2人のみこ 2
シンジは森の中にいた。カロス地方の大きな大きな森の奥。
不思議な輝きを持った森は、シンジを快く歓迎していた。
シンジはその中でも特殊、不思議な色を持つ気のそばに歩み寄った。
否、それは気ではなく、一体のポケモンであった。
『来たか、我らが愛娘よ』
「久しぶりだな、ゼルネアス」
気のようなポケモンは、シンジが触れると、枝のようなつのが輝きを放ち始めた。
さまざまな色を持つ角が、シンジの髪を染め上げた。
その美しさにシンジが目を細めた。また、ゼルネアスも、光を受けて輝くシンジの髪に見惚れた。
「サトシもカロスの旅を始めたようだ。今、ショウヨウシティを出たところにまで来ている」
『そうか・・・』
ゼルネアスが、懐かしそうに眼を細める。
サトシもシンジも、”サトシ”と”シンジ”という存在に生まれ変わってから、ゼルネアスとは出会っていなかった。
他にも数体、出会っていない神々がいるのだが、これからの旅で会いに行くつもりでいる。
「・・・もうすぐ、だよな」
『ああ・・・』
――――もうすぐ、イベルタルが目覚める
イベルタルとは、癒しを司るゼルネアスとは対極に位置する破壊を司るポケモンだ。
圧倒的な破壊力を誇るイベルタルは人々から恐れられる恐怖の象徴だった。
かつてカロスで破壊の限りを尽くしたイベルタルは”破壊神”として、カロスの人々に畏怖倦厭の念を抱かせていた。
そんな彼は、深い眠りについている。
イベルタルは、ある周期ごとに目を覚ます。
その周期が来ると、サトシとシンジは彼の元に訪れる。
そして、子守唄を唄うのだ。
彼は、子守唄を聞くと、良く眠れるのだ。
イベルタルは望まずして破壊の力を得たポケモンだった。
その強大な力ゆえに、彼はすぐに疲れ、眠りに落ちる。
生まれてから今まで、ほとんど眠りについている彼は、まだまだ赤ん坊だった。
遊びたいけれど、甘えたいけれど、人々からは恐れられ、ポケモンたちからは忌み嫌われる。
だから彼は、目覚めることを恐れている。悲しい哀しいポケモン。
――――本当はただ、力の加減がわからない子供なだけなのに!
「また・・・傷ついてしまうのか・・・。あの純粋で無垢な、幼い心が・・・」
『ああ・・・。だからせめて、眠りにつくときだけは、悲しまぬよう、良い夢が見れるよう、お前たちの子守唄で、眠らせてやってほしい』
ゼルネアスは、泣いているような声で、祈るように言った。
ゼルネアスのか細い声に、シンジはそっと目を伏せた。
「・・・お前は優しいな」
囁くような声だった。
シンジが、ゼルネアスの首筋をなでる。
ゼルネアスは、そっと首を振った。
「お前は私たちが理解しているとわかっていても、毎度そうやって、私たちに願うんだ」
シンジはそっと目を伏せる。
長い睫毛がふるりと揺れた。
それから、ゆっくりと首をそらせ、ゼルネアスを見上げた。
今度は、ゼルネアスが目を伏せた。
『・・・彼は、私の対なのだ。お前とサトシのように、』
「ああ・・・」
『お前がサトシを大切に想うように、私もイベルタルが大切なのだ。だから、何度でも、彼の幸せを祈ろう』
ゼルネアスが膝を折り、シンジの頬に顔をすりつけた。
シンジもそれに答え、ゼルネアスの額に額を合わせた。
「サトシと一緒に、子守唄を唄いに行こう。必ず、」
『ありがとう・・・。我らの最愛の娘よ』
ようやく笑みを見せたゼルネアスに、シンジも笑みを浮かべた。