恋は戦争
サトシたちはロケット団の襲撃に巻き込まれたケロマツの手当てのために奔走していた。
目的地はプラターヌ博士の研究所だ。
「サトシ、あそこだよ!」
ユリーカが一つの建物をぴん、と張られた指で示す。
モンスターボールの飾りのついた門の、立派な建物だ。
サトシはすぐにその門をくぐり、扉を開けはなった。
「すいませーん!プラターヌ博士、いませんかー!?」
「はーい、」
サトシの声が反響する。
その声に、返事はすぐに返された。
日夜の研究の疲れか、あくびをかみ殺した、間延びした返事だ。
髪を整えながら、1人の男が眠たそうに眼を瞬かせて歩いてきた。
しかし、ケロマツを見ると、さっと顔色が変わった。
「ケロマツ!」
「え?知ってるんですか?ケロマツを、」
「もちろんだ。ソフィ!来てくれ!」
プラターヌはサトシからケロマツを受け取り、奥にいる女性を呼んだ。
「心配してたんだぞ。お前のトレーナーから連絡があったからな」
助手と思われる女性が駆け寄った来る。
ソフィと呼ばれた女性に、そっとケロマツを渡した。
治療室に駆けていくソフィの背中を、プラターヌは心配そうに見つけている。
「あの、連絡が合ったって、ケロマツのトレーナーがココに向かってるんですか?」
「いや、ケロマツを手放したいという連絡だったんだ」
「え?」
プラターヌの言葉に、サトシが目を見開く。
シンジも目を見張った。
見た限り、ケロマツはトレーナーに捨てられるようなポケモンではなかった。
よほどトレーナーとの相性が悪かったのか。
サトシが再度口を開こうとしたその時、ばたん!と音を立てて、研究所の扉が開かれた。
慌てて振り返ると、そこには息も絶え絶えなシトロンがいた。
全員分の荷物を抱えて走るのは骨が折れたのだろう。肩で息をしている。
私が持ってやった方がよかったかもしれない、とシンジが眉を下げた。
「け、ケロマツは・・・?」
息を整えながらシトロンがたずねる。
それは全員が気になっていたことだ。
全員でプラターヌの顔色をうかがう。
その様子にプラターヌがうっすらとほほ笑み、治療室の様子を見せてくれた。
そこでは、ソフィがケロマツの治療を務めていた。
「心配はいらないよ。彼女の腕はピカイチだからね」
「・・・はい」
「さぁ、座って。自己紹介がまだだからね」
プラターヌに促され、備え付けられたソファに座る。
プラターヌが一つ咳払いをした。
「僕はプラターヌ。このカロス地方のポケモン研究家だ」
「俺、サトシって言います。こっちは相棒のピカチュウ」
「私はシンジです。サトシとともに旅をしています」
「私はユリーカ。お兄ちゃんのシトロン」
「シトロンです。初めまして、プラターヌ博士」
自己紹介をして、明るくなったサトシたちの顔を見て、プラターヌは嬉しそうに笑った。
「今日、カントーのマサラタウンからついたばかりなんです」
「カントーから」
「はい。ポケモンマスター目指して修行の旅を続けています」
「なるほど」と言って、プラターヌが相槌を打つ。
満足そうに笑みを浮かべるサトシの腕を、シンジが肘でつつく。
「私たちの目的は修業だけではないだろう」とシンジが言えば「そうだった」とサトシが苦笑した。
「プラターヌ博士。カントーやシンオウにあるバトルフロンティアという施設をご存知ですか?」
「名前くらいなら知っているよ。今度、カロスでもイベントをやるんだってね」
「はい。俺たちはそのイベントの宣伝係で、イベントの宣伝をしながら旅をしてるんです!」
「それで、研究所にこのポスターを掲示してもらいたいんです」
サトシとシンジが、荷物の中からポスターと付属のチラシを取り出す。
ユリーカにも見せて、とせがまれ、プラターヌとユリーカのそれぞれにポスターとチラシを渡した。
「バトルフェスタか。面白そうだね」
「ポケモンたちとの交流会もあるんだ~!」
「スタンプラリーなんかもあるんですね。これならユリーカも楽しめそうだね」
「うん!」
イベントの評価はなかなか好評のようだ。
「是非みんなに進めさせてもらうよ」というプラターヌの言葉にサトシたちが笑みを浮かべる。
シトロンたちも参加の方向で意思を固めているようだった。
「そう言えば、お礼がまだだったね。ケロマツを助けてくれてありがとう」
プラターヌがテーブルの上にポスターを置き、サトシたちに向き直った。
そんなことない、とサトシが首を振る。
「助かったのはこっちの方です。それより、さっきの話・・・手放したいって、何があったんですか?」
「ああ・・・。僕はトレーナーに最初のポケモンを渡す役目ももっていてね。ケロマツは新人トレーナー用のポケモン何だ」
プラターヌはぽつりぽつりと話し始めた。
ケロマツは変り者であるらしい。
バトルでは指示を聞かず、トレーナーを見限って逃げ出したこともあったという。
一緒に旅立ったものの、研究所に返しに来るトレーナーも何人もいるのだと、プラターヌは複雑な表情を浮かべて語った。
「そんなに何度も・・・?」
「そういう初心者用のポケモンがいることはうわさになっていましたけど、まさか本当にいるとは驚きました」
サトシとシトロンが眉を下げる。
ユリーカもうつむいてしまっていた。
シンジも眉を寄せた。
そんなシンジの視界に、ソフィではない研究員に連れられたガブリアスが映った。
ケロマツを心配そうに見つめている。
それに気づいたプラターヌが立ち上がり、ガブリアスに歩み寄った。
「うちのガブリアスだよ。気のいい奴さ」
プラターヌが頭をなでてやると、ガブリアスは気持ちよさそうに目を細めた。
けれども、嬉しそうな顔も一瞬で、すぐにケロマツに心配そうな目を向けた。
「ケロマツは大丈夫さ。サトシくんたちのおかげだよ」
「ガブガーブ」
「よろしくな、ガブリアス」
サトシがガブリアスの頭をなでる。
ガブリアスはサトシがケロマツを助けたということもあり、人懐っこい笑みを浮かべている。
シンジやユリーカも頭をなでさせてもらった。
「そう言えば、プラターヌ博士は何の研究をしているんですか?」
シンジがガブリアスの頭をなでながらプラターヌを見やる。
プラターヌはユリーカを抱え、ガブリアスを触らせてやっていた。
「ポケモンの進化について研究してるんだ。この研究所には他にもたくさんのポケモンたちがいるんだよ。見てみるかい?」
「いいんですか?」
「もちろんさ。コゼット、ガブリアスを頼む」
「分かりました」
プラターヌがシンジの問いに答え、助手のコゼットという女性に声をかける。
そして、そっとユリーカを降ろした。
歩き出すプラターヌを尻目に、サトシはケロマツを見つめていた。
「サトシは行かないの?」
「ああ、先に行っててくれ」
「わかった」
外ロンの声に返事を返し、サトシな治療室に入る。
どうやら治療が終わったらしい。
そんなサトシを横目で見ながら、シンジはシトロンたちについて歩き出した。
「(ああいうところがポケモンに好かれる理由なんだろうな・・・)」