恋は戦争






4番道路を道なりに進み、サトシたちはハクダンシティに来ていた。
デデンネとヤヤコマを仲間にしたサトシたちはハクダンシティの街中を駆けていた。


「待ってろよ、ハクダンジム!一個目のバッジ、必ずゲットだぜ!」
「その前にお前、ハクダンジムの場所知らないだろうが。あと、シトロンが死にそうだぞ」


カロスで初めて挑戦するハクダンジム。
必ずバッジを手に入れると意気込み、気合を入れる。
その隣でサトシに合わせて走るシンジがちらりと後ろを振り返った。
後ろにはユリーカと、そのさらに後ろに息も絶え絶えなシトロンがいた。


「ま、待ってくださーい!う、うわぁ!」


どたん!と盛大にこけたシトロンに一行が足を止める。
これまでのシトロンの言動から察するに、彼は技術者で体力に自信はなく、運動には向いていないようだった。
何もないところでこけるとは思わなかったが。


「シトロン、早く!」
「サトシ、一つ質問があるんですが、ハクダンジムの場所を知らないって本当ですか?」
「もちろん知らないぜ!」
「「え?」」


肩で息をしながら、シトロンがたずねる。
サトシが笑顔で答えると、シトロンとユリーカが目を瞬かせた。
そんな自信たっぷりに言うことか・・・、とシンジが呆れたように肩をすくめた。


「走れば道は見えてくる!進めば必ずたどりつく!それが俺たちだ」
「ぴかっちゅ!」


噴水のふちに乗って空を示す。
サトシとピカチュウが顔を見合わせて笑った。


――――パシャ!


唐突に響いたカメラのシャッター音に、サトシたちが音のした方を見た。
そちらにはブロンドの髪の女性がカメラを構えて立っていた。


「素敵な写真をありがとう!あなたたちなかなかいいコンビの様ね」
「はい!ピカチュウは俺の相棒です!」
「ふぅん・・・」


女性は眩しいものを見るように目を細め、サトシとピカチュウを見つめた。


「あ、そうそう!ハクダンジムなら、この先を右に曲がったところよ」
「え?本当ですか!ありがとうございいます!」
「・・・本当に道が見えたな」
「な?ほら、行こうぜ、シンジ!」


サトシが噴水から降り、シンジの手を握る。
そのままシンジの手を引き走り出す。
待ってよー!とユリーカが2人の後を追い、シトロンもそのあとを追った。
そして一行はまた走り出す。
そんな様子を、女性が意味深な笑みを浮かべて眺めていた。







































ハクダンジムは街中の一角にあった。
ジムのマークがなければ見逃してしまいそうな建物だ。
ジムというより、公共施設のように見える。
シトロンが言うには、このジムは虫タイプのジムのようだという。
サトシはヤヤコマをゲットしたし、虫タイプは飛行タイプを併せ持つものが多く、ピカチュウを連れたサトシは相性的には有利だ。
シンジはドダイトスとユキメノコ、トリトドンだ。
相手のポケモンにもよるが、相性はほぼ互角だった。


「こんにちはー!俺とバトルして下さーい!」


サトシが早速ジムの入ろうと階段を上る。
すると、サトシがドアの前にたち、センサーが反応する前に自動式のドアが開いた。
中から黄色い物体が飛び出し、サトシの顔面に飛び付く。
顔に飛びつかれたサトシは、驚いて尻持ちをついた。


「エリリ!」
「エリキテル?」


黄色い物体はカロス地方に生息するエリキテルだった。
可愛らしい大きな目でサトシを見つめ、久しぶり、というように片手を上げる。
エリキテルを連れ、かつサトシに懐くエリキテルを手持ちにしている人物は1人しか思い浮かばない。


「いらっしゃい、サトシくん、シンジちゃん、ピカチュウ。元気そうね、3人とも」
「パンジーさん!来てたんですか!?」
「ええ。取材も終わったし、サトシくんとシンジちゃんも来るころかなーと思って。あら?新しいお友達?」
「はい。ミアレシティで知り合ったんです」


パンジーとシンジに手を差し出され、2人の手を握り、サトシが立ち上がった。
パンジーの意識がユリーカたちに向くと、2人が一歩前に出た。


「初めまして、ユリーカです。この子はデデンネ。それから、お兄ちゃんの・・・」
「シトロンです。どうぞよろしく」


自己紹介をして、シトロンがサトシの隣に立った。


「知ってたんですね、ここのジムリーダーを」
「違う違う。パンジーさんはポケモンルポライターなんだよ」
「そう。ここは妹・ビオラのジムなの」
「ビ、オラ?」
「私よ」


パンジーと話していると、背後から声が聞こえる。
パンジーの落ち着いたソプラノとは違い、少し硬い。けれど決して不快にならないソプラノだ。
振り返ると、そこには先ほどのブロンドヘアの女性がいた。


「さっきはどうも」
「え?あなたがパンジーさんの妹?」
「あら、もう妹と会ってたんだ」
「1枚撮らせてもらったの。姉さんから聞いてるわ。しばらく留守にしていてごめんなさい」
「いえ、楽しみにしてました」
「じゃあ、みんな入って」


ビオラに促され、ハクダンジムに入る。
ハクダンジムの中にはたくさんの写真が飾られていた。


「これって、ビオラさんが撮ったものですか?」


大自然の中、自然体で映る虫ポケモンの写真を示し、シンジがたずねた。
ビオラが目を細めて嬉しそうにうなずいた。


「ここにあるものは作品のほんの一部だけど」
「妹は優秀な虫ポケモンカメラマンでね、時々私の取材も手伝ってもらってるのよ」


ビオラが優秀なカメラマンだというのは、写真を見ればわかる。
シトロンやユリーカの言葉を借りるなら、虫ポケモンが大好きで、愛情があふれている。それがこちらにも伝わってくる。
写真を褒められて嬉しそうに笑うビオラに、ユリーカが「決めた!」と深くうなずいた。


「ビオラさん、キープ!お願い、お兄ちゃんをシルブプレ!」
「・・・は?」


片膝をつき、ユリーカが私の手を取って、というように手を差し出す。
ビオラは驚きのあまり困ったような顔でぽかんと口を開けた。


「ユリーカ!それはやめろって言ってるだろ!」
「だってお兄ちゃん1人じゃ頼りないんだもん!お嫁さんがいれば安心なんだもーん」


シトロンが恥ずかしそうに赤面してユリーカを止める。
ユリーカは得意げな笑みを浮かべている。


「えーと・・・私、結婚とかあんまり考えてないの。だから、ごめんね?」
「じゃあ、じゃあ!シンジ、キープ!」
「「えっ」」


ビオラが申し訳なさそうにユリーカの申し出を断るとユリーカが矛先をシンジに変える。
写真を眺めていたサトシとシンジは驚いてユリーカを見た。
まさかこちらに飛び火するとは思ってもみなかったのだ。


「な、何故・・・?」
「だって、だって、シンジ美人だし、しっかりしてるし、お兄ちゃんを支えてくれそうだし!お兄ちゃんと同い年だから、仲良くなれるかなーと思って!」


訳がわからない、と首をかしげるシンジに、ユリーカが名案をひらめいた、とばかりに目を輝かせた。
ユリーカはシンジに懐いている。
シンジも幼い子には甘い面を見せる。
諾とは言わないだろうが、ユリーカの気が済むまで好きにさせている可能性はある。
ユリーカの暴走を止めなければならないはずのシトロンは羞恥に悶え、使い物にならない。
まさか仲間からすらもシンジを守らなければならないのか、とサトシは顔を青くさせた。


「だ、駄目!」


サトシが両手を広げ、シンジを後ろにかばう。
ピカチュウも同様にユリーカの前に立ちはだかっている。
シンジは突然かばわれたことに目を瞬かせた。
パンジーは我がことのように嬉しそうに笑い、ビオラはきょとんとした表情を浮かべた。


「どうしてサトシがだめって言うの?」
「駄目なものはだめなの!」
「ぴかぴかっちゅ!」


サトシとピカチュウが必死に首を振る。
ユリーカが拗ねたように頬を膨らませた。
シンジは嬉しいけれど、こんな幼い少女相手に何もそこまで必死にならなくても、と恥ずかしげにうつむいた。
足元には足にすがりつき、いやいやと首を振るピカチュウがいる。
嬉しいけれども、落ち着かない。

助けを求めるように周りを見るが、シトロンは悶えて今の状況に気づいていないし、ビオラはこの事態を理解していない。
パンジーは微笑ましげに笑っていて、自分に味方がいないことを悟った。
それでもパンジーに視線を投げ続けていると、パンジーはしょうがないなーと、けれども嬉しそうにビオラに歩み寄った。


「そうよ。ビオラはいいけど、シンジちゃんはだめよー?」
「ちょ、ね、姉さん・・・!」
「ぶうー。じゃあ2人とも考えておいてねー?」


ユリーカが拗ねたように頬を膨らませた。
年相応で可愛らしいが、シンジは肩をすくめ、ビオラは苦笑を禁じ得ない。


「エイパムアーム起動!」


シトロンが声を張り上げる。
どうやら復活したらしい。
大きなリュックからシトロンの掛け声とともにアームが飛び出してくる。
なるほど、たしかにエイパムの尾に似ている。
アームでユリーカの首根っこをつかみ、ずるずると引きずった。


「小さな親切、大きなお世話だ!」


シンジとビオラに手を振るユリーカを引きずって、シトロンは部屋を出ていった。


「ユニークな妹さんね・・・」
「いや、兄の方も十分ユニークですよ・・・」


パンジーの苦笑にシンジが肩をすくめた。
室内には何とも言えない空気が漂っている。
こほん、とビオラが一つ咳払いをして、部屋の空気を変えた。


「それじゃあ、2人とも。始めましょうか!」
「「はい!」」


好戦的な目をしたビオラに、サトシとシンジは力強くうなずいた。











(どっちからやるの?)
((・・・))
((最初はグー!))




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