常識なんてあったもんじゃない






ミュウのテレポートにより湖についたシゲルたちは辺りに人がいないことを確認し、シゲルがシンジに言った。


「人は・・・いないみたいだね。シンジ、ゼクロムを出してもいいよ」


シンジがシゲルの言葉にうなずき、ポケットからボールを2つ取り出す。
そして、それを空に放り、ゼクロムとミュウツーを出した。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!」
『・・・・・』


怒りをたたえたような叫び声を上げるゼクロム。
ミュウツーも、その瞳に静かな怒りをたたえている。
いや、ミュウツーの方が、大人しくないかもしれない。
手にエネルギーを集中させ、波導弾を放とうとしている。
それを見て、タケシが穏やかな声でミュウツーに話しかけた。


「何があったかわからないけど、むやみに人を攻撃するのはだめだ。シンジに迷惑をかけることになるから、な?そんなのは嫌だろう?」


ゼクロムはどうだ?とゼクロムを見上げれば、彼はいやいやと首を振った。
なら辞めようか、と言って笑いかければ、2匹はしぶしぶと言った形で攻撃態勢を解いた。
見事な手腕に、さすがタケシ、とサトシとマサトが拍手を送る。
この様子を見て僕の説教いらなくね?と思ってのはシゲルだけの秘密だ。


「ぐうう・・・」


ゼクロムがふてくされたのか、甘えるようにシンジに擦りよる。
ポンポンと軽くゼクロムの体を叩いてやると、ゼクロムが嬉しそうにさらに擦り寄った。
そうしているうちに、ゼクロムの力に耐えきれなくなり、シンジが尻もちをついた。


「おい・・・」


シンジが止めようとするが、ゼクロムがシンジの膝、というか足に頭を置き、腹というか胴に擦りより、甘え出す。
伝説のポケモンとしての威厳などかけらも感じさせない。
こいつには矜持というものがないのか、とシンジは思わず嘆息した。
喉を鳴らして甘えるゼクロムを見て、ついに観念したシンジが彼の頭をなでると、ゼクロムは嬉しげな声を上げた。


「シンジの奴、随分ゼクロムに懐かれてるんだな~」
「ぴかちゅ」


サトシが嬉しそうに笑う。
シンジの目元が赤いのには気付かないふりをして目をそらし、サトシはミュウツーに目を移した。
ミュウツーの隣には、いつの間にか移動したミュウがいた。


「久しぶりだな、ミュウツー」
『久しぶりだな、サトシ・・・』
「ミュウも元気そうでよかったよ。はじまりの樹で会って以来だな」
「みゅみゅう!」


ミュウが嬉しそうに笑う。
始まりの樹で仲良くなったピカチュウは、仲良しのミュウにじゃれつく。
ミュウがそれに乗っかり、2匹は遊び始めた。
そんな様子を見ていたカスミが、ルリリを降ろし、2匹の遊びに混ぜてやる。
最初はおろおろしていたが、ピカチュウやミュウの気さくな性格にルリリが安心したのか、嬉しそうにじゃれついた。

この一連の様子を見ていたイッシュ勢が目を見開いて呆然と立ち尽くしていた。


「まさかゼクロムがあんなふうに人に懐くなんて・・・」
「ミュウもあんなに小さいポケモンだったなんて思わなかったぜ・・・」
「ゲットしてるっていうのは本当みたいね・・・。ボールから出してたし、かなり懐いてるみたいだし・・・」


事実ではあるが、信じられるものではない。
伝説と呼ばれる一体をゲットしているなんて。


「そ、それで、どうやってゲットしたの?」
「・・・イッシュについたときに黒雲が見えてな。その中にこいつの姿が見えて、図鑑をかざしたら攻撃してきたんだ。そのままバトルにもつれ込んで、勝ったらついてきたのでゲットしたまでだ」


アイリスがシンジに尋ねると、シンジが答えを返す。
しかし簡潔な答えに、シューティーたちが足を滑らせた。
いろいろ突っ込みたかったが、ゼクロムが睨んでくるので口を閉ざした。
その様子に満足したのか、ゼクロムがシンジに擦り寄りながら「ぐるる・・・」と低く鳴いた。


『・・・ゼクロムいわく、理想を追う姿に惚れた、だそうだ』


強くなりたい。
その思いで努力するその姿。
そしてその努力の結晶を自分に勝利するという形で示したシンジ。
理想を司るゼクロムは、そんなシンジの姿に強く惹かれたらしい。
自分に勝って尚、決しておごらず、より高みを目指す姿にゼクロムは心底ほれ込んでいるようだった。


「そ、そう・・・」
「それで・・・あなたは?」
『・・・私はミュウの化石により人間に作られた人工のポケモンだ』
「え!?」
「こいつとはハナダの洞窟で出会った」
『私がバトルを挑み、私を下したその実力に惚れたのだ。彼とともに旅をすれば、私はより強くなれる。より広い世界を見ることができると思い、シンジのポケモンになった』
「そ、そうなんだ・・・」


ベルたちはそれ以上の言葉が出なかった。
規格外すぎる。
伝説のポケモンを下す実力を持っているということも。
そんなトレーナーをライバルと呼ぶ少年がいることも。
伝説のポケモンを前にして、平然としていられるトレーナーたちがいることも。


「あ、そうだわ。ゲットと言えば・・・マナフィ!ステージ・オン!」
「マナー!」


ハルカがぽん、と手を打って、海色の愛らしいポケモンを繰り出した。
マナフィと呼ばれたポケモンはくるくると宙返りしてきれいに着地した。


「いいわよ、マナフィ!最高かも!」
「かも!かもー!」
「おお!マナフィ!」
「マナー!」
「マナフィをゲットしたのか!」
「ええ!海に遊びに行った時に偶然再会したの!」
「ハルカ、スキー!」


マナフィがハルカに抱きつく。
想ってもみなかった再会に、サトシが声を上げる。
ぐりぐりとハルカに頭を押し付けて甘えるマナフィに微笑ましげに笑いかけた。


「もうリボンもゲットしたんだから!」
「すごいなぁ、マナフィ!」
「マナー!」
「私もシェイミと一緒にコンテストに出たのよ!」
「本当か、ヒカリ!」
「ええ!一回出てみたかったんですって!」


私はゲットしてないんだけどね。
そう言ってヒカリが笑う。
いやいや、十分でしょ?幻のポケモンとかかわり持ててる時点であんたも十分規格外だから。


「こ、今度はマナフィ・・・」
「ま、幻のポケモンじゃないか・・・!」
「シェイミも幻のポケモンじゃないの・・・!」


マナフィってあんなにかわいいポケモンだったのか、とか、偶然再会ってことはすでに一回遭遇してたってことか、とか、偶然再会してどうしてゲットに至るのか、とか、突っ込みたいことは山ほどある。
けれどもサトシたちはそれをさも当然のような顔で笑っている。
もう、思考を放棄したかった。


「サトシー!」
「どうした、マサト」


マサとと呼ばれた幼い少年がサトシの元に駆けてくる。
マサトの周りにはたくさんのポケモンたちが集まっていた。


「今そこで仲良くなったんだけど、名前は何ていうの?」
「えっと、マメパト、ヨーテリー、ミネズミ、その進化形のミルホッグ、そしてチョロネコだな」
「ありがとう!」


たくさんのポケモンたちに囲まれたマサトは満面の笑みをサトシに向けて駆けていく。
そのあとを追ってポケモンたちも楽しそうに駆けていく。
え?ちょっと待って?この短時間で野生のポケモンと仲良くなったの?
しかも周りも何でそれをさも当たり前のような顔をしてみてるの?


「わ、訳がわからないよ」


シューティーの言葉にデントたちが強くうなずいた。




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