恋は戦争
「それじゃあ、勝利の記念に1枚!ほら、シンジちゃん、もっとサトシ君にくっついて!皆が入らないでしょう?」
サトシとシンジがバトルシャトーで称号を得た記念として、ビオラからの提案により、写真を取ることとなった。
サトシとシンジを中央に、セレナたちが集まっている。
サトシとシンジは肩が触れ合うくらいに近寄って、ようやくビオラからオーケーサインが出た。
「撮るわよー」
――――パシャり、
1枚写真を撮ったと同時に、ビオラの殻に手袋がかけられる。
サトシ達が驚いていると、ビオラは相手を悟ったのか、不敵に笑った。
「いつ、誘ってくれるのか、待っていたのよ。ザクロ君」
手袋を投げたのはザクロだ。
ビオラは手袋を受け取り、決闘は受理された。
2人は赤いマントをはおり、フィールドに降り立った。
2人ともあと一勝すれば最高の爵位を得られるという。
両者とも真剣な表情をしている。
「さぁ、行くわよ、アメタマ!」
「行け!イワーク!」
バトルはビオラの先生の冷凍ビームから始まった。
フィールドを凍らせ、イワークへと向かっていく。
「やっぱりその戦法で来ましたね!しかし、得意のスピードは封じてあげますよ!岩石封じ!」
イワークの岩石封じが繰り出される。
しかしそれはただの岩石封じではなく、岩石を操り、確実にアメタマを追い詰めていく。
何度か危機に見舞われたが、ビオラも実力者だ。
危機を脱し、反撃に転じる。
技がぶつかり合い、爆発が起きる。
その煙に乗じて、ビオラがアメタマに間を詰めさせるが、ロックカットでスピードを上げたいワークがアメタマのスピードを圧倒する。
「冷凍ビーム!」
「イワーク、飛べ!」
しっぽを凍らされ、身動きの封じられたいワークに、ザクロは飛べ、と指示を出した。
イワークはその巨体からは想像もつかない身軽さで飛んだ。
「岩石封じ!」
岩石封じで今度はアメタマの動きを封じ、とどめのラスターカノンがアメタマに直撃した。
避けることが出来なかったアメタマは眼を回した。
最高の称号をかけた2人の戦いは、ザクロの勝利で終わった。
バトルシャトーから帰ろうとするザクロの後を、サトシ達は追いかけた。
外は日が落ち始め、夕日が輝いている。
「ザクロさん!今のバトルすごかったです!俺、ランクを上げて、ザクロさんとバトルしたいです!」
「俺たちもでかい目標が出来ました!」
「今日は負けても明日は勝ちます!」
「登っておいで。待っていますよ」
サトシやニコラの宣言に、ザクロは嬉しそうに笑った。
そうして、再度出て行こうとする足を、今度は自ら止めた。
「そうだ、君たちはジムめぐりをしているそうですね」
「「はい」」
「じゃあ、ここでバトルする前に、ジムで会えると思いますよ」
「え?」
「彼、ショウヨウジムのジムリーダーなのよ」
ビオラの言葉に、サトシ達から驚きの声が上がる。
ザクロに詰め寄るシトロンたちを余所に、シンジはやっぱりな、とどこか遠いところを見ているような達観した目をしていた。
「君たちのポケモンはなかなかに強い。君たちが挑戦しに来る日を楽しみに待っていますよ」
「「はい!」」
「それじゃあ」
そう言って、ザクロは今度こそバトルシャトーを後にした。
「バッジをゲッドするためには、あのすごい岩石封じ対策が必要ね」
「ああ。みんなやるぞ!これから特訓していかなくちゃな!」
「ぴかぁ!」
セレナの言葉にサトシがうなずく。
サトシの言葉に、ピカチュウが同意するように威勢のいい声を上げた。
「ニコラ、テスラ。ここを教えてくれてありがと名」
「いいってことYO!」
「お前もジム戦頑張れYO!」
嬉しそうにニコラ達と話すサトシの後ろ。
一歩引いたところで3人の会話を聞いていたセレナは、じと目でニコラとテスラを見ていた。
「また戻っちゃったYO・・・」
「移ってるぞ」
「はっ!」
シンジの指摘にセレナが慌てて口をふさぐ。
サトシに聞かれていないことを確認して、ほっと息をついた。
「俺たち、もっともっと強くなって、次はグランディークになってるYO!」
「楽しみにしててYO!」
「イベントにも行くYO!」
「サンキュー、2人とも!お互い、すっゲー強くなって、また会おうぜ!」
夕日の中、サトシ達は再会の約束を交わした。
ニコラとテスラに大きく手を振り、サトシ一行はバトルシャトーを後にした。
「楽しかったな、バトルシャトー」
「そうだな」
「それにしても、次のジム戦も一筋縄じゃいかなそうだな」
「ああ。イワークの岩石封じは強力だ」
2人でジム戦について意見を戦わせながら歩く。
対策や戦略について2人は異なる考えを持っているため、このディベートはよく口論にまで発展する。
2人が熱くなる前に止めなければ、時折つかみ合いにまで達してしまうため、シトロンたちは気が気ではない。
「ねぇ、あれ見て!」
口論にまで発展する前に意識を他に向けさせようと機会をうかがっていた折に、ユリーカがシンジの袖をつかみ、声を上げた。
ユリーカの示す方向を見ると、そこには深紅のポケモン――――ハッサムがいた。
「お前は・・・」
「ハッサ、」
シンジが驚きの声を上げる。
ハッサムはシンジのそばにたつと、、傷つけないようにそっとシンジの手を取った。
「ハッサム・・・?」
「ハッサ、」
シンジの手に何かを押し付け、ハッサムは一度シンジを見つめて、すぐにどこかへと去って行った。
呆然としたようにその様子を見つめていたシンジは、手のひらに残る感触に、そっと目を落とした。
ハッサムが握らせたのは一輪の花。
白い、小さな花だった。
「・・・何故、私に・・・」
「お礼なんじゃないかな?」
ハッサムの意図がわからず、呆然とつぶやくと、セレナが隣で笑った。
セレナの顔を見ると、セレナはさっき助けたでしょ?ともう一度笑った。
シンジはもう一度花に目を落とし、ふ、と口元に笑みを浮かべた。
「・・・気障なやつだな、」
可愛らしい花を見つめながら、サトシ一行は次の町へと歩き出すのだった。