恋は戦争
色違いのイーブイを狙う少年らは逃亡し、イーブイが狙われることはなくなった。
また他のトレーナーに見つかれば別だが、もうあの2人が襲ってくることはない。
イーブイたちはお互いが無事だったことに喜びあい、笑い合っている。
「お前たちが無事でよかったよ」
「これでずっと一緒にいられるね!」
「ブイ!」
「ブイー!」
サトシとユリーカの優しい声音に、イーブイたちが嬉しそうにうなずく。サトシ達も嬉しくなって、イーブイたちのそばにしゃがみこむ、サトシがオスのイーブイを、ユリーカがメスのイーブイの毛並みをなでた。
「またな、イーブイ!」
「またね!」
「さようなら!」
サトシ達が次々に立ち上がる。彼らはすぐに荷物を背負って、道沿いに歩き出した。彼らが目指す次なる目的地はセキタイタウンだ。それに向かって道を急ぐ。
そんな様子をイーブイたちは戸惑った様子で見ていた。
「イーブイ?」
イーブイたちの困惑した様子に、シンジがイーブイたちのそばにしゃがみ込む。メスのイーブイがすぐさまシンジに駆け寄った。
「ブイブーイブイ!? ブイブイィ!?」
たしたしとシンジの膝を前足で叩きながら、メスのイーブイが抗議の声を上げる。
――私たちをもらうって言ったでしょ!? 置いて行くの!?
イーブイがいやいやと首を振る。
その声は、人間には理解できない。
シンジが困ったようにサトシを見上げるのを見て、ピカチュウとデデンネが顔を見合わせた。
「ブイイ!」
「わっ!」
しびれを切らしたのか、灰色のイーブイがサトシに体ごとぶつかる。その勢いに押されて尻もちをついたサトシの上に、イーブイが乗り上がった。
「ブイブーイ!!」
――僕を連れて行け!!イーブイがサトシの腹を前足で叩いた。
それでも困惑する様子を見せるサトシ達に、ピカチュウとデデンネが動いた。
「ぴっかぁ!」
「わっ? ピカチュウ?」
「デネー!」
「デデンネ?」
ピカチュウはサトシのリュックに頭を入れ、中身をあさる。デデンネはシンジのボディバッグの飛び乗るが、ファスナーに手が届かずに四苦八苦している。そのうちにころりと転がり落ちた。
「どうしたの、デデンネ?」
「ピカチュウもいきなりどうしたの?」
ユリーカたちが疑問の声を上げる。
一人納得の言った風なシトロンが、優しくデデンネを抱き上げた。
「ひょっとして、新しいボールを探しているんじゃないですか?」
「! デネー!!」
「ぴっかぁ!!」
デデンネとピカチュウは大きくうなずいた。そのことに一同は眼を丸くした。
そんな考えは思い浮かばなかった。
だってそうだろう。先程まであんなにゲットされるのを嫌がっていたのだから。
「イーブイたちは二人と一緒に行きたいんですよ」
シトロンの言葉に、サトシとシンジは瞠目した。イーブイを見やると、イーブイたちは嬉しそうに笑って頷いている。
シンジが、イーブイのわきに手を入れ、ゆっくりと顔の高さまで持ち上げた。
「一緒に、来たいのか……?」
「!! ブイィ!」
自分の言葉を理解したと分かったイーブイは、目を輝かせてシンジを見つめた。
前足をばたつかせてシンジに抱きつこうとしている様子に、シンジは呆気にとられた。
前に進もうと懸命になる姿が愛らしい。自分を慕う様子に、愛おしい気持ちになる。
頬を緩ませて、シンジは自分からイーブイを抱きしめた。
そんな様子を隣で見ていたサトシは、シンジから自分の上に乗りかかっているイーブイに目を向けた。
「お前も、俺と来たいのか?」
「ブイ!」
何度もそう言っているだろう、というように、大きくうなずく。
でも、とサトシは眉を下げた。
「お前たちは離れたくないんだろ? シンジにゲットされなくていいのか?」
「何を言っているんだ、お前は」
「え?」
サトシの困惑した様子に、シンジが呆れたように嘆息した。
「お前、私から離れるつもりか?」
「――っ!!」
眉を寄せ、不快感をあらわにするシンジに、サトシが目を見開く。
――そんなつもりは一切ない。けれど、今の発言はそうとも取れる。
これは自分が悪いな、とどこか拗ねたように見えるシンジに苦笑した。
「そうだな。俺たちはずっと一緒だよな!」
サトシの満面の笑みに、シンジも口元を緩めて微笑んだ。
「そうよね! 私たちはずっと一緒よね!」
セレナが膝をつき、シンジの両肩に手を乗せる。
――よくも邪魔してくれたな。シンジがセレナを睨みつける。
――抜け駆けしようったってそうはいかないんだから。セレナも憮然とした表情でシンジを見降ろした。
「そうですよね! 僕たちはずっと一緒です!」
「ユリーカもずっと一緒よ!」
「――そうだな! 俺たちは仲間だもんな!」
セレナにつられるように、シトロンたちもサトシに笑みを向ける。サトシはシンジに向けていたものとは違った種類の笑みを向けることによって、それに答えた。
「ブイー!」
「ブイィ!」
自分たちもずっと一緒だ、というように、イーブイたちがそれぞれ主人になってほしい相手に擦り寄る。2匹はゲットされる瞬間を今か今かと待っていた。
サトシとシンジがボールを出し、それぞれのイーブイの額に押し当てる。軽い音とともにイーブイたちはボールに吸い込まれ、カチリ、とボールが閉じた音が響いた。
――ゲットした証の音だ。2人の顔に、自然と笑みが浮かんだ。
「イーブイ、ゲットだぜ!」
「ぴっぴかっちゅう!」
「これからよろしくな! イーブイ!」
「しっかりついてこい」
ボールに向かって笑いかけるサトシとシンジに、ボールの中に入ったイーブイたちはもちろんだ、というようにうなずいた。
新たに仲間が増え、サトシ達の旅はより一層にぎやかなものとなる。