幽かな存在






「うわぁ、相変わらずすごいなぁ、ピカチュウ」
「ぴかっちゅ」


ハロウィンが終わって数日。派手好きでイベント好きなイッシュでは、未だにハロウィンは終わらない。行く先々で、黒、紫、オレンジと、ハロウィン一色だ。
イベント事に命をかけると言っても過言ではないイッシュ地方では、大きなイベント事は1カ月以上も続くこともあるという。このハロウィンも、11月いっぱいまで続くらしい。
楽しさ重視のイッシュとは違い、カントーは季節感を重んじることが多く、イベントは当日に限ることが多い。どんなに長く続くとしても、一週間程度だ。
文化の違いというのは、こんなところでも発揮されるらしい。
はじめて知る他地方との違いに、ちょっとしたカルチャーショックを受けたものだ。


「お、あれ、シューティーじゃないか?」
「ぴかー・・・」


ブルンゲルのローブにシャンデラの籠を持った少年は、確かにシューティーであった。気難しい表情を装っているつもりだろうが、口元がほころんでいる。
そういえば、アイリスは桃色のプルリルのドレスを着ていたなと、こちらには気づかずに歩み去ったシューティーの背中を見ながら、そんなことを思った。
ちなみにデントは黒のマントにヤナップの帽子をかぶっていた。同じく黒いマントをつけたヤナップが嬉しそうにしていたのが印象的で、アイリスとともにデントずるい!と言ってしまったのは御愛嬌だ。
こんなこともあろうかと、といってピカチュウとキバゴの籠を渡された時には2人そろってデントに抱きついてしまったが、それはここだけの話である。
そんなわけで、サトシは現在ピカチュウの籠を持って、人々の行きかいを眺めていた。


「ぴか?」
「ん?どうした?ピカチュウ」
「ぴーかちゅ」


ピカチュウが路地裏を見つめ、声を上げた。
路地裏は当然ながら街灯などなく、更にその奥には深い森が続いている。
しかし、ピカチュウがそちらを示すので、ようく見てみると、そこにはゴーストポケモンたちがいた。
暗闇と同化していてよく見えなかったが、確かにそこにはゴーストにゲンガー、ランプラーがいる。
どうやら自分たちを手招きしているらしく、ピカチュウと顔を見合わせ、そちらに向かった。


「ゴース、ゴスゴス」
「ぷら~」
「ゲンガー!」


どうやら、お菓子がほしいと言っているらしく、皆一様に手を出している。


「なぁんだ、お菓子がほしかったのか!お前たち、チョコは平気か?」
「ゲンガー!」
「ぷら~!」
「ゴース」
「そっか、じゃあ、これな」


かわいらしく包まれたチョコを渡すと、3匹のゴーストポケモンたちは嬉しそうにチョコを頬張る。
その喜びように、サトシとピカチュウまで嬉しくなる。


「ゴース、ゴス」
「ゲンガ!」
「ぷら~、ぷらぷら~」


ランプラーが先頭に行き、ゴーストとゲンガーが手招きする。案内したいというように手招きされるが、その先に広がっているのは深い森だ。
お礼がしたいらしい3匹の気持ちを無下にしたくはないが、デントとアイリスに心配をかけることになっても困るのだ。
どうするか、と首をかしげると、そんな様子を見て、3匹がすぐにすむから!というように足元にすがりつく。ここまでされてしまっては、行くしかないだろうというのは、サトシとピカチュウ両名の考えである。


「じゃあ、ちょっとだけ」
「ぴかちゅ」
「ぷら~!」
「ゴース!」
「ゲンガー!!」


嬉しそうに笑う3匹を見て、サトシとピカチュウが笑う。
軽やかな足取りで森の中へ入っていく3匹の後を、2人はゆっくりとした足取りでついていくのだった。




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