恋は戦争






プラターヌ研究所の内部には大きな温室があった。
たくさんの木々が生い茂り、大きな池まである。
キャタピーにルリリにコダック、ジグザグマにエリキテル。あらゆる地方のあらゆるタイプのポケモンたちがいる。


「わぁ、すっげぇ!」


遅れてきたサトシが感嘆の声を上げる。
ぐるりと温室を見回して、サトシは眼を輝かせた。
サトシが温室に入ってきたことに気づき、シンジが声をかける。


「ケロマツの様子は?」
「心配ないよ。あいつは強い奴だから」
「・・・そうか」


シンジの問いにサトシは穏やかな笑みを浮かべる。
サトシの笑みにシンジは安心した。
サトシは見る目はある方だ。
きちんとした治療を受けたし、サトシが”強い”というのなら、強いのだろう。
シンジは一つうなずき、興味をプラターヌに移した。


「そう言えば、プラターヌ博士は進化の研究をしていると言っていましたが、どういった内容の研究なんですか?」


シンジの問いに、プラターヌが笑みを深める。
意味深な笑みに、シンジが目を瞬かせた。


「みんなは、ポケモンにもう一段階別の進化があると言ったら、信じるかな?」
「別の進化?」


ゆっくりと語りを利かせるように、プラターヌがサトシたちの顔を見る。
きょとんとした顔に、満足げに笑う。


「ガブリアスも、まだ進化するってことですか?」
「その可能性があるんだよ。いくつかのポケモンにそういう報告があってね。研究者の間ではメガ進化と呼ばれているよ」
「メガ進化・・・」


興味しんしんのサトシたちにプラターヌが嬉しそうに笑う。
やはり研究に興味を持ってもらえるのは嬉しいのだろう。
プラターヌが饒舌に研究成果を語っていく。


「そのメカニズムはまだまだ謎が多くてね。進化には特殊な石とポケモンとトレーナーの絆がとても重要だと考えられているんだ」
「絆・・・」
「しかも驚くべきことに、進化しても、もとの姿に戻ってしまうんだ」
「えっ、元に戻る?」
「今までの進化とは全く別に進化の形態ですね」


サトシがプラターヌの言葉を復唱して驚く。
シンジは考え込むように唇に指をかけた。
そんな様子に、シトロンが意外そうにシンジを見つめた。
サトシがポケモンに興味があり、ポケモンが大好きだということは、ピカチュウとのふれあいや、ケロマツを助けたことで分かったいた。
けれどもシンジは大人しく、冷静で、ポケモンに対しても淡白なイメージがあったのだ。
意外と好奇心が旺盛なのかもしれない、とシトロンがくすりと笑った。


「博士!」
「ん?どうした、コゼット」


温室に、助手のコゼットが慌てたように入ってくる。
眉を下げてプラターヌに駆け寄ったコゼットに注目が集まる。
コゼットは不安そうな表情を浮かべていた。


「実は今、変な3人組が来ていて、博士の研究のお手伝いに来たと・・・」
「研究の手伝いに?」


プラターヌが訝しげに眉を寄せる。
彼にも覚えがないようで、コゼットが困惑した様子を見せた。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


唐突に、ガブリアスの悲鳴が温室にまで届いた。
そして、続けざまに爆発音やは快音が響き渡り、ただ事ではないことを悟ったサトシたちが音のする方へと走った。
音の源はエントランスだ。
エントランスに駆け込むと、ソフィが駆け寄ってきた。


「博士!あの人たちが!」


そう言って指差された先には、白衣を見た3人組と、苦しむガブリアスがいた。
その足元には、呆然とガブリアスを見つめるケロマツがいる。


「君たちは何者だ!」
「君たちは何者だ!と聞かれたら、」
「答えてあげるが世の情け!」


プラターヌの言葉に、3人組が白衣を脱ぎ棄てる。
青い髪の男と、赤い髪の女。そして二足歩行のニャース。
サトシとシンジには、とても見覚えのある3人組が、そこにいた。


「ロケット団か!」
「ロケット団・・・?」
「人のポケモンを奪う、悪い奴らなんです!」


サトシが険しい表情でロケット団を睨みつける。
プラターヌも、人のポケモンを奪う悪人と聞き、目つきが変わる。


「はぁい、その通り!」
「ガブリアスはロケット団がいただいたーい!」
「それでは本日は撤収にゃ!」
「にゃ、ニャースがしゃべってる・・・!?」
「ええ、しゃべりますのにゃ」


ロケット団が撤収を呼び掛け、ガブリアスを連れ去ろうとリモコンを操作する。
けれどガブリアスは、抵抗するように、くるりとロケット団に向き直り、攻撃を放った。
天井に穴が開き、ロケット団は「まっさかー!!!」と叫びながら空の彼方に消えていった。
ガブリアスは苦しそうにうめいている。


「ガブリアス!どうしたんだ・・・?」


ガブリアスは苦しさを紛らわせたいのか、サトシたちに向かって技を放つ。
それを飛び退り、地に伏せ、攻撃をかわす。


「博士!ガブリアスの首を!」
「何だ、あのリングは・・・?」
「奴らの仕業です!ケロマツをかばってガブリアスは・・・」


ソフィがガブリアスの首を示す。
その首には見覚えのないリングがはめられていた。
ガブリアスも首を気にしているようだった。
あれがガブリアスを苦しめる原因だ。

技を放ったガブリアスは、苦しみながら、よたよたと扉の方へと向かった。


「まずい!ガブリアスが・・・」


シンジが叫ぶ。
それと同時に、ガブリアスは窓を突き破り、外へと飛び出した。
外からは悲鳴が聞こえた。
そして、ガブリアスの悲痛な叫びも・・・。


「ガブリアスが泣いてる・・・。追うぞ、ピカチュウ!」
「待て、サトシ!」


サトシがシンジの制止の声を聞かず、外へと飛び出す。
ピカチュウとケロマツを伴い、1人でガブリアスを追った。

シンジも慌てて外へと飛び出すが、サトシはすでに小さくなっていた。
走る早さはシンジの方が速い。今からでもおいつないことはない。
けれども体力はサトシが上。同じ速度を保っていられる強みがある。
シンジの体力も並ではないので、この町を端から端へサトシを追いかけまわしたとしてもへばることはないだろう。
けれどもシンジは荒々しく舌打ちをして研究所の中へと引っ込んだ。
シンジも彼らを追いかけたかったが、今彼らを追うのは、無謀だと判断したのだ。
あいにくと、今回の旅に飛行タイプのポケモンも、氷タイプのポケモンも連れてきてはいなかった。
ちなみに今回連れてきたポケモンは、ドダイトスとボスゴドラとトリトドンだ。
陸地でのバトルならトレーナーもいないガブリアスに負けることの方が想像がつかないが、地形の複雑な街中で、空も飛べるガブリアスに対抗できるポケモンはいない。
街を破壊してもかまわないというのなら、出来ないこともないのだが・・・。


「博士!転送装置を貸してください!」
「わ、わかった、こっちへ!」


プラターヌに促され、シンジが研究所内を駆ける。


「(サトシ・・・!くれぐれも無茶はしてくれるなよ・・・!!)」


せめて、私がそばに行くその時までは、




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