恋は戦争






シンジと入れ替わるようにして、サトシとテスラがフィールドに降り立つ。
テラスに戻ったシンジは、シトロンたちの元の戻る前にビオラに手を引かれ、テラスに備え付けられたテーブルに着かされた。


「ビオラさん・・・?」
「ちょっと私たちとお話しましょ」
「私、たち?」


にこり、と笑ったビオラの言葉に首をかしげれば、コツコツと靴音が近づいてくる。
その音の先を見れば、飲み物が入ったカップを持ったザクロがいた。


「どうぞ」
「え?ありがとうございます・・・」


ザクロがビオラとシンジに飲み物を渡す。
それぞれ飲み物を受け取り、口をつけた。
ザクロは椅子を引き、シンジの隣に座った。


「見てましたよ、さっきのバトル。良いバトルでした」
「相手の戦意喪失でしたけどね」
「それでもあなたの勝ちですよ。それに、あのまま続けていても、あなたが勝っていたでしょう」


ザクロの称賛の声に、シンジは何とも言えない表情になった。
手放しの称賛に慣れていないというものあるが、チャームボイスの判断を誤ったことが喰いとして残っている。
そのため素直に喜ぶことが出来ないのだ。


「ところで、先程の気迫と言い、あなたは何者なんですか?ただ者ではなさそうだ」
「私からすれば、あなたの方がただ者ではなさそうに思いますけど」


色んな意味で、という言葉は必死でのみ込んだ。
シンジの言葉にザクロは面食らい、ビオラは笑った。


「あ、そうだわ。姉さんに聞いたわ、あなたたちのこと。イベントの宣伝係をしてるんですって?」
「はい」
「うちのジムにもポスターを張りたいんだけど、もらえないかしら?」
「差し上げますよ」
「僕ももらえますか?」
「どうぞ」


ポスターとチラシを1枚ずつ渡し、それを2人がありがとうと言って受け取った。
2人の視線がチラシに向くと、シンジはザクロにもらったジュースに口をつけた。


「(そう言えば・・・パンジーさんは私達がフロンティアブレーンだとビオラさんに話していないのだろうか?)」


ビオラの反応を見るに、自分たちがフロンティアブレーンであることを知らないのだろう。
イベントのネタばれになってしまうため、公言するのは控えるように言われている。
しかしパンジーはイベントについての記事を書くために、写真なども必要とするだろう。
そうなれば、ビオラの力も借りるはずだ。
説明もなしに手伝ってくれるのだろうか?
ザクロにもらったジュースを見つめながら、シンジが首をかしげた。


「(この分だと、何もかも黙っているんだろうな・・・)」


自分たちが婚約関係にあることはおろか、恋人同士であることさえも。
シンジはフィールドにいるサトシをそっと見つめた。


「サトシ君とはライバルなんですって?」
「!?」


予想外に近くで聞こえてきた声に、シンジが驚いてビオラを見る。
ビオラは口元に手を当て、シンジの耳元に唇を寄せた。


「姉さんはそれだけしか言わなかったけど、それだけじゃない気がするのよね~?」


私の見立てでは両想いなんだけど、合ってるかしら?
いたずらっ子のような笑みを浮かべて尋ねるビオラに、シンジは盛大にむせた。
チラシに見入っていたザクロが驚いて顔を上げるくらい盛大に。


「図星?やだ、かわい~」
「ちょっと、ビオラ?シンジさんに何を言ったんですか?」
「べっつに~?」


くすくすと笑うビオラに、ザクロは片眉を上げた。


「大丈夫ですか?」
「は、はい・・・」


ザクロに背中をなでられ、呼吸を整えながらシンジがうなずく。
よかった、と笑って、ザクロはビオラに向き直った。


「そう言えば、君はサトシ君ともバトルしてるんですよね?」
「ええ。冷静なシンジちゃんとは逆に、ガッツのあるトレーナーだったわね。サトシ君だけじゃない、ポケモンたちも。あの熱さはザクロ君を絶対熱くさせてくれると思うわ」


そう言ってビオラがフィールドに目を向けた。
シンジもザクロも、つられるようにフィールドを見つめた。
サトシはピカチュウ。テスラはヤヤコマでバトルするようだ。


「行くぞ!10万ボルト!」
「高速移動!」


サトシとテスラのバトルが始まった。
ヤヤコマの高速移動で10万ボルトがかわされる。
逃がさないというようにエレキボールが放たれた。


「勢いのある子でしょ?」
「まぁ。だけど、いかに電気技に飛行タイプと言っても、命中しなければ意味はないですよ。勢いだけではまだまだだ」


ジュースに口を付けていたシンジが、ストローから口を離した。


「ザクロさん、あなたに一つ言っておきます」
「「!!」」


がらりと雰囲気を変えたシンジに、ザクロとビオラがシンジを振り向く。
そこにはフィールドで見たときと似たような気配をただよわせたシンジがいた。


「あいつはまだ本領を発揮していない。あいつが本当に強くなるのはカロスのポケモンを知り、カロスのバトルを知ったときです。私のライバルをなめないでください」
「・・・!」


シンジの言葉にザクロが目を見開く。
ふ、と楽しげに笑って、ザクロはフィールドに目を向けた。
シンジの言葉の真意をはかろうとしているのだろう。
それを見て、シンジもフィールドを見つめた。


「フェザーダンス!」


フェザーダンスは相手の攻撃力を下げる技だ。
今のでピカチュウのは攻撃は下げられた。


「鋼の翼!」
「負けるか!アイアンテール!」


鋼の翼とアイアンテールがぶつかる。
相殺できたが、アイアンテールにいつもの切れも威力もない。


「鋼の翼!」
「もう一度アイアンテール!」


連続のアイアンテールが鋼の翼と接戦を繰り広げている。
パワーダウンさせられているにもかかわらず拮抗を保つピカチュウに、テスラは驚いているようだった。


「一発で弱いようなら何度でも打ち込むだけだ!」


何度も打ちつけられるアイアンテールに、ついに拮抗が崩れる。
ピカチュウのアイアンテールでヤヤコマが地面にたたきつけられた。
やはりパワーダウンしているようで、一撃では倒せなかったが、ヤヤコマがダメージを受けたことには変わりない。


「2人の言った通りのようですね。逆境を跳ね返すパワー。もう勝負は見えましたね」


ザクロが楽しげな笑みを浮かべて呟く。
それと同時にピカチュウの10万ボルトが決まり、決着がついた。
見事テスラに勝利を収めたサトシは、シンジと同じく白いマントをはおり、バロンの称号を得た。
嬉しそうにマントを見つめるサトシに口元がほころぶ。


「じゃあ、私はこれで。ジュースありがとうございました」
「いえいえ」


席をたち、ひらりと手を振るザクロとビオラに頭を下げ、ジュースのカップをごみ箱に捨てる。
階段のそばに駆け寄ると、サトシも階段のそばに駆け寄り、大きく手を振った。


「どうだ、シンジ!俺、バロンだぜ?似合うか?」
「ああ、似合ってる」


シンジが柔らかい笑みを浮かべると、サトシが照れたように笑った。




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