恋は戦争・番外編






サトシ達は昼食を終え、各々が自由な時間を過ごしていた。
草原の真ん中に腰をおろし、サトシたちは空を見上げていた。


「みんな!デザートにクッキーはいかが?」


セレナがバスケットに入ったクッキーを持ち、にっこりとほほ笑む。
おそらく昨夜泊ったポケモンセンターで作ったのだろう。
花の形の型抜きで作ったらしい。5つの花弁がかわいらしいクッキーだ。


「食べる食べる!」
「ユリーカも!」
「僕もいただきます」
「はい、どうぞ」


セレナがほしい!と手を挙げたサトシたちやポケモンたちに順にクッキーを配っていく。
シンジは甘いものは苦手なので断ったが、そのほかの甘いものが苦手な一部のポケモン以外、全員にクッキーが配られた。


「「「いただきまーす!」」」


各々が返事をして、おいしそうにクッキーを頬張る。
シンジはそんなユリーカたちを微笑ましげに見つめながら、膝に座るピカチュウをそっとなでていた。

けれども、ある一角だけ、どうしても微笑ましげに見れない場所があった。
サトシの周りだ。

サトシは地面に胡坐をかいて座っている。そしてその膝の上にはシンジのマニューラがいる。
サトシの隣にはユキメノコが座り、彼の背後ではドダイトスが日光浴をしていた。

サトシに懐くのは構わない。彼の周りに集まるのもかまわない。
サトシは暖かくて優しくて、人もポケモンも惹きつける。
彼のそばにいたくなるのは、シンジにもよくわかる。
けれども、ああも自分のポケモンたちが他のトレーナーの元に集まるのは、トレーナーとして複雑な気分だ。それも、好きな相手の周りに。

警戒心の強いシンジのポケモンたちを手名付けさせるサトシの度量をうらやめばいいのか、素直にサトシにひっつける自分のポケモンたちに嫉妬すればいいのか。
とにかく、どちらにしろ、シンジには面白くない光景だった。





「デネデネ~!」
「デデンネ?」


ちょろちょろとデデンネがシンジの元に駆け寄ってくる。
どうしたのか、と首をかしげると、デデンネがぺとり、とシンジの足にくっついた。


「おい?」
「あー!デデンネ、またシンジのところにいる―!」


唐突に身を寄せてきたデデンネを見て、訝しげに眉を寄せたシンジの元に、今度はユリーカが駆け寄ってくる。
むぅ、と頬をふくらませ、不満げな表情を隠そうともしない。


「私もシンジにくっつきたいのに!」
「えっ?」


デデンネが自分の元に来たのが不満だったのだろう、と思えば、ユリーカはどうやらデデンネに嫉妬していたらしい。
シンジが驚きに目を丸くさせた。


「私もシンジにひっつく!」
「えっ?おい?」


デデンネがピカチュウとともにシンジの膝に乗り、ユリーカのために場所をあける。
そこにユリーカが座り、シンジの腰にぎゅうと抱きついた。


「・・・何で私にひっつくんだ?」
「シンジが好きだからよ!」
「えっ?」


何故自分にひっつくのか。
お世辞にも目つきが柔らかいとは言えないし、子供に好かれるような性格はしていないはずだ。
自分になれているピカチュウならまだしも、デデンネやユリーカが自分の元へ集まる理由がわからない。


「あのね、あのね!ポケモンってトレーナーに似るんだよ!」
「は?」
「前にテレビで言ってたの!」
「あ、ああ・・・」
「私はシンジが大好きだからシンジにひっついて、デデンネは私がシンジのことが大好きだからシンジにひっつくの!」


何の脈絡もなく紡がれた言葉に首をかしげれば、ユリーカがにっこりと笑った。
自分にひっつく理由はわかったが、いまいち納得が出来ない。
確かに人を好きになるのに理由なんてあってないようなものだし、好きな人に触れたいというのは、今絶賛自分が体験中だから理解できる。
けれども自分はそんなに好かれる人間だろうか。
自分を選んでくれたサトシや、自分を大好きだと言って笑うユリーカには失礼だが、そこが納得できないのだ。
まぁ、そのことを尋ねるほど野暮な人間ではないつもりなので、聞きはしないが。


「だから私たちはシンジにひっつくの!ピカチュウがシンジに抱きつくのも、きっとサトシがシンジのことが大好きだからよ!」
「・・・っ」


無邪気なユリーカの言葉に、じわりと頬に熱が集中する。
ユリーカはシンジに擦り寄れてご満悦だ。
シンジの様子には気づかない。
ユリーカの言葉で、あまりよろしくなかったシンジの機嫌が浮上する。
サトシを好きになって、自分はとても単純な人間になったのではないか、とシンジは頭の片隅で思った。


「そしてマニューラ達がサトシの周りにいるのも、シンジがサトシのことが大好きだからだよね!」
「~~~っ」


ああ、そうだ、大好きだ。
叫んでしまえたらどんなに楽か。
けれどもやはり羞恥が勝ってしまって、叫ぶようなことはしなかった。
しかし何かをしなければ耐えられそうになかったので、シンジはぎゅう、とユリーカを抱きしめた。
ユリーカはきょとんとしていたが、すぐに嬉しそうにシンジを抱きしめ返した。
そんな光景を見て、セレナとシトロンが和み、サトシとシンジのポケモンたちがうらやましげに見つめていたことを、彼女たちは知らない。
















(いいな、ユリーカ。シンジに抱きつけて!)
(しかもシンジから抱きしめてもらうとか!)
(俺だってしてもらったことないのに!!!)
(ああもう、ユリーカそこ代わってくれよ!!!)




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