常識なんてあったもんじゃない
「ちょっと聞いてよ、サトシ!タケシったら1人で密猟団に突っ込んでいったのよ!?」
「ええっ!?」
自己紹介や質問が終わり、各々が好きに過ごしている中で、カスミがサトシに言った。
サトシはカスミとタケシとともに集まり、世間話に花を咲かせていたのだが、カスミが思い出したように言ったのだ。
唐突に声をあげ、周囲を驚かせたのだが、党のカスミは気付いていない。
周りも声に驚いただけで、内容には興味を示さなかったようだ。
まるでよくあることだ、とでもいうような反応だった。
「まぁ、そこまでならいいのよ。そんな場面に出くわしたら私も同じことをしただろうし、ちゃんと密猟団を壊滅させたし。でも問題はそれがタケシがやったってことよ。昔の常識人ブリはどこに行ったのかしら。サトシの”無茶”を移されたの?」
「俺はウイルスか何かかよ!?」
「落ちつけよ、2人とも」
お互いにとって懐かしいやり取りが交わされる。
周りは微笑ましげに3人の様子を眺めていた。
「って、そう言えば、カスミは何でイッシュにいるんだよ?ハナダジムは?」
「ジムは修理中。イッシュに来たのはくじでイッシュ5名様の旅が当たったからよ。タケシの研修が休みだったからハルカたちも誘って一緒に旅行中なの」
「シンジとシゲルは育て屋のお使いと研究のために来たんだそうだ」
「そうなんだ。っていうかジム壊れたのか?」
「壊れたっていうか、壊しちゃった、が正しいかな。何でも、ひどいトレーナーが来たんだと」
「昔のサトシが可愛く見えるくらいにね」
サトシがカスミに疑問を投げかけると、カスミの機嫌が一気に悪くなる。
それに目を丸くしていると、タケシが苦笑した。
サトシはカスミのとげのある言葉に言葉を詰まらせ、目をそらした。
「よっぽど酷い奴だったんだなぁ・・・。ケンジが言うにはリーグ戦でもなかなかお目にかかれないくらいの荒れようだったって言ってたぞ」
「そんなにひどかったかなぁ・・・?」
「ルギアも驚いたって言ってたけど?」
「「「ルギア!!?」」」
タケシとカスミの会話に、シゲルが口をはさむ。
そうして出てきた新たな伝説のポケモンの名前に、シューティーたちが思わず叫んだ。
それを見て、カスミがああ、と手を打った。
「うちのジム、海とつながっててね、たまに遊びに来るのよ。そう言えばこの前はカイオーガが遊びに来てくれてね?もう、カイオーガったら可愛いの!頭をなでてあげると嬉しそうに擦り寄ってくるのよ!」
「そ、そう・・・」
目をハートにさせてカスミが力説する。
ケニヤンたちは苦笑いでごまかした。
ジムが海とつながっていることまではわかる。納得できる。
それがなぜルギアやカイオーガが遊びに来ることにつながるのだ。
頭をなでてあげるとか自分には無理だ。というかまず出会えないもの。
「遊びに来たと言えば、この前エンテイが傷の手当てを頼みに来たな。何でもライコウと喧嘩したとかで」
「あいつらって仲悪いのか?」
「さぁ・・・。どうなんだ、シゲル」
「些細なことで喧嘩できるくらいには仲がいいよ」
次々に出てくる伝説の名前。
文献でしか記されていないような名前がホイホイと出てくる。
カベルネたちが若干めまいを起こした。
「そういえばさ、何でおれがこの町にいることに驚かなかったんだ?俺誰にも言ってないはずなのに」
「それはあらかじめ知っていたからだよ」
「え?知ってたのか?」
「ギラティナに反転世界から見つけてもらったり、セレビィに頼んで時渡りしてもらったり、いろいろね。君は連絡を怠りがちでハナコさんたちに心配をかけているから、みんなに頼んで君の行動を把握させてもらったよ。マサラに帰ったらお説教確実だから覚悟しておくように」
僕には伝ポケネットワークがあるから隠しても無駄だよ?
そう言って笑うシゲルはとてつもなく楽しげだった。
何てチートな人脈ならぬポケ脈だよ・・・!
説教が待っているという事実に頭を抱えるサトシとともに、サトシの旅仲間とライバルたちのチート具合にイッシュ組は頭を抱えた。