常識なんてあったもんじゃない






目を輝かせてシンジと話すサトシとピカチュウ。
目の前で起こったことが理解出来ないイッシュ勢。
サトシとのトラブルトラベルで順応性が格段に上がったデントとアイリスでさえ、口をぽかんとあけたままぼうぜんとしている。
そして、その周りでは、背景と化したトレーナーたちが硬直している。
とてもカオスである。

そんなところに、こちらに向かって駆けてくる足音が聞こえた。


「シンジ!さっきの声、ゼクロムの声だよね?まさか、こんなところでゼクロムを出したのか!?」


そう言ったのは逆立った茶髪の少年だった。
整った顔をわずかにゆがめれて問えば、シンジは肩をすくめた。


「あいつが勝手に出てきただけだ」
「ゼクロムは後で説教!」
「ミュウツーも頼む」
「あ い つ も か !!!」
「まぁまぁ落ちつけよ、シゲル。それより、サトシとの再会を喜ぼう」


頭を抱えるシゲルと呼ばれた少年の隣に、糸目の少年立つ。
なだめるような言葉に、シゲルが落ち着いたのか、小さく息を吐いた。


「た、タケシ・・・。シゲル・・・。それに、みんなも・・・」


タケシとシゲルの後ろには、笑顔の少女たちが続く。呆然としているサトシを見て、してやったり!というように笑っている。


「久しぶりね、サトシ」
「サトシもピカチュウも元気そうでなによりかも!」
「サトシのことだから元気すぎる気もするけどね~」
「サトシ!後ろの人たち、サトシの知り合いなんでしょ?紹介してよ!」


懐かしい顔ぶれに、呆然としていたサトシの顔に笑みが浮かぶ。
ふつふつとわき上がる喜びをかみしめているようだ。


「おう!久しぶりだな、みんな!俺の旅仲間とライバルを紹介するぜ!」
「ぴかっちゅう!」
「まず、ポケモンソムリエのデントにアイリスと、その相棒のキバゴ!この2人が俺の今の旅仲間なんだ!」
「は、はじめまして・・・」
「よ、よろしく・・・」


サトシの紹介に、今だ混乱気味の2人はぎこちない笑みを浮かべる。
元・常識人だったシゲルたちは彼らの心情がわからないわけではなく、ぎこちない笑みに苦笑を返した。


「で、旅の途中で出会った俺の友達、ベルとケニヤンだ!」
「よ、よろしくね・・・?」
「よ、よろしくな!」
「デントのライバルでソムリエのカベルネに、アイリスのライバルでドラゴンバスターを目指してるラングレーだ!」
「わ、私の方がデントより上なんだから!」
「ら、ラングレーです、よろしく・・・」


自己紹介されるものの、思考はほとんど働かず、ほぼ条件反射で答えているだけ。
それも当然だろう、とタケシたちは笑顔でうなずく。


「そしてシューティー!俺のライバルなんだ!」
「僕はライバルになった覚えはないけど、」


シューティーのつぶやきはサトシたちには聞こえず、今度はシゲルたちの紹介に移った。


「なかなか個性の強そうな人たちだね。僕はオーキド シゲル。サトシの幼馴染でライバルさ」
「俺はタケシ。ポケモンドクターを目指してるんだ」
「私はカスミ。ハナダジムのジムリーダーよ」
「私はハルカ。こっちは弟のマサト」
「初めまして!」
「私はヒカリ。コーディネーターなの」
「・・・シンジだ」
「シンジ、いくらなんでも簡潔すぎかも」
「シンジはサトシのライバルよ!ちょっと口と目つきが悪いけど大丈夫!仲良くしてあげてね?」


自己紹介を終えたシゲルたち。これで相互の紹介は終わった。


「あ、あのっ・・・!」


サトシとの旅で、割かし耐性のついたアイリスがたずねた。


「さ、さっきゼクロムをゲットしたって言ってたけど、それって本当なの?後、ミュウツーなんてポケモン初めてみたんだけど・・・」


アイリスの質問に、タケシたちが顔を見合わせる。
お互いの顔を見てうなずき、全員がシゲルを見る。
シゲルはやれやれと肩をすくめながらもうなずいた。


「その質問の答えは移動してからにしよう。幸いにも野次馬たちはまだ復活していないようだしね」


シゲルはそう言って、空を見上げた。
そこに何があるのかと同じように空を見上げるも、そこには雲とマメパトの群れがあるだけだ。


「ミュウ、いるかい?」


シゲルがマメパトの群れに向かって、声をかける。
すると、一匹のマメパトが、群れから抜け出し、シゲルの元に飛んできた。


「ミュウ?」


変身を解いたミュウが、何の用?というように首をかしげた。


「ミュウ。この町のはずれにある湖へテレポートで連れて行ってくれないか?」
「みゅみゅ!」


ミュウは一つうなずくと、彼はすぐに手レポートをして見せた。





当人たちがいなくなってしばらくがたち、ようやく野次馬たちの意識が復活してきた。
状況を整理するにはさらに時間をようしたが、ようやく事態を理解し、絶叫を上げた。


「うわあああああああああああああああゼクロムうううううううううううううううううううううう!!?!?」
「ゼクロムって伝説じゃなかったのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?」
「いま、いま、ミュウがああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


・・・それはまさに、阿鼻叫喚と辞書で引いたら出てくるような光景だった。




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