恋は戦争・番外編
「ねぇねぇ! 今日のご飯は何?」
広い原っぱでテーブルを広げ、サトシ一行は昼食の準備をしていた。
セレナとともに皿を用意していたユリーカが兄のシトロンに声をかける。
きらきらと輝く妹の瞳を見て、シトロンが穏やかに笑う。
「今日はシチューだよ」
「やったぁ!」
「人参もちゃんと食べないとだめだからね?」
「う゛っ……はーい……」
唇を尖らせるユリーカに、シトロンが苦笑する。最近はきちんと人参を食べるようになったが、ユリーカは人参が大の苦手であった。食べさせるまでが大変なのだ。
すると、人参を切っていたシンジがユリーカを手招く。それに気付いてユリーカがシンジの元に駆け寄ると、シンジが手元を隠しながら人参を切った。
何をしているのだろう、と覗き込むと、シンジがゆっくりと手をどけた。
「ほら」
「わぁっ……! 可愛い……!」
現れたのは可愛らしく花の形に切られた人参だった。
型抜きを使わずに切られたはずなのに、きちんと花の形をしていて、ユリーカは興奮したように頬を上気させた。
「これなら食べられそうか?」
――ずるい、と思った。嫌いなのは人参の味なのに。自分のためにこんな風にかわいく切ってもらったら、食べないわけにはいかないではないか。
複雑そうな表情を浮かべるユリーカに、シンジはかすかな微笑を浮かべた。
「食べますかね、ユリーカ……」
「食べてくれるだろ。ユリーカはいい子だから」
隣で作業をしていたシトロンが苦笑する。シンジは確信をもったような口調で人参を鍋に落とし込む。
ユリーカは恥ずかしくなってその場から逃げた。
シチューが完成し、鍋に一番近い席に座るシンジがシチューをよそう。
花型に切られた人参は、きっちりとユリーカの皿に盛りつけられ、ユリーカが思わずシンジを見上げた。するとシンジはおもむろに花型の人参をすくい、ユリーカの口元に運ぶ。
先程の会話を聞いていなかったサトシとセレナが目を見開く。シトロンはユリーカの人参嫌いが筋金入りであることを知っているために、食べるかと不安げだ。
しかしユリーカは、何のためらいもなく口を開け、人参を咀嚼した。
「食べた……」
シトロンの呆然としたような呟きが落ちる。
「ユリーカって人参嫌いじゃなかったっけ……?」
同じように驚いたような表情を浮かべるセレナに、ユリーカが人参を飲みこんでから口を開いた。
「だって……シンジがお花の形にしてくれたんだもん……」
ああ、なるほど。それはシンジ大好きなユリーカなら食べるだろうな、とセレナたちが微笑む。
するとシンジがユリーカの頭をなで、口元を緩ませた。
「ちゃんと食べられて偉かったな」
「……! うん……!」
にっこりと笑って、ユリーカは嬉しそうにシチューを食べ始めた。もちろん、大嫌いな人参も。
「シンジって、良いお母さんになりそうですね」