恋は戦争・番外編






 サトシ達が分断してしまったのは、すべてロケット団により仕組まれたことだった。
 2つにわかれたうち、ロケット団はキーストーンとピカチュウのいるシンジたちの元に襲撃をかけた。
 ポケモンの能力を下げるメカを付けたポケモンたちには手を焼いたが、コルニの声を聞き、一時的にではあるが、メガシンカを制御したルカリオにより、ロケット団を追い払うことに成功。
 サトシ達は一夜ぶりの再会を果たしたのだった。


「シトロン、大丈夫だったか?」
「はい、大丈夫ですよ。サトシ達も怪我がなくてよかったです」
「ああ」


 サトシとシトロンは隆起して椅子のようになった地面に腰をおろし、一夜ぶりの再会を喜んで話に花を咲かせるセレナたちを見やった。
 いつもならサトシ達とともに傍観者の位置にいるシンジも、今日ばかりはコルニに引っ張られてユリーカたちと戯れていた。
 そんな様子を、サトシは優しげな眼で見つめていた。


「……シンジのことが聞きたいなら、最初から聞けばいいのに」
「えっ!?」
「ずっと目で追ってますよ」


 サトシが慌ててシトロンを振り返ると、シトロンは苦笑していた。
 サトシが居心地悪そうに頬を掻き、シトロンからもう一度シンジに目を向けた。


「シトロンたちの心配をしてなかったわけじゃないよ。ただ、あいつ冷静なようで結構無茶するからさ……」


 ええ、知ってますとも。昨夜のうちに嫌というほど。シトロンが形容しがたい笑みを浮かべる。
 好きな相手の知らなかった一面を知れた喜びと、それがサトシに対するものであったという落胆の混じった、奇妙な笑みだった。


「確かに無茶しますよね。崖の上に登ってサトシを探したり」
「えっ!?」
「あ、ちゃんとすぐに降りるように言ったので、怪我はありませんよ?」


 シトロンの言葉にサトシが慌てる。それを見てすぐに訂正すれば、サトシは胸をなでおろした。


「好きな子が怪我をしたら嫌ですからね」
「…………え?」


 聞き間違いだろうか、と問い返すような瞳でサトシがシトロンを見やる。それには答えを返さずに、シトロンは笑った。


「シンジってサトシが大好きですよね」
「え? あ、いや……そう、かな……?」


 何でもないことのように笑えば、サトシがわかりやすく狼狽する。何か心あたりでもあったのか、赤面して顔を伏せた。
 ずるいなぁ、と胸を痛めて、シトロンは続けた。


「そうですよ。ずっとサトシの名前を呼び続けてのどを痛めるところだったんですよ?これもちゃんと止めたので大事ないですけど」
「そっか……」


 シンジの声が聞けなくなるのは嫌なので。そう言ってシンジを見つめれば、今度こそ聞き間違いではないことを悟ったサトシが、驚愕に包まれた気配がした。
 それにシトロンが声をあげて笑った。


「ふふ、でもそれと同じくらいサトシもシンジのことが好きですよね?」
「し、シトロン……?」
「僕も好きですよ、シンジのこと」
「…………!」


 ほぼ失恋確定ですけどね、と笑えば、サトシがシトロン、と咎めるような声を上げた。
 サトシは優しい。恋敵であるのに、自分を貶すような言葉は許さない。
 憎めてしまえば楽なのに、とまた胸の重みが増した。


「でも、僕は諦めませんよ」
「…………!」
「シンジ、凄く一生懸命にサトシのことを探していたんです。僕もシンジにそんな風に想われたい。シンジのことが好きだから」
「シトロン……」


 サトシを探していたときのシンジは真剣そのものだった。バトルを行うときとは違っていたが、それに劣らない真摯な様子を浮かべていた。
 早く会いたい。無事な姿を見たい。離れたくない。好きで好きでたまらない。
 もし自分が離れ離れになった時、そんな風に想ってくれたなら、それはどんなに幸せなことだろう。
 再会できたときにやっと会えたと、嬉しそうに幸せそうに笑った姿を見られたら、きっと天にも昇る心地を味わえることだろう。
 そんな甘美な情景が浮かんで離れない。
 諦めなければ手に入るだろうか?
 最後まであきらめずに手を伸ばし続けて数々のものをつかんできた人物が隣にいるから、シトロンも手を伸ばすことをやめられなかった。


「僕は諦めません。諦めなければ何とかなるって、サトシに教わりましたから」


 諦めずにいたからサトシはシンジの心を手に入れた。
 シンジは顔で人を選ばない。
 諦めなければ自分にも必ずチャンスはある。
 往生際が悪い? 自分でもわかってます。
 略奪愛なんて最低だ? 何とでも言ってください。
 僕はそれだけシンジのことが好きなんだ。
 その心意気が伝わったのか、目を丸くしていたサトシの目が、細く弧を描く。
 そして、嬉しそうに笑った。


「……ははっ! じゃあ俺たちライバルだ」
「ええ、ライバルです!」


 例え対等でなくとも、負けるつもりなんて毛頭ない。負けるつもりで挑んで勝てるわけがない。
 当たって砕けられるのなら本望だ。当たることすらできないまま終わるなんてまっぴらごめんだ。


「「絶対、負けないからな!/負けませんから!」」


 拳をつきあわせて、サトシとシトロンは笑った。
 それから2人は弾かれたように走り出した。行く先はもちろん、愛しいあの子の元――、




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