幽かな存在
シンジは、サトシたちが去って行ったほうを見つめながら、いまだに湖のほとりにたたずんでいた。
そして、誰に言うでもない風に、静かに呟いた。
「これでよかったんだろう?ギラティナ」
湖の水面が、中心から波紋を生じる。
それにちらりと視線を向け、それから空間をゆがませるようにして現れた白い巨体に目を向けた。
「まったく、お前たちが行けばよかったものを」
シンジは白い巨体――アルセウスに悪態をついた。
『・・・サトシは私たちが伝説であることを望んでいることをしている。むやみやたらに出て行って、私たちが傷つけば、悲しむのはサトシだ。だから私たちはそう簡単には出ていけないのだ』
「はっ、今まで散々やらかしておいて、今更何を言う」
『そう言ってくれるな。私たちとてサトシに会いたいのだ。けれども、私たちが出ていけば、私たちとかかわりがあることが知られてしまえば、サトシが危険にさらされる。そんなこと、私たちは望まない。もちろん、お前が傷つくこともだ』
「お人よし共め」
はぁとため息とともに悪態をつく。
そんなことを言いつつも、付き合ってくれるシンジも、つくづくお人よしである。
しかしそんなことを言えば、きっと機嫌を悪くしてしまうから、そっと笑うだけで、あえて口にはしなかった。