恋は戦争
サトシ達は今、化石研究所にいる。
アマルスたちを研究所に戻したサトシ達は、うやむやになってしまったパンジーの取材に付き合っているのである。
サトシ達は化石を見てはしゃいでいるが、セレナにはただの石にしか見えず、首をかしげていた。
研究員と話していたパンジーがあ!と声を上げた。
「そう言えば、この研究所ではほかにも化石ポケモンの復元に成功したんですよね?」
「ええ、チゴラスというポケモンです」
2人の会話を聞いていたシンジが図鑑を取りだす。
「チゴラス」と検索をかけると、すぐにチゴラスの画像が出てきた。
図鑑登録はしていないので、それ以外の情報は出てこない。
「繁殖に成功して、だいぶ一般的になりましたよね!」
「ええ!」
「チゴラス?」
サトシも「チゴラス」の話題に興味を持ったらしく、パンジーたちを見上げた。
「これだ」
シンジが図鑑を見せると、サトシだけでなくユリーカたちも集まり、皆で画像をのぞき見た。
ユリーカが可愛い!と声を上げた。
「チゴラスの化石はどこで発見されたんですか?」
シトロンの質問に研究員が嬉しそうにうなずく。
化石に興味を持ってもらえて嬉しいのだろう。
「この研究所近くの輝きの洞窟だよ。凄くきれいな洞窟で、観光客にも人気なんだ」
「そうなんですか!行ってみたいなぁ」
サトシが輝きの洞窟に想いを馳せる。
響きが気に入ったのか、セレナも興味深そうだ。
「じゃあ、行ってみましょうか!場所は私が知ってるわ!」
「え!?本当ですか!?」
「行きたーい!」
サトシとユリーカが嬉しそうにパンジーを見上げる。
一行のリーダー的存在であるサトシと一行が総じて甘やかすユリーカが行きたいと言えば、誰も反対はしない。
決まりね!とパンジーが笑った。
「運がよかったら、彼らに出会えるかもしれませんよ」
「え?彼ら?」
研究員の言葉にサトシが振り向けば、研究員は唇に指をあてて、意味深に笑った。
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9番道路。別名トゲトゲ山道。
その名の通り、ごつごつトゲトゲした足場で人間の足では通るのは難しい山道だ。
「ここからはサイホーンに乗って行くの。これも名物の一つよ」
「そうなんだぁ!」
ポケモンが大好きなユリーカが嬉しそうに笑う。
サイホーンの看板の下には、サイホーンが5体並んで座っていた。
鞍と手綱が付いている。
普通の個体より大きく、2人乗りと書かれていた。
2人乗りだとわかると、ユリーカとセレナが顔を輝かせた。
ユリーカはシンジを、セレナはサトシを見やった。
「ユリーカちゃんは私と乗りましょう?」
「えっ?あ、うん!一緒に乗ろう、パンジーさん!」
「シンジ!一緒に乗ろうぜ!」
「あ、ああ・・・」
「じゃあ、セレナは僕と乗りましょうか」
「う、うん」
ユリーカと乗ることになるだろうと思っていたシンジは、ユリーカを誘ったパンジーに驚いていた。
パンジーの顔をうかがうと、彼女はぱちりとウインクをしてみせた。
おそらくサトシがユリーカを優先することを察していたのだろう。
そしてユリーカがパンジーの誘いを受け、フリーになったシンジをサトシが誘った。
パンジーはセレナがサトシに好意を寄せていることに気づいていないから、全面的に自分とサトシの中を深めようと協力してくれている。
妹を見るような優しい目で見つめられ、シンジは顔が熱くなるのを感じた。
「じゃあ、行きましょうか!」
パンジーがユリーカを乗せ、その後ろにまたがる。
人に慣れているのか、サイホーンたちは大人しかった。
「シトロン、私が先に乗るから、私のマネをして、ゆっくり乗ってね?」
「はい、わかりました」
セレナは慣れたもので、無駄のない動きでサイホーンにまたがる。
シトロンはセレナの補助を受けながら、彼女のマネをしてサイホーンの背に乗った。
「シンジ、先どうぞ。俺が乗ってたら乗りにくいだろ?」
「そんなこともないと思うが・・・」
「それに、もしシンジが乗るのに失敗したとき、受け止められないだろ?」
「・・・っ!(っとに、こいつは・・・っ!)」
ハナコもなかなかのたらしで格好いい人だった。
あの親ありにしてこの子あり、と言ったところか。
何でもないことのようにさらっと相手を気遣えるところがどうしようもなく格好いい。
シンジが思わず顔を覆った。
そんなシンジの心中を察して、ピカチュウが苦笑した。
「シンジ?」
「何でもない」
絶対落ちてやるものか、と意気込みながら、ひらりとサイホーンにまたがる。
その身軽な動きに、おお、と感嘆の声が上がった。
「シンジ、うまいなぁ!」
「お前の乗り方の練習を見ているうちに覚えた」
「へぇ~!」
凄いすごいと言いながら、サトシもさっそうとサイホーンにまたがった。
パンジーが全員がサイホーンに乗ったことを確かめると、空に向かって拳を突き上げた。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか!輝きの洞窟に向けて、レッツゴー!」
「「「おー!!」」」
掛け声に合わせてサイホーンが動き出す。
しっかりと手綱を握り、姿勢を正す。
けれどもシンジは、思わず顔を覆いたくなった。
「(し、失敗した・・・!)」
腰にまわされたたくましい腕に、シンジは赤面した。