幸を願う
サトシは神社の境内にいた。年が明けて数日が経ってしまっているが彼はこの神社に初もうでに来ていた。
彼は今、人を待っている。恋人であるシンジを待っている。
10歳のころからライバルとして切磋琢磨していた2人が、恋人という形に落ち着いたのは、2年ほど前である。
切磋琢磨しているうちに、2人はそれなりの地位と、責任ある立場になり、恋人になってからも、お互いに顔を合わせることは少ない。
そして今日、年が明けて初めて2人の休みが重なったのだ。
家でまったりするのもいいが、性に合わないということで、外に出ることのなった。
しかし、年が明けてすぐは、どこの店も休業だ。
それならば初詣にでも行こうかと、2人は神社で待ち合わせをすることになったのだ。
(シンジまだかな~・・・)
サトシは浮かれていた。待ち合わせの1時間も前に待ち合わせの場所に来るくらいには。
何故こんなに浮かれているのかというと、それは1週間前にシンジと交わした会話にある。
サトシが、着物を着て歩く女性を見て、初もうでの日には、シンジに着ものできてほしいとだめもとで頼んでみたのだ。
怒られるか、通話を切られるか。できれば前者であってほしいと思いながら、冗談だよとおどけて見せるつもりであったのだ。
するとシンジは言ったのだ、
『それくらいなら別にかまわない』
と。
あのシンジが、である。
女性ものの服を極度に嫌うあのシンジが。男装の麗人として名をはせるシンジが、である。
これは浮かれても仕方ないだろう。
と、からころと、下駄の音が聞こえてくる。ドキ、と心臓が高鳴った気がした。
「サトシ!」
声の方を振り返ると、そこには天使がいた。
訂正、シンジがいた。
「すまん、待たせたか?」
「う、ううん。俺も今来たとこ」
「・・・見え透いた嘘だな」
冷たくなってるぞ、とシンジがサトシの頬に触れる。
久しぶりに会った恋人に触れられて、サトシはシンジを抱きしめてしまいたい衝動にかられた。
しかし、サトシはそれをためらってもいた。
いつもの黒と紫を基調としたシンジが、今日は白と淡い紫を基調とした着物を着ている。
白い地に淡い紫の花が咲いている、美しい着物だ。
白い肌と相まって、冬の精とみまごうばかりに美しい。
しかし、抱きしめようと思うには、あまりにも儚すぎる。
「(・・・あ、)」
青が、一瞬見えた気がした。
シンジのはめている毛糸の、手のひらだけを多いような手袋に、飾り程度ではあるが、青色が使われている。
よく見れば、花の根付けにも、下駄の鼻緒にも青色を選んでいた。
青は、サトシの色である。
ところどころ見え隠れする青色に、たまらない気持になる。
頬に暮れる手をつかみ、サトシがシンジを引き寄せ、その細い首筋にそっとキスを落とした。
「いって~・・・」
サトシが脇腹をさする。
サトシがシンジの首にキスをした瞬間、脇腹にとんでもない衝撃を受けたのだ。
見れば、シンジの拳が脇腹に突き刺さっている。
痛いなんてものではなかった。一瞬、呼吸が止まった。
シンジは悶絶するサトシを置いて、1人さっさとお参りを済ませてしまった。
すぐにそれを追ってサトシはピカチュウとともにお参りを済ませたのだが、せっかくのデートなのに、と思わないでもない。
「自業自得だろうが・・・」
やりすぎたと思っていたのだろう。シンジが悪態をつくが、少々ばつが悪そうにしている。
声にも迫力がない。
頬が赤く染まっているところをみると、照れ隠しも入っていたのだろ言うことが見て取れた。
「ごめんなー、シンジ」
「・・・もういい。さっさとおみくじを引きに行くぞ」
「そうだな」
神社の巫女からおみくじをもらい、2人がそろって紙を開く。
そうして、サトシが眉を寄せた。
「・・・シンジ、どうだった」
「大吉」
「・・・俺、大凶だった」
サトシが肩を落とす。そんなサトシを見て、シンジは首をかしげた。
「逆に良かったんじゃないか?」
「何で?」
「すでに1番下にいるということは、もうそれ以上下に落ちることはない。上がっていくだけだ。逆に私は、1番上にいるから、あとは落ちるしかない」
あっけらかんと言ったシンジは常と変わらないすました顔をしている。
一瞬ぽかんと目を瞬かせ、それからサトシは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、俺が下から支えてやるよ!」
そういって、サトシはシンジを抱きしめた。
「今年もよろしくな!シンジ!」
「こちらこそ」
笑顔を浮かべるサトシに向かって、シンジも微笑みを返した。
そっと2人から離れたピカチュウが、賽銭箱の前に立つ。
お金などは持ち合わせていなかったので、賽銭を入れることはできなかったが、ピカチュウはサトシたちを真似て、パンパンと手をたたく。
『今年もこの2人をよろしくお願いします』
――――最高の親友と、その最愛の人に幸多からんことを、
Happy New Year!