恋は戦争






輝きの洞窟入り口前。
サイホーンから降りたサトシ達は、その前にたっていた。


「さぁ、着いたわ!ココが入り口よ!」


パンジーの案内のもと、一行は洞窟内部へと足を進めた。
中は灯りがないのに明るかった。
壁から突き出た輝く意思が、淡いながらも洞窟内を照らしていた。


「うわぁ・・・きれぇ・・・」
「すっごーい・・・」


セレナがうっとりと眼を細め、ユリーカが目を輝かせた。
水晶や進化の石になるために大地のエネルギーを蓄え、発光している石でさまざまな色で満ちた洞窟内は、誰が見ても美しいというだろう。
思わずため息が出るほどの美しさだ。


「あ・・・わぁ・・・」
「ぴかちゅう・・・」


サトシとピカチュウが感嘆の声を上げた。
改めてうっとりとした声を出した2人に、何かきれいなものでも見つけたのだろうか、と、シンジは2人を見やった。
2人の方を見ると、2人と視線がぶつかり、シンジは面食らった。


「何か見つけたのか?」
「うん。な、ピカチュウ?」
「ぴかっちゅう!」


サトシがシンジの髪に手を伸ばし、さらりとなでる。
サトシとピカチュウが顔を見合わせて笑っているのを見て、シンジは眼を瞬かせた。


「おい・・・?」
「シンジ、気付いてないだろ。髪、青色になってる」
「え?」


横髪に手を伸ばし、目の前に持ってくる。
見れば、確かに青色に染まっていた。
少し高い位置で青く輝く石に照らされているからだろう。
うっとりと自分を見つめるサトシに、シンジは口元を緩めた。


「お前の目も青くなってるぞ」


青い光を吸収して藍色に輝く瞳に、シンジが目を細める。
そっと目尻をなでてやれば、サトシは嬉しそうにシンジの手に自分の手を重ねた。
仲睦まじい様子を見て、パンジーとシトロンが微笑ましげに笑う。
ユリーカも嬉しそうに笑っていた。
サトシに恋するセレナだけは、唇を尖らせていたけれど。


「あれ?」


ふと、ユリーカが声を上げた。


「どうしたの?」
「今何か・・・」


ユリーカがごつごつとした岩を見て首をかしげた。
それに気づいたサトシ達も、そろって岩を見つめるが、特に変わった様子は見られない。


「可笑しいところは無さそうだけど・・・」
「何かいたの、絶対!」


じぃっと目を凝らす。
それは一瞬だけ顔を出した。


「「「あ!」」」


全員がそれを目撃した。
足しにか何かがいた。


「ほらね!あれはきっとポケモンよ!」


たたた、と軽い足取りでユリーカが岩の後ろに回り込む。
それと合わせるように岩の後ろに隠れていた何かがこちら側に回った。


「あれは・・・!」


――――――――チゴラス。
先程図鑑で見た姿が、そこにいた。


「あれ?いない・・・」


岩の後ろで正体を探すユリーカの背中を見ながら、チゴラスがくふくふと笑う。
サトシ達からは丸見えだが、チゴラスはユリーカにさえ見つからなければいいのだろう。楽しそうに笑っている。
ユリーカがまたこちら側に戻ってくると、チゴラスはまた裏側に消えた。


「もぉ~!何でいないの~!?」
「デネ~!」


拗ねたように声を上げるユリーカとデデンネ。
その様子をチゴラスがうかがっているが、ユリーカは気付かない。
見かねたサトシがそっとユリーカのそばに歩み寄った。


「ユリーカ、俺は左側から回るから、ユリーカは反対側から回り込むんだ。そうすれば、きっと見つかるよ」
「!うん!」


ユリーカが正面から駆けつけてきたことに驚いたチゴラスが、慌てて表側に回ろうと走り出す。
しかしその先にはサトシがいて、正面には回れない。
もう一度戻ろうとして、ユリーカに見つかった。


「あー!いたー!」


ユリーカが嬉しそうにチゴラスに抱きつく。
チゴラスは見つかってしまったことに落胆して、けれども嬉しそうに抱きつくユリーカにチゴラスは笑った。
ぐりぐりと頬をすり寄せ、楽しそうにじゃれついている。


「ユリーカは本当にポケモンが大好きだな!」
「ああ」


ユリーカとチゴラスを微笑ましげに見ていると、不意にチゴラスが顔を上げた。


「ゴラァス!」


――――――――ズズゥン・・・

チゴラスの呼びかけとともに地響きが聞こえたる。
その音はゆっくりとこちらに近づいてきた。
何を想像したのか、セレナの顔がどんどん青くなる。
怪物が来る、とでも想像したのだろうか。


「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


洞窟の先から、すさまじい咆哮が聞こえた。
その声に、チゴラスは嬉しそうに駆け寄った。


「ゴラァス!」
「ゴラァ!」


2メートルはゆうに超える大柄なポケモンが現れた。
チゴラスはそのポケモンに嬉しそうに擦り寄っている。
親子なのだろう。擦り寄られたほうも嬉しそうに笑っている。


「あ、あのポケモン、ユリーカのパジャマのポケモンだ!」
「本当!実際はあんなに大きいのね!」


ユリーカとセレナの声を聞きながら、サトシとシンジが図鑑をかざす。
名前はガチゴラス。チゴラスの進化形だ。


「ゴラ、ゴラァス!」
「チゴラァ・・・」


チゴラスが嬉しそうにユリーカの周りを回る。
遊んでもらった報告でもしているのだろうか。
チゴラスが嬉しそうに笑うと、ガチゴラスも嬉しそうだ。


「チゴラァ!」
「うわぁっ!?」


チゴラスがユリーカの足の下に潜り込む、ユリーカを背に乗せる。
それに驚いていると、ガチゴラスも膝を折り、背中を見せた。


「乗れ、ってことなのかしら・・・?」
「ゴラァス、」


パンジーの呟きに、ガチゴラスがうなずく。
サトシの顔を見合わせて、それから順番に背中に乗った。

チゴラス達は先ほどガチゴラスが現れた方へと進んでいく。
奥へと進む道は広くないが、水晶の続く壁が美しい通路となっている。
彼らの歩みに任せるままに奥に進んでいくと、化石の採掘場についた。
ここには水晶はないが、代わりに化石の後や、化石のかけらが壁画のように続いている。
趣は違うが、こちらも美しい。


「凄いなぁ・・・」
「大自然の神秘ですね!」
「ここを教えてくれてありがとう、チゴラス!」
「ゴラァ!」


サトシ達の満足そうな様子にチゴラス親子も嬉しそうに笑った。



































「今日はありがとう、チゴラス、ガチゴラス!」


洞くつ探検を終えたサトシ達は、輝きの洞窟前にいた。
そとはすでに夕日が沈みかけており、岩肌を照らしている。


「ゴラァ!」
「ゴラァス!」


チゴラス親子は嬉しそうに笑い、大きくうなずいた。
それを見てサトシ達は外で待っていたサイホーンたちにまたがる。
しっかりと自分の体にしがみついたことを確かめ、サイホーンたちはゆっくりと立ち上がった。


「また遊ぼうな~!」
「じゃあね、チゴラス、ガチゴラス!」
「チゴラァ!」
「ゴラァス!」


サトシ達はチゴラス達に大きく手を振り、コウジンタウンへと帰って行った。
また会おう、と再会を約束して。




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