2人のみこ 2






――――サトシ、シンジ・・・!やっと会えた、やっと会えたよぉ・・・!


周囲の人間が逃げ出したことを確認して、サトシとシンジは地面に降り立った。
イベルタルも地面に降り、羽を地面に預けるようにして、サトシとシンジに擦り寄った。
大粒の涙を流すイベルタルに、2人は苦笑した。


「そんなに泣くなよ。もう大丈夫だから」
「いつまでたっても子供だな・・・。弟みたいだ」
『僕はシンジの父親だよ!』
「そうか・・・」


愛娘に弟呼ばわりされて、イベルタルが拗ねたようにそっぽを向く。
神々は、シンジを愛娘として可愛がっている。
中身は幼子でも、立派な神であるイベルタルもそのうちの一体だ。
それはすねもするだろう。
シンジはそれを穏やかに見つめ、イベルタルの頬に擦り寄った。


『ふふふ、久しぶりのサトシとシンジだ』
「ああ、」
「本当、久しぶりだな」
『2人ともあったかいね』


イベルタルが2人の体に擦りよる。
イベルタルの力は破壊の化身だけあってそれ相応に強い。
かなり手加減されているものの、全力で踏ん張らなれけば、その場に踏みとどまっていられないくらいだ。
2人は顔を見合わせて苦笑し、精いっぱいイベルタルに抱きついた。





「サトシー!!!」
「シンジー!!どこですかー!!!」


セレナたちが呼ぶ声が聞こえる。
サトシたち以外の人間の声に、イベルタルが体を震わせた。


『やだ、誰・・・?』
「今俺と一緒に旅をしてる仲間だよ」
『やだ、怖いよ・・・』
「大丈夫だよ、あいつらならきっとお前をわかってくれるって・・・」


イベルタルが後ずさる。
地面をえぐる音が、あたりに響く。
その音にさえ、イベルタルは恐怖していた。
まずいな、とシンジは眉を寄せた。
イベルタルから感じる心は、自分たちと再会した喜びよりも、傷つき傷つけられることへの恐怖が勝っている。
そんな状態の彼に、セレナたちが悲鳴でもあげたら、





「きゃあああああああああああああああああああ!!!」





劈くような悲鳴が上がった。
振り返れば、腰を抜かして座りこむセレナと、恐怖で震えるシトロンとユリーカがいる。
自分たちにとっては幼子でも、カロスの人間にとって、イベルタルは恐怖の象徴でしかない。
いやいやと首を振り、恐怖にぬれた目で、彼女らはイベルタルを見つめていた。


『あ・・・ああ・・・・・』


イベルタルも、恐怖を抱いて後ずさった。
その小さな挙動にも、セレナたちはひきつった声を漏らす。
怯えているのは、自分たちだけではないのに。


『やだ、嫌だよ・・・。そんな目で見ないで・・・』


イベルタルが、今にも泣きそうな、情けない声を出した。
見ていられなくなったサトシが、イベルタルの体を抱きしめた。


「大丈夫、大丈夫だよ、イベルタル。俺が、俺たちがついてる」
『サトシ・・・』


イベルタルが、サトシを包み込もうと大きな翼を動かした、その瞬間だった。


「やめて!!!」


鋭い声が上がったのは。
見れば、セレナが震える足で立ち上がり、気丈な表情で、イベルタルを睨みつけていた。


「サトシ、今よ、逃げて!!!」
「シンジも早くこっちへ!!そのポケモンは危険です!!!」
「サトシ!!!」


セレナたちの悲痛な声がイベルタルの体を打つ。
イベルタルの瞳から涙があふれているのに気付いて、サトシは違うと叫びたくなった。
痛いと泣く心がシンジに伝わり、シンジが頭を抱えた。


「サトシ、シンジ!早くそのポケモンから離れて!!!」


そのポケモンは、と続く声に、やめろと叫びたくなった。
けれど、苦しいと叫ぶ心が、声を枯らした。


「そのポケモンは、全てを破壊する、破壊の化身なのよ!!!」


その言葉が、きっかけとなった。






『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』






イベルタルの『破壊』が始まった。




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