恋は戦争






 サトシ達はとある町のデパートにいた。
 かなりのにぎわいを見せるデパートで、笑顔があふれている。
 サトシ達はそんなデパートの雑誌コーナーにいた。


「あ! 見てみて! あったよ、パンジーさんの書いた記事!」


 目的の内容を見つけたセレナが見開きを示した。そこにはパンジーの書いた文章と、ビオラが撮った写真が掲載されていた。
 デコロラ諸島の旅を終えてカントーに来た時にエニシダと約束したものだった。大きく掲載された「バトルフェスタ」の記事に、サトシが嬉しそうに笑う。


「これがバトルフロンティアかぁ……」
「すごーい!」
「これはカントーのバトルフロンティアだよ」
「そう言えば、シンオウにもあるんでしたよね」


 サトシ達が雑誌を囲み、話に花を咲かせる。
 その隣でシンジも同じ雑誌を読んでいた。
 しかしシンジの見ているページはバトルフェスタの記事ではなく、次の町で行われるバトル大会のものだった。
 それに気づいたのはサトシだった。話に入ってこないシンジを不審に思ったのだ。


「女性限定バトル大会?」


 ――ばたん!と勢いよくシンジが雑誌を閉じるが、中身はすでに知られているようだった。
 慌ててサトシを振りかえって視線を合わせると、サトシはこてんと首をかしげた。


「出たいのか?」


 出たい、出たくないでいえば出たいというしかない。それくらいにはシンジもバトルが好きだ。
 しかしサトシは出場できない。文句は言われないだろうが、サトシだってバトルはしたいはずだ。自分だけが楽しむのはどうにも落ち着かない。


「ここのところ、あんまりバトルしてないもんな」


 そう言ってサトシは苦笑した。
 最近したバトルと言えば、イーブイをゲットするためにした、タッグバトルだ。望んだものではないし、楽しいバトルとは言えなかった。シンジが大会に出場して楽しみたいというのもうなずける。
 しかしシンジはどうにも大勢で旅をすることには慣れていないようで、なかなか遠慮が抜けないでいる。一人で旅をしていたときは自分の考えで物事を決められたが、団体行動ではそうはいかない。自分の言動が周りに迷惑をかけるのではないかと不安なのだ。
 これくらい我がままでも何でもないのに、とサトシが眉を下げた。
 2人の様子に気づいたユリーカが雑誌から顔を上げ、不思議そうにサトシ達を見上げた。シトロンたちもそれにつられる。


「どうしたの?」
「ん? ああ。シンジが次の町で開かれる大会に出たいらしいんだけど、迷惑になるんじゃないかって遠慮してるんだよ」
「なっ……! 間違ってないだろ……」


 自分の内心を見透かしたようにサトシがいい当てるものだから、シンジが言葉を失いそうになる。
 けれども何とか虚勢を張って、しりすぼみながらも言葉をつづけた。
 サトシの言葉を聞いたユリーカはきょとんと呆気にとられてから、首をかしげた。


「そんなの迷惑になんかならないよ?」
「……え?」
「だって、シンジ、バトル好きでしょ?」
「あ、ああ……」
「好きなことをやりたいって思うのは当たり前じゃない!」


 ユリーカの邪気のない笑みに、シンジが目を見開く。その驚きのままに仲間たちの顔を見れば、皆一様に笑っていた。
 困惑したようなシンジに、サトシは屈託ない笑みを向けた。


「出たいなら出ればいいんだよ」
「……しかし、お前は出場できないんだぞ?」
「うん。女性限定って書いてあるもんな。でもバトルは見てるだけでも参考になるんだ。無駄にはならないよ」


 そう言って笑ったサトシが眩しくて、シンジは雑誌で口元を隠し、わずかに視線をそらした。


「……出てもいいなら、出たい」
「なら決まりだな!」


 楽しげに笑ったサトシに、シンジが俯く。どうにも甘やかされているような気がして、恥ずかしい。
 そんなシンジの羞恥には気づかず、うつむいたシンジをサトシは不思議そうに見つめていた。


「応援するからな!」
「私も!」
「ユリーカも!」
「僕もです!」
「……ありがとう」


 とうとう顔を隠してしまったシンジに、一同は笑った。




47/50ページ
スキ