恋は戦争・番外編
サトシはモテる。
サトシは非常に優しくて男前な少年だ。
見た目も悪くない。
ポケモンにも好かれ、人を引き付ける魅力がある。
シンジと同じ意味でサトシに心惹かれる少女たちが少なくないことを、サトシに恋してシンジは知った。
ここでひとつ、補足をしておこう。
2人が付き合い始めて間もなく婚約を申し立てたのに驚いた人もいるだろう。
これは若気のいたりとか、そんなものではなく、シンジの策略であった。
意外に思われるだろうが、婚約をしたいと言い出したのはサトシではなくシンジからであった。
シンジはサトシに恋をしてから、自分は彼以外に想いを寄せることはないだろう、と確信とも覚悟ともとれるものが、その胸に宿っていた。
けれども、シンジは「恋愛」と「女」という2点については全く自信がなかった。
つまり、サトシを引き留めれ置けるだけの材料と魅力(本人が無自覚なだけで、サトシは十二分にあると思っている)が皆無だったのだ。
ならば、外堀を埋めてしまおう。
サトシは不誠実な人間ではない。
正義感が強く、約束を破ることも嫌っていた。
正式な手続きなどしなくても、サトシ本人と、その家族(幸いにもハナコもレイジも放任主義である)に了承してもらえれば、彼がそれを違えるようなことはしないだろう。
だから、この婚約は決して浅はかなものではなく、一人の女の、生涯をかけた覚悟なのである。
外堀を埋めたからと言って、シンジはそれに甘んじてはいない。
何度も言うように、サトシはモテる。
それだけたくさんの少女たちが想いを寄せるのだ。
幾らサトシと言えど、いつまでも少女らの想いに気づかないとは限らないし、少女らになびかないとも限らない。
恋は人を狂わせる。
サトシの性分さえも、ねじ曲げてしまうかもしれない。
だからシンジは自信がなくとも、サトシをつなぎ止めておくために努力を惜しまない。
そして今日も、良き相談相手となったカスミに連絡を取った。
『サトシはね、努力を惜しまない奴でしょう?だから、一緒に努力してくれる相手がいるのが嬉しいの。だから、シンジの好感度は高いわ』
カスミは長い間、サトシとともに過ごしてきた。
だからその分、サトシを理解している。
彼女の言葉には説得力があり、何度もシンジを感心させた。
『そして何より、シンジは自分の好きな相手。自分に好かれようと努力する姿にときめかないわけがないの。例え空回ったり失敗したりしても、シンジが自分のために努力してくれるっていう事実があいつは何よりも嬉しいはずよ』
だから努力をやめちゃだめ。
そう言って笑うカスミに、シンジは「愚問だ」と答えた。
カスミは笑みを深めた。
『でも、あんまり派手にアピールするとライバルを刺激しちゃうことになるわ。だから、できれば2人っきりになった時、こっそりできるようなことから始めるのがいいと思うわよ』
「と、いうと?」
『そうねぇ・・・。いつもと違う呼び方で呼んでみる、とか?』
旦那様♡とか良いんじゃない?
そう言って笑うカスミに、シンジは電話口で突っ伏した。
「(しょっぱなのハードルが高すぎる・・・!)」