恋は戦争






プリズムタワーの中は、その美しい外観とは裏腹に、たくさんのパイプが通っており閑散としていた。
ところどころ電気がほとばしっているところをみると、電気タイプのジムであると辺りがつけられた。
ジムの入り口まで来ると、モニターのついた扉があった。


「すいませーん!」
『ようこそ、ミアレジムへ』
「俺、カントー地方のマサラタウンから来たサトシって言います!そして、こっちはシンオウ地方のトバリシティから来たシンジ!ジム戦よろしくお願いします!」


サトシが声を張り上げると、すぐにモニターのスイッチが入った。


『バッジは何個ですか?』
「バッジ?このジムが初挑戦です。だからバッジは持ってません」
『ゼロ?ミアレジムに挑戦するなら最低でもバッジ4個集めたものでなければなりません。・・・出直しを要求します』


先端が丸みを帯びたスティック状のアームが天井から伸びてくる。
帯電しているのか、バチバチとすさまじい電気を放って入る。
そして、電気がこちらに向かって襲いかかってきた。
シンジが慌てて後ろに飛び下がり回避するが、サトシは逃げ遅れ、すさまじい電気を浴びた。


「サトシ!?」


ぷすぷすと音を立てるサトシに手を伸ばそうとするも、その前にサトシの足元に穴が開き、サトシはその中に吸い込まれてしまった。
シンジが駆け寄ると同時に、穴は閉じられた。


「サトシ!・・・くそっ!」


シンジがすぐさま外へと走る。
閑散とした道を駆け抜け、外に飛び出した。
外に出ると、またすさまじい電気がほとばしっていた。
威力も先ほどより高い。
ピカチュウの10万ボルトだ。
何事だとすぐにシンジが駆け付けた。


「サトシ!」
「シンジ!」
「ぴかぴぃ!」
「大丈夫か?」
「ああ。シンジは?」
「私はよけたから平気だ。・・・ところで、この状況は?」


飛びついてきたピカチュウを抱きしめシンジがサトシの周りを見た。
離れたほんの数分のうちに人数が増えている。
金髪の少年と幼い少女だ。
少女は静電気で髪が跳ねている。
電撃を浴びたのはおそらくこの少女だろう。


「ああ。放り出されてのをこの2人に助けてもらったんだ」
「そうなのか。しかし、何故それで電撃を?」
「ああ、えっと・・・」
「ああ、妹が嫌がるピカチュウを抱きしめたんですよ。ほら、ユリーカ謝って」
「ピカチュウ・・・ごめんなさい・・・」


どうやら兄妹らしい2人は兄に促され、妹である少女がピカチュウに謝罪した。
それにサトシが優しい笑みを浮かべた。


「いいんだよ。ピカチュウもびっくりしたんだよな?」
「ぴかぴーか」


後頭部に手を置き、ピカチュウが申し訳なさそうに頭をかく。
少女は俯いたままだ。


「それよりお礼がまだだった。ピカチュウを助けてくれてありがとな」
「どういたしまして!」


少女がサトシの優しい言葉に笑顔になる。
それに嬉しそうに笑って、それから少し眉を寄せて、プリズムタワーを見上げた。


「それはそうと、何なんだこのジム」
「追い出されたんですね」
「せっかく来たのにどうなってんだ?あそこのジムリーダーは」
「そうですよね・・・」


サトシと話す少年が複雑そうな表情を浮かべる。
苦虫をかみつぶしたような表情だ。
苦々しい笑みにシンジがおや?と首をかしげた。
兄の笑みに気づいたらしい妹が、少し慌てたように前に出た。


「ミアレジムのジムリーダーはなかなか手ごわい奴なのよね。ねぇ、バッジの数聞かれなかった?」
「聞かれた。まだ持ってないって言ったらいきなり電撃だよ」
「え?持ってないの?」


シンジにぶつかってたらあのジム破壊してたかな、と心の中で呟く。
サトシの考えに同調するように、ピカチュウがシンジの腕の中でうなずいた。
若干2人の目つきが不穏になるが、少女は気付かずに目を瞬かせた。
「失礼ですが、どちらから?」と少年に聞かれ、自己紹介をする流れとなった。


「カントーのマサラタウンから来たんだ。俺はサトシ。相棒のピカチュウと一緒にポケモンマスター目指して修行中なんだ!」
「ぴかぴかちゅう!」
「私はシンジだ。シンオウのトバリシティから来た。現在サトシと一緒に旅をしている。・・・自己紹介の途中で悪いが、移動しないか?視線が凄いんだが・・・」


ミアレジムから落ちてきたことや、街中で電撃を放ったことも原因だろう。
視線は4人に釘づけだった。
不必要な視線を煩わしく感じるシンジは視線には敏感で、背中に突き刺さる気配に眉を寄せている。
・・・その中に、シンジに熱い視線を見けている少年らがいることに気づいたのは、おそらくサトシだけだろう。


「シンジ、こういうの苦手だもんな。ごめん、移動していいか?」
「さ、さすがに僕もこの視線の中にいるのはちょっと・・・」
「じゃあ、近くのバトルフィールドに行こうよ!あそこなら人も来ないよ!」
「じゃあ、そこに行きましょうか。案内しますね」
「頼む」


さりげなくシンジの肩を抱いて、サトシはシトロンとユリーカの案内のもと、プリズムタワーから遠ざかる。
その途中、いくつかの強い視線を感じたが、サトシはそれらをほぼ無視して街の中心から出て行った。


「(シンジは俺のなんだからな!)」


シンジを引き寄せると、シンジがきょとりと目を瞬かせてサトシを見上げる。
サトシがなに?と笑顔で聞けば、シンジはゆっくりと首を振った。
おそらく、気のせいだと思ったのだろう。
実際には気のせいでも勘違いでもないのだが、それでいい。
まるで、これは当たり前なのだというような反応で、周りに牽制することができたのだから。


「ここですよ」


シトロンが立ち止まる。
どうやらバトルフィールドについたらしい。
地面を少し掘り下げて作られたバトルフィールドは、なるほど、人っ子一人いない静かな広場と化していた。
フィールドにつき、ピカチュウがシンジの腕からサトシの肩に飛び移る。
それから後ろに回り、その頭の上に乗った。


「それではこちらも自己紹介を。僕はシトロン。こっちは妹のユリーカ」
「よろしく」
「よろしくな、シトロン、ユリーカ」
「ぴかぴーか!」
「ピカチュウとサトシって中いいんだね。仲良くなくちゃ頭に乗るって出来ないもんね!」


自己紹介を終えると、サトシの頭に乗ったピカチュウに、ユリーカが笑顔を向ける。
2人は気が合うのか、楽しそうに話しを始めた。
その間、シンジはシトロンを観察していた。
先程、挙動不審になっていたことが気になっていたのだ。
兄のシトロンが口ごもると、妹のユリーカがフォローに入っていたのが気にかかる。
話をそらされているように感じてならないのだ。


「シトロンとユリーカもジムめぐりをしてるの?」
「え、ああ・・・僕たちは・・・」
「わ、私たちもまだまだこれからなのよね!」


まただ。また妹のフォローが入った。
そしてまた、ユリーカが話をそらす。
意気投合したサトシとユリーカは楽しそうだ。


「ねぇ、シトロンはどんなポケモンを持ってるんだ?」
「つい最近ゲットしたのがいますよ」
「見たいみたい!バトルやろうぜ!」


ユリーカと話していたサトシがシトロンに声をかける。
シトロンがボールを見せると、サトシが嬉しそうに笑った。
ピカチュウがサトシの頭から飛び降りてフィールドへと駆けていく。


「やろうぜ!シトロン!」
「ちょっと待て。バトルなら私もやりたい」


フィールドに入ろうとするサトシを、シンジが襟をつかんで止めた。
気にかかっていた疑問のことなど、頭から消えてしまったらしい。
「なら、じゃんけんで!」というサトシの言葉に同意し、2人はすぐさまじゃんけんの態勢に入った。


「仲いいね、あの2人」
「だね、」


相子が続く2人を見ながら、シトロンとユリーカが笑った。




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