2人のみこ 2
夜。サトシ達とシャラジムまでの旅を共にすることになったシンジは、セレナやユリーカと同じテントで横になっている。
この日はみんな、シンジに興味しんしんで、次々に尋ねられる質問に、シンジはたじたじだった。
一通り質問が終わった後は、サトシとシトロンのバトル二連戦。
2人ともゲットしたばかりのポケモンしか持っておらず、勝利したのはシンジだった。
疲れた。それなりに楽しい一日ではあったが、疲れた。
けれどもシンジは、寝袋から起き出し、テントを出た。
外は月明かりで明るい。
円い月が木々を照らしている。
落ちた影が風に揺れる木の葉とともに揺れている。
「――――・・・もうすぐだ、」
彼が目覚めるのは。
「シンジ、」
「ん・・・?」
ツキを眺めていると、サトシがテントから這い出てくる。
シンジが起こしたか?と問えば、起きてた、と返された。
2人は近くに横たわっていた大木に座った。
大木に腰掛けた2人は、そろって月を見上げた。
「なぁ、シンジ」
「何だ」
無言で月を見つめている2人のうち、サトシが静寂を破った。
サトシが月から目をそらす気配はなく、シンジも月から目を外さなかった。
「何かあった?」
「・・・何故?」
「昨日シンジから合流したいって言ったじゃん」
そんなときは決まって何かあるんだよ。
そう言ってサトシはようやく突きから視線を外し、シンジを見つめた。
「もしかしてさぁ、俺をカロスに誘ったのって」
――――あいつのため?
月の光を浴びて、サトシの目がきらりと輝く。
シンジがお見通しかよ、と苦い顔で呟けば、サトシは声を立てて笑った。
「分かるよ、シンジのことだもん」
自分の片割れのことが分からずして、何がわかるというのか。
そう言って笑うサトシに、シンジも口元を緩めた。
「もうすぐなの?」
「ああ・・・。もうすぐ、イベルタルが目を覚ます」
「そっか・・・」
懐かしそうに眼を細め、サトシが月を見上げた。
細めた眼が、月の光を受けて、銀色に輝いている。
つられるように月に目を向けたシンジの瞳も、同じように輝いた。
「イベルタルかぁ・・・。懐かしいなぁ・・・」
「ゼルネアスにも会ったぞ。2人一緒に子守唄を唄って欲しいと言われた」
「ははっ!イベルタルはいつも2人一緒に唄ってほしいって言ってたもんな!ゼルネアスはイベルタルが大好きだな!」
「あの2匹も”対”だからな」
自分たちと同じように、ゼルネアスとイベルタルはお互いを”対”だと認識している。
どんなに離れようとしても、どこかで必ずつながっている、自分の片割れ。
そりゃ、大好きなわけだよ、とサトシが笑った。
「今回は何唄う?」
「あいつの一番好きな唄でいいんじゃないか?」
「「――――”小さきもの”!」」
2人の声が、一瞬のずれもなく重なる。
そのことに、どちらからともなく吹きだした。
――――ザリッ
「「!!」」
土を踏みしめる音に、2人がばっ!とそちらを振り返った。
そこにはふわりとしたキャラメル色の髪の少女・セレナがいた。
セレナは2人が突然振り返ったことに驚いたのか、目を丸くしている。
「ふ、2人ともまだ起きてたの?」
「セレナ・・・。ごめん、起こしちゃった?」
「ううん、起きてたの」
「そっか、」
心配そうに2人を見つめるセレナに、サトシとシンジが顔を見合わせる。
そして、そっと息を吐いて、シンジが立ち上がった。
「私はそろそろ寝る。お前も早く寝ろよ」
「分かってるよ。おやすみ、シンジ」
「ああ、おやすみ」
「セレナもお休み」
「う、うん・・・。おやすみ・・・」
シンジに続き、サトシも立ち上がる。
2人がそれぞれのテントに潜り込んだのを見届けて、セレナが息をついた。
「(ねぇ、サトシ・・・。2人は本当にただのライバルなんだよね・・・?)」
2人の間にただならぬものを感じたセレナは、不安げに顔を曇らせ、呆然とそこにたちつくすのだった。