれてもおかしくはない恐ろしい形相とともに、伝説のポケモンにも引けを取らない雷を落とした。
アルセウスたちのいた地面が派手にえぐれ、クレーターを作っている。
避けていなかったら、自分たちは黒焦げになっていただろう。
あれ?ピカチュウって不調じゃなかったっけ?とアルセウスたちは青い顔で首をかしげた。
『サトシはねぇ、ポケモンを愛してるの。でも、それと同じくらい人間が大好きなの。そんなサトシからどちらかを奪ってみなよ。サトシの悲しむ顔が目に浮かぶようだ。
サトシにそんな顔させたら・・・』
――――潰すよ?
『それでも無理やり連れて行こうっていうんなら、僕たちサトシのポケモンが黙っちゃいないよ・・・?』
そう言って笑うピカチュウの後ろには、伝説のポケモンに臆さず威嚇するサトシのポケモンたちがいる。
その強者の気配を漂わせたポケモンたちの殺気に伝説のポケモンたちが後ずさる。
その中で、ひときわ鋭い殺気を放っていたピカチュウが、ふっと殺気を緩めて笑った。
『まぁでも、何もしないっていうのも我慢ならないよね。怒ってるのは僕たちも一緒だし』
――――怪我をさせないよう、僕たちの邪魔をしないようなら、自由にやってもいいよ?
悪魔の微笑みに、伝説のポケモンたちが目を輝かせる。
早速、と、我先に駆け出した伝説のポケモンたちを見て、ピカチュウが微笑ましく目を細めた。
それから、ゆっくりとフシギダネを振り返った。
『ねえ、フシギダネ。僕と一緒にイッシュに行かない?』
『・・・あ?』
『一緒に、
――――イッシュを滅ぼさない?』
ピカチュウの突然の提案に、フシギダネが目を見開く。
穏やかな怒りを湛えた眼に、一瞬臆されるも、すぐにフシギダネも口角を上げた。
長年の付き合いで彼は悟ったのだ。
ピカチュウが伝説のポケモンたちに釘を刺したのは、サトシを傷つけた相手への制裁を、彼らに譲る気がないからだ、と。
『いいね・・・。全力で暴れてやんよ!』
『ふふ、そうこなくっちゃ』
黄色い悪魔と研究所の用心棒がタッグを組んだようです。
怒りに燃えていたサトシのポケモンたちが、気の毒そうに空を見上げた。
――――明日にはイッシュ、なくなってるんじゃないかなぁ・・・
楽しげに笑う2体に、顔も知らないイッシュのトレーナーに、同情しないでもない。
けれども自分たちの大切な主を傷つけたのだから、それは自業自得というもの。
どう説得して自分もイッシュに連れて行ってもらおうか。
次の瞬間にはそんな画策をしているサトシのポケモンたちだった。
――――イッシュ終了のお知らせです