常識なんてあったもんじゃない






「そう言えば、お前のポケモンたち、かなり荒れたらしいぞ」
「え?」


ゼクロムの頭をなでていたシンジが、そう言えば、とサトシに向けて言った。
向けられた言葉に、サトシは眼を丸くした。


「そりゃあサトシが旅行でイッシュに言ったと思ったら、そのまま旅に出ちゃったからでしょ」
「せめて挨拶くらいしておかないとポケモンたちが拗ねちゃうかも」


カスミとハルカの言葉にサトシがあちゃ~と苦い笑みを浮かべた。


「っていうか拗ねるどころの話じゃないわよ。シェイミがみんなの荒れようにびっくりしたって言ってたし」
「アルセウスたちが止めに行ったんでしょ?」


ヒカリの言葉にマサトがシゲルに尋ねる。
シゲルは深くうなずいた。


「そうだよ。伝ポケ総出で止めてもらったんだから」
「お互い、けがをしない程度の技の応酬だったからよかったけど、あれは見てるこっちがひやひやしたな~」
「まぁ庭はすごいことになったわね。修復するのに2週間はかかったんだから」
「な、何か申し訳ないことしちゃったな~・・・」


怪我の手当てで借り出されたタケシ。修復の手伝いをしたカスミ。
2人はしみじみとその時の光景を思い出していた。
サトシが後頭部を掻くとカスミがまったくだ、と呆れたように溜息をついた。


「帰ったらみんなの気が済むまで遊んであげなさいよ?」
「分かってるって!」
「本当にそうならいいんだけど」


はぁ、と息をついて、カスミがたちあがった。


「じゃあ私たちはそろそろ行くわね。もう港に行かないと、帰りの船に乗り遅れちゃうわ」
「僕も研究の途中だから、そろそろ行くよ」
「俺も帰る。ゼクロム、そろそろどけ」
「みんなもう行っちゃうのか」
「またすぐ会えるさ。カントーに帰るつもりでいるんだろ?」
「それもそうだな!」


カスミの言葉を皮切りに、シゲルたちが一斉に立ち上がる。
サトシが寂しそうな顔をすると、タケシがぽん、と頭に手を置いて笑った。
それにつられるように、サトシも笑う。


「じゃあ僕は反転世界を通って行くから」
「「「え?」」」
「ギラティナ、頼むよ」


もうこれ以上驚くことはないだろうと思っていた矢先、シゲルが爆弾を落とす。
威力は核弾頭並みだ。
シゲルが湖の水面をたたくと、水が引き、中心からギラティナが現れた。
ギラティナの背中に飛び乗るとシゲルがサトシに向かって片手をあげた。


「じゃあね」
「おう!またな!」


ふっと笑って、シゲルは湖の中に消えた。


「ゼクロム、ミュウツー、俺たちも行くぞ」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
『わかった』


シンジもゼクロムにまたがる。
先導のミュウツーが、ゼクロムの少し先を行く。


「ジンダイさんに勝ったらお前を倒しに行く。そう長く待たせるつもりはない。いつでも俺と戦える準備をしておけ」
「おう!待ってるぜ!」
「ふん・・・。行くぞ」
「またなー!シンジー!」


シンジは一度の振り返ることなく空へと消えていった。


「ミュー!」


ミュウがサトシとピカチュウの頬に擦り寄る。
彼も始まりの樹に帰るらしい。


「ミュウもまたな」
「ぴかっちゅ!」
「ミュミュミュウ!」


ミュウは名残惜しそうにサトシたちの周りを一周して、シンジとは別の方角の空の青に吸い込まれていった。


「じゃあまたね、サトシ!」
「帰ったらすぐ次のコンテストに出るつもりだから応援してね!」
「絶対よ!」
「ちゃんと連絡入れなさいよ」
「カントーに帰ったらまた会おうな」
「おう!またな!!!」


小さくなっていく背中にいつまでも手を振り続けるサトシを見つめながら、シューティーが呟いた。


「ねぇ、言ってもいいかな・・・?」
「・・・どうぞ?」
「僕・・・基本だなんだとか言ってた自分が恥ずかしくなったよ・・・。だって、基本どころか・・・」


常識なんて、あったもんじゃない!!!!!




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