神隠し






サトシは不思議な空間にいた。
どちらが上か下か、右か左かもわからないような、青と紫が入り混じったような空間だった。
その空間にはサトシのほかに、ディアルガとパルキアがいた。
はじめは驚いていたが、今ではすっかり見慣れてしまった光景だ。
ああ、またか、とサトシは苦笑した。


「どうしたんだ?また遊びたくなったのか?」


サトシがたずねると、2匹はその通りだというようにうなずいた。
すりすりと頬をすり寄せられ、サトシが2匹の頭をなでる。


「じゃあ、何して遊ぼうか、」


そう言ってサトシが笑うと2匹は嬉しそうに顔を輝かせた。


―――ぎゃああああああああああああああああああああ!!!


その時、すさまじい叫び声声とともに、青と紫の空間が歪んだ。


「またサトシを連れ去ったのか、お前たちは」


空間のゆがみからアルセウスとギラティナ、そしてアルセウスたちを伴ったシンジが現れた。
凛とした声が響くと、ディアルガとパルキアがサトシの後ろに隠れた。
彼らにしたらサトシの背中は小さすぎて、隠れられていないけれど。


「シンジ!?どうしてここに・・・」
「オーキド博士から頼まれて、そこにの2匹を説教しに来た」


鋭い目を向けられた2匹がびくりと体を縮める。
かわいそうに想ったサトシが、まァまァとシンジを落ち着かせるように苦笑した。


「あ、あんまり怒らないでやってくれよ?こいつらだって悪気があったわけじゃないんだから・・・」
「そんなことはわかっている。しかし、だめなものはだめだと教えなければ、そいつらはそれを繰り返す。お前がそうやって許容するからそいつらは何度も繰り返しお前を連れ去るんだろうが」


シンジがサトシを睨む。
サトシはそっと目をそらした。
母親にいたずらがばれた父子のようだ、とアルセウスは思ったが、シンジの説教がこちらにも飛び火しかねないので、想うだけにとどめる。
隣に座り込むギラティナは思わず口に出してしまったが、サトシとシンジはポケモンの言葉がわからないのでおとがめはなかった。


「で、でも・・・」
「お前が突然いなくなったことで、ユリーカというやつが泣き出したそうだが?」
「ユリーカ!?」


幼いユリーカが泣いていたという事実に、サトシが青ざめる。
急に、それも目の前で仲間が消えたのだから、驚くのも当然だ。
特に、幼いユリーカは、サトシが消えた事実を受け止められず、泣き出したのだろう。
彼女らには、自分が突然いなくなる可能性を話していなかった。


「ま、まじか・・・」
「まじだ。お前が突然いなくなるたびにそいつが泣き出すことになるが・・・、お前はそれでいいのか?」
「だ、駄目だ!」


駄目だ、ときっぱり言い切って、サトシがあ・・・、と声を漏らした。


「なら、決まりだな、」


ニィ、と口角を上げたシンジに、やられた、とサトシが頭を抱えた。
ユリーカが泣いているというのは事実だろうが、それをえさにうまく誘導されてしまった。
怯えるディアルガとパルキアにごめんと心の中で謝りながら、サトシはそっと両手を合わせて合掌した。


































サトシはアルセウスやギラティナとともにシンジの説教姿を眺めていた。
思わず耳をふさぎたくなるような正論の嵐にディアルガとパルキアがうなだれる。
ごめんなさいと謝るように2匹がシンジに擦り寄った。


「・・・ディアルガとパルキアってよくシンジに怒られて怖がっているけど、シンジのこと大好きだよな」
『それはそうだろう。自分たちのことを思って叱ってくれているとわかっているのだから』
「シンジってわかりにくいようでわかりやすいよな」
「きゅるるるるるる」


サトシの何げない言葉にアルセウスとギラティナが同意する。
その時ちょうどシンジがくるりとこちらを振り向き、3人は居住まいを正した。


「次からはアルセウスかギラティナを通じてお前に知らせてからお前をこちらに呼び出すことになった。お前たちもそれでいいな?」


シンジの言葉にアルセウスとギラティナが目を見開く。
それからギラティナが嬉しそうに鳴き、アルセウスが目を細めた。


「やっぱシンジって優しいよな」
『そうだな』
「?何か言ったか?」
「ん?みんなシンジのことが大好きだよなって話!」
「はぁ?」


ギラティナに擦り寄られ、話を聞き逃していたらしいシンジが首をかしげる。
サトシが楽しげに答えればシンジはいぶかしげに眉を寄せた。


「俺はシンジが好きだぜ!シンジは?」
「・・・無関心ではないな」
「・・・?」


サトシの問いに答えたシンジの言葉が理解できずにサトシが首をかしげる。
どういう意味だ?とアルセウスを見上げれば、アルセウスが微笑ましげに言った。


『とある古い人間が言っていた言葉だ。好きの反対は嫌いではなく無関心だと。つまりシンジに取ってお前はどうでもいい存在ではないということだ』
「・・・っ!!アルセウス!!」


シンジが咎めるような声を上げる。
きっ、とアルセウスを睨むが、目元が赤くなった状態では、その効果も半減だ。
アルセウスの言葉とシンジの反応で、彼の言葉の意味がわかったサトシは、じわじわと嬉しさがこみあげてくる。
緩む口元を押さえられない。


「よし、シンジ!みんなで遊ぼうぜ!」
「はぁ!?ちょ、おい・・・っ!」


サトシに手を引かれ、抵抗を試みるも、力は相手の方が上だ。
早々にあきらめたシンジは、されるがまま、サトシに手を引かれて走るのだった。








シトロンたちの元に帰って、安堵の涙を流され、サトシまで泣きそうになる、数時間前のお話。



























ピカチュウはポケモンセンターに預けていたってことにしておいてください。




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