2人のみこ






「みゅみゅう」
「みゅ~」


ミュウ達が湖に向かってサトシたちの手を引く。
反転世界に向かおうと言っているのだろう。
もう少し待っていてほしいが、ミュウにしては、かなり我慢した方である。退屈を嫌うミュウがよくここまで我慢できたものだ。
ミュウにせかされサトシは苦笑した。


「わかったよ。そろそろ反転世界に行くから」
「っ!!さ、サトシ!どこに行くの?」


ミュウたちに手をひかれ、サトシが湖に向かうと慌てたようなアイリスの声に呼び止められる。
振り返ってみると、アイリスはおろか、デントたちも不安そうな顔でサトシを見つめていた。


「ああ、えっとな、反転世界に行こうと思って」
「反転世界?」
「この世界には、もうひとつの世界があるんだ」
「もう一つの、世界・・・」
「そう、」


不安げなシューティーたちに優しく微笑みながらサトシが続けた。


「この世界を支えてくれている、裏側の世界だよ」


サトシの言葉にアイリスたちが眉を下げ、顔を見合わせる。
反転世界など、聞いたこともない。
未知なるものは人の不安をあおるだけ。
デントたちの顔色は悪くなり、不安の色が濃くなった。


「ギラティナが住む世界、といえば分かりやすいか?」
「え?」
「反転世界、またはやぶれた世界とも呼ばれている」


シンジの声にラングレーたちの視線が一斉にそちらを向く。
7対の目がシンジを射抜くが、彼女は少しもひるみもしない。


「反転世界はギラティナの支配する世界だ。多少こちらとは勝手が違うが、反転世界の王たるギラティナがいれば大丈夫だろう」


現に、交通手段の一つとして利用したり、手ごろな遊び場として使うくらいである。
危険も何もあったもんじゃない。しかし、それを知っているのは当の本人らだけである。


「というか、そろそろ行ってやらないとあいつらが拗ねちゃうんだよね。特にギラティナは甘えん坊だから、あんまり放っておくと泣き出したりして大変なんだ」
「な、泣き出す?」
「前にちょっと遅れたら抱きつかれて、しばらく話してもらえなかったんだよな~」
「抱きつかれたというよりは、上に乗られていたという方が正しい気がするがな」


いくつか突っ込みたい単語が聞こえてきたが、爆弾を落とした当の本人たちは話に花を咲かせている。苦笑したり肩をすくめたり、何やら楽しそうだ。


「・・・ギラティナが甘えん坊?」
「ギラティナって泣き虫なのかしら?」
「伝説のポケモンって、なんか意外と普通なのね」


呆然としたり首を傾げたり遠い目をしたり、シューティーたちはシューティーたちで忙しい。
しびれを切らしたミュウが、サトシとシンジに体当たりをかました。


「みゅーう、みゅー!」
「みゅみゅみゅー!」
「うん、わかったよ。そろそろ行こうな」


早く早くとせかすミュウたちの頭をなでて落ち着かせ、サトシがデントたちに笑顔を見せた。


「じゃあ行ってくるな!危険はないから安心してくれよな!」


僕たちの精神が危険だけどね!!!
そう心の中で叫ぶが、表面上、何とか笑顔をつくろい、サトシたちを見送るデントたちだった。
































反転世界に到着したサトシとシンジは手厚い歓迎を受けた。
ギラティナの頭なでて攻撃に始まり、セレビィとラティアスによるサトシ争奪戦。
アルセウスとホウオウによる大人げないサトシとシンジ独占計画。
ディアルガとパルキアによるシンジに甘えるのは俺だ戦争。
あげていったらきりがない。

ほぼ毎回恒例と化している伝ポケたちによる伝ポケたちのためのサトシとシンジ争奪合戦。
最初こそ驚いたものの、前世から続けばなれるというもの。
もはや日常の一部だ。
サトシとシンジの対応は手慣れたもので、ミュウたちを伴い、ルギアのそばに移動した。


『来たか』
「ああ。さっきはみんなを説得してくれてありがとな」
『お安い御用だ』


ルギアが、そばに来た2人を大きな翼で包み込む。
優しい抱擁に、2人もルギアに寄り添う。


『サトシよ』
「何だ?ルギア」
『人間は好きか?』


ルギアの暖かな声に、サトシが穏やかな表情でルギアを見上げた。
ルギアは父のような母のような、優しい笑みを浮かべていた。
”母”と呼ばれる海の匂いがする。
どこまでも澄み切った、深い深い、海の匂いだ。
ルギアの体温と”母”の匂いに、サトシは口元をほころばせた。


「――――好きだよ」


人間というのはひどく醜い。
ポケモンのように生きるために生きるのではなく、自分の利益と欲のために生きている。

けれども人間には心がある。そして、愛がある。

時には傷つけることも、傷つけられることもあるが、そこにはすべて心があった。
人間とは、卑劣で、残虐で、どうしようもない生き物だけれど、とても温かいのだ。
心があり、愛があるから。

だからサトシは、どんなに傷つけられても、人間を嫌いになることなんてできない。


「俺は人間が大好きだよ」


――――もちろん、お前たちポケモンも、みんなみんな大好きだよ。
そう言って優しく笑うサトシに、話を聞いていたミュウがサトシに抱きつく。
ルギアもいれしそうに微笑み、シンジも笑って、2人は自分を包むぬくもりに答えるのだった。














((!!!ミュウ、ルギア!抜け駆けとは何と卑劣な・・・!!!))
(キュウウウウウウウウウウウウウウウン!!!)
(レビィ!レビィレビィ!)
(クオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ)
(ぎゃああああああああああああああああああああああああ)

(落ち着け、お前ら)
(順番なー)
((・・・お前たちの方が大人だな))
(ミュミュウ・・・)




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