恋は戦争・番外編






カスミのアドバイスを実行するチャンスはすぐに訪れた。
今夜はポケモンセンターに泊まることになったのだが、セレナは明日のおやつのクッキー作りに厨房へ。
シトロンはまだ寝たくないと駄々をこねるユリーカを寝かしつけに宿泊スペースへ。
サトシとシンジは寝るにはまだ早いから、と外に散歩に出ている。
散歩と言っても裏手に作られたバトルフィールドで夜空を見るだけなのだが、恋人同士である2人には、ちょっとしたデートとも言えた。


「シンジ、どうしたんだ?」
「えっ?」
「何か、そわそわしてるっていうか、落ち着いてないっていうか・・・。何かあった?」


サトシが心配そうにシンジを見つめる。
シンジは慌てて首を振った。


「そういうわけじゃなくて、ただ・・・」
「ただ?」
「い、いつもと違ったことがしてみたいんだ」
「いつもと違ったこと?」
「た、例えば呼び方を変えてみる、とか・・・」


口ごもり、しどろもどろになりながらの提案に、サトシが首をかしげる。
はっきりとしない物言いはシンジらしくない。


「どんな呼び方?」
「えっ!?あ、あー・・・えっと、だ・・・旦那様、とか・・・?」


ドスリ、
何かが胸に突き刺さったような感覚に、サトシが胸を押さえた。
羞恥で真っ赤に染まった顔で、同じく羞恥で目に涙をためたシンジが聞き間違いでなければ自分を「旦那様」と呼んだ。
胸を押さえるのもうなずける。


「あ、えっと、い、嫌だったか?えっと・・・あ、貴方、とかは?」


どうしよう、この子。俺を殺りにきてる。
顔を真っ赤にしていい募るシンジにサトシが抱いた感想はそれだった。


「えっ、こ、これも嫌か?えっ?もう、サトシさんくらいしか・・・。いやでも、これは他人行儀で私が嫌だ・・・」


もう何て呼べばいいんだよ・・・っ。
今にも泣いてしまいそうな表情で、シンジがサトシを見上げた。
そのうるんだ瞳に、きゅうと胸が締め付けられ、サトシが思わずシンジを抱きしめた。


「や、やはりおかしかったか?」
「ううん。むしろ嬉しかった。ぜひ、エプロンつけて言って欲しい」
「は?」
「ああ、いや。とにかく、全然変じゃなし、嬉しかったのは本当。でも、そういうのは本当に旦那さんになった時に言って欲しいな」
「!」


抱きしめた体を離し、優しく髪をなでると、シンジが驚いたように目を見張った。
それから恥ずかしそうに視線を外し、ゆっくりとうなずいた。


「ね、名前で呼んで?」
「・・・サトシ、」
「もっかい」
「サトシ、」
「もう一回、」
「~~~っ!もう、いい加減にしろよ、サトシ!」
「ごめんごめん。でもやっぱり名前で呼ばれるのが1番嬉しいや」


そう言って笑ったサトシにシンジも笑った。


















「結局、いつも通りということになった。喜んでいたようだからよかったが・・・」
『あんたらはそれが1番よ。ゆっくり進んでいけばいいわ』
「そうする」
『無理しない程度に頑張んなさい』
「ん、」




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