サトシ争奪戦
シゲル、ヒロシ、シンジの3人は項垂れていた。
その理由は彼女たちの想い人、サトシの鈍さにあった。
今日この日、3人はサトシを散歩や買い物、バトルに誘ったのだが、旅仲間のシトロンと出かける約束をしているからと断られたのだ。
相手が女の子ではなかっただけマシだったが、これが何回も、何十回も続いているのだ。
サトシは約束を守る人間だし、先約を守るべきなのはわかっている。
それでも、自分たちはずっと我慢してきたのだ。そろそろ自分たちを優先してくれてもいいだろうに。それなのに彼は仲間を優先する。
「・・・こうなったら、サトシの中の優先順位を変えるしかないね」
仲間優先から自分たち優先へ。
仲間たちといるよりも、自分たちと一緒にいる方が嬉しい楽しいと思ってもらえるようにアピールするのだ。
あわよくば、自分だけを見てくれるように。
こうして、ライバルたちのアピール合戦の火ぶたは斬って落とされた。
シゲルはバスケットを持って、意気揚々とサトシを探していた。
バスケットの中身はシゲルの作ったサンドイッチが入っている。
彼女は1人旅をしてきたため、料理には自信があるのだ。
だから彼女は料理でサトシにアピールしようとしていた。
「(あ、サトシだ)」
サトシは切り株に腰掛けていた。
サトシを見つけたシゲルは嬉しそうにぽっと頬を赤らめた。
「や、やぁ、サートシくん。ちょっと料理を作りすぎてしまったんだけど、一緒に食べないかい?」
少し緊張でどもってしまったけれど、声はかけられた。
そのことにほっとしながら、サトシの返事を待つ。
ゆっくりと振り返ったサトシは顔を青くして、どこかげっそりとしていた。
「さ、サトシ・・・!?」
「ああ、シゲルか・・・。シゲルって料理できたのか?」
「で、できるよ!僕だって女の子なんだから!」
「ああ、うん・・・。そうだよな。1人旅してきたし、作れるよな。・・・あいつら、どうやって旅する気だったんだろうなぁ・・・」
俯いたサトシの手の中にはシゲルの持ってきたバスケットとよく似たかごがあった。
どこか遠い目をして籠の中を見つけるサトシに、その中身が気になり、そっと中身をのぞき見た。
中身を見たシゲルは何も言えなくなり、そっと自分のバスケットを差し出したのだった。
(一緒にランチを食べれたから悲しくなんかないよ!)
「ねぇ、サトシ。一緒に海にでも行かない?」
「海?」
ポケモンセンターで偶然を装って再会したヒロシは、笑顔でサトシに提案した。
海沿いのこの町は美しい海岸線で有名だ。
観光客も多いが、地元の人間はデートスポットとして、海に訪れることが多いそうだ。
ヒロシはデートで自分をアピールしようとしていた。
「いいな!行こう!」
「!!やった!」
海と聞いて目を輝かせたサトシにヒロシが嬉しそうに笑う。
では早速行こう、とヒロシがサトシの腕をつかむ。
このデートが成功すれば、サトシは自分のことを見てくれるようになるかもしれない。
ヒロシは期待に胸を弾ませた。
「でも珍しいな。ヒロシが俺を特訓に誘うなんて」
「えっ」
サトシはあくまでサトシ。
最後まで期待を裏切らない。
デートのつもりで誘ったヒロシは撃沈した。
(一緒に出かけられたから結果オーライだもん!)
シンジは白いワンピースをひらりと翻しながらサトシを探していた。
自分が男らしいことを理解しているシンジは普段とは違い、女の子らしい服を着て、ギャップで攻める作戦に出た。
シンジは服装で女の子らしさをアピールしようとしていた。
裾を揺らしながら辺りを見回すと、サトシはすぐに見つかった。
「さ、サトシ・・・!」
「あ、シンジ!丁度よかった!」
「えっ」
シンジが声をかけると、サトシは満面の笑みで振り返った。
その笑顔に、ドクリと心臓が跳ねた。
「今、バトルの相手探してたんだけどさ。なかなか相手が見つからなくて・・・。シンジ、相手になってくれないか?」
「・・・わかった」
自分のことなど気にも留めず、いつもと全く変わらない対応に、それでもシンジは半泣きで了承した。
結果として、シンジの涙目に怒り狂ったポケモンたちにより、バトルはシンジの圧勝で終わった。
「また強くなったな、シンジ!」
「・・・ああ」
「そう言えば、今日、いつもと服装違うな」
「!!(気づいてはいたのか・・・)」
「シンジもやっぱり女の子だな。その服すっげぇ似合ってるぜ!」
「っ!!!(き、着てきてよかった・・・!!!)」
サトシの無自覚たらし発動により、本日の1番の勝者(?)はシンジに決定された。
「(ギリィ・・・」
「クソが、」
「ヒロシ、口悪い」
「シゲルだって人のこと言えないような形相してるよ」
「「・・・シンジうらやまそこ代われちくしょう!!!」」