そんなのは建前で






この話は伝ポケが出てきますが、皆さんの思い描く伝ポケとは違います。
非常に格好悪いです。
かっこいい伝ポケが好きな方はご注意ください。




















シンジは今、オーキド博士の研究所に来ていた。
サトシは今、イッシュの旅の途中でここにはいないが、ジンダイに挑戦するための修行の一環として、ここに通っていた。
血の気の多いサトシのポケモンたちはバトルを好むものが多い。
トレーナーがいなくても自分たちで判断してバトルが行えるくらいにはバトルにも慣れている。レベルも申し分ない。
野生のポケモンや、手の内がわかってしまっている自分のポケモンを相手にするよりも、得られるものは大きい。
そしてここに来るたびに歓迎してくれるオーキドやポケモンたちに、自分がサトシの恋人で、将来の伴侶であることを認められていると感じられる。
そのためシンジは毎日のようにこの裏庭に訪れていた。


「(さて・・・あいつのポケモンはどこにいるか・・・)」


サトシのポケモンたちはひとどころにとどまっていない。
そんなところまでサトシに似てしまったのか、カビゴンなど種族がら仕方のないポケモン以外は、この広大な庭を縦横無尽に駆け回っている。
フシギダネのようにパトロールだったり、遊びたいだけだったり、強者を求めてうろつきまわったりと、理由は様々だ。
最近はシンジに見つけてもらい、かまってもらったりバトルの相手をしてもらったりと、そんな理由も含めて庭のあちこちに隠れていることが多い。
シンジはそれを面倒だと口にしつつも、存外楽しんでいる節がある。
ポケモンたちは感情に聡い。シンジの心情を悟ったサトシのポケモンたちはその期待にこたえるべく気合を入れて隠れていたりする。
例をあげるとするならば、前にオオスバメが炎をまとって別のポケモンに擬態していたときはシンジは思わず硬直した。
モデルはファイヤーだったらしい。
オオスバメをトリトドンの水鉄砲で消化した後に見せられた図鑑を見て、シンジは脱力した。
そして次からは危険なことはしないよう説教したのは記憶に新しい。
よく丸焼にならなかったな、オオスバメ。


「ん・・・?」


シンジが一瞬視界の端に移った白い影を目で追う。
そして思わず白い目を向けてしまった。

そこには布を被ったムクホークが低空飛行をしていた。
布は白い布で、目とくちばしの部分に穴が開けられており、ひもでくくりつけられ、羽ばたいても布が吹き飛ばされないようにしてあった。
どうやらお化けを装っているようで、布が地面に触れるか触れないかのギリギリのラインで飛行している。
飛行タイプの本気度が違う。
なかなか技術のいる飛行の仕方をしているのだが、どうしてそれを他に生かせなかったのか。
いかんせん、サトシのポケモンはいつだって本気なのだ。
たとえそれが遊びだとしてもだ。遊びにだって全力を出すのがモットーと言える。


「(そう言えば、水タイプも似たようなことをしていたな・・・)」


少し前にここに来た時に、ヘイガニを1番下に、ブイゼル、ワニノコの順でトーテムポールを作っていたことを思い出す。
その上にキングラーが布をかぶせ、お化けを模していたのだが、10秒もたたないうちにワニノコが1番上でダンスをはじめ、あっけなくトーテムポールは崩れ落ちたのだった。
何故じっとしていられないワニノコと一緒にやろうと思ったのか。そこに至らない純粋さが「水はアホの子」と呼ばれるゆえんだろう。
その挑戦はあまりにも無謀だった。

今目の前で自分に気づかすに必死で羽ばたいているムクホークのすぐそばには頭隠して尻隠さず状態のベイリーフがいる。
そんなベイリーフの横にはさらに、地面に半分埋まっているフシギダネがいる。
おそらくこの2匹は植物に擬態して隠れているようだが、いかんせんことらからは丸見えだ。


「(・・・前から声をかけてやるか)」


しっかり者の部類に入る彼らも、やはりどこか抜けている。
その抜けている部分を見て、やはり彼らもサトシのポケモンなのだな、と思いながらシンジがベイリーフたちの前に回る。
ベイリーフの頭の葉っぱをなでてやると、葉はびくりと震え、ベイリーフが葉っぱの間からちらりとこちらをのぞき見た。


「見つけたぞ、ベイリーフ」


そう言って手を差し出してやると、ベイリーフは嬉しそうにその手に擦り寄った。
それに答えるようにシンジがベイリーフの頬をなでていると、急にベイリーフが我に返ったようにはっとしてシンジの手からぷい、と顔をそむけた。
頬が赤くなっているところをみると、ただ照れているだけのようで、もう一度ベイリーフの頭の葉っぱをなでて、今度はフシギダネの埋まっている地面のそばにしゃがみこんだ。


「フシギダネ、もう出てきていいぞ」


そう言って背中の蕾をつついてやると、地面がもぞもぞと動き出す。
地面から顔を出したフシギダネが土を払うように顔を横に振る。
シンジが残った土を払ってやると、彼は嬉しそうに笑った。

最後に、頑張って低空飛行を続けているムクホークのそばにあっち、地面に降りるように促すと、ムクホークはどうやら本気で見つかるとは思っていなかったようで、驚いた表情を見せた。
地面に降りたムクホークから紐をとき、布を外してやると、彼は照れたように笑いながら器用に翼で後頭部を掻いた。
あれだけ疲れる飛行をしていたにもかかわらず、疲れはほとんど見えない。
さすがはサトシのポケモンだ、と思わざるを得ない。


「・・・お前たち、バトルするか?」
「ベイッ!」
「フッシ!」
「ムクホーッ!」


ベイリーフは両前足を上げ、フシギダネはつるを延ばし、ムクホークは翼を広げてもちろんだ!とうなずいた。


「なら移動するか」


シンジたちのいる場所は研究所のある丘と森の境目である。
広さとしては申し分ないが、研究所に被害が出ないとも限らない。
それに、この裏庭には砂地や草原といった障害物のない平地がある。
そこを見てしまうと、この広さでは心もとなく感じてしまう。
ここから近い草原エリアにでも行こうか、とシンジが歩き始めた時、唐突にベイリーフたちが警戒態勢に入った。


「お前たち、どうし―――――」
「ウオキャア!」
「ブモオオオオオオオオ!」
「ブイブイー!」


どうやら近くに隠れていたらしいゴウカザル、ケンタロス、ブイゼルがシンジのそばに駆け寄り、フシギダネたちとともに臨戦態勢を整えた。
一体何が、とシンジもあたりに視線を走らせる。
けれども人間である自分には、彼らの警戒している対象を見つけることは出来ない。

と、そのとき、唐突に空と森の境目辺りの空間が、ぐにゃりとゆがんだ。


「なっ・・・!?」


歪みはしだいに大きく広がり、5mをゆうに超えた。
そしてさらにゆがんだ空間に裂け目が生じ、ついに歪みの正体が姿を現した。

空間を裂いて現れたのは白い一匹のポケモンだった。
鋭い目がシンジを貫く。
神々しいそのポケモンの名は―――――アルセウス。
神と呼ばれしポケモンを前に、シンジは言葉を失った。

警戒の色を強めたサトシのポケモンたちには目もくれず、アルセウスはシンジだけを見つめていた。


『聞いたぞ、小娘。サトシを惑わせ、たぶらかしたと』


地に響く低い声が、シンジに向けて放たれる。
しかし初めて伝説のポケモンと遭遇したシンジは呆然としていて、アルセウスの言葉に答える余裕はない。


『聞いているのか!』


アルセウスが起用に前足を使いシンジの服に引っ掛け、彼女を引き倒す。
その衝撃で我に返ったシンジが驚きに目を見開いた。

アルセウスの唐突な行動に反応できなかったサトシのポケモンたちが状況を理解する。

―――――サトシの嫁がアルセウスに押し倒されている、だと・・・?

理解して、ケンタロスたちが怒りの咆哮を上げた。
特にゴウカザルの怒りが尋常ではなかった。


「ウキャキャウオキャアアアアアアア!!!(シンジに何してくれてんだてめえええええええ!!!)」
「ダーネ、ダネフッシ!!(その子はサトシの嫁だぞ!!)」
『それを認めねぇっつってんだろおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
「ブモオオオオ!ブモブモオオオオオ!!(キャラがおかしい!キャラを保て!!)」


ポケモンたちの言い争いにシンジが遠い目をした。

警戒はしていたが伝説のポケモンが現れたことには驚きもしないんだな。ああ、サトシのポケモンだから仕方ないか。

最初にサトシとつけるだけで納得できてしまうのだから「サトシ」とはもはや名前ではなく、魔法の呪文だ。

アルセウスの気がゴウカザルたちに向き、前足を上げた瞬間を見計らい、シンジがアルセウスの下から抜け出した。
抜け出して、ベイリーフとムクホークに保護された。


「ベーイ、ベイリー・・・」
「大丈夫だ。心配するな」


怪我はないか、と自分の手やら顔やらを見るベイリーフを安心させるように、その背中をなでる。
自分の背後に回り、服についた土を払ってくれたムクホークに礼を述べ、ムクホークの頭もなでた。
嬉しそうになでてくる手に甘えていた2匹が、また警戒心をむき出しにする。
今度はシンジを守るようにして周囲の気配を探っている。


「今度はなん―――――」


今度は何だ、と言いかけて、またシンジはフリーズした。


「クオオオオオオオオ!!!」
「キュウウウウウン!」
「レビィ!」


ホウオウにラティアスにセレビィが、アルセウスと同じ空間の裂け目から顔を出したのである。
ホウオウはシンジを睨みつけ、ラティアスとセレビィは興味しんしんと言ったようにシンジに近寄った。


『落ち着け、アルセウス』


そして最後に、銀色のポケモンがシンジたちの前に現れた。
こちらも神と称えられるポケモン―――――ルギアだ。
ルギアの言葉が何かの琴線に触れたらしいアルセウスがルギアを睨みつけた。


『これが落ち着いていられるか!サトシが人間のものになってしまうんだぞ!』
『確かにサトシが誰かのものになってしまうのは寂しいが、友人であることには変わらない。むしろ友人として応援するべきだろう』
「(あ、こいつはまともなのか)」


さすが伝ポケの常識人・ルギア。大人である。
伝説とのファーストコンタクトがアルセウスだったため、伝説のポケモンの中にも良識を持ったポケモンがいたことに、シンジが安堵した。


『私は認めん!私を倒せるくらいのものでないとサトシとは釣り合わん!』
「ウオキャ!ウキャア!(お前えげつないじゃん!チートじゃん!)」
「ブイ!ブイブーイ!(そうだぞ!お前攻撃を無効化するじゃないか!)」
「ブモオオ・・・(何それ大人げねぇ・・・)」


駄々をこね、地団太を踏むアルセウスにゴウカザルとブイゼルが怒りの声を上げ、ケンタロスが呆れたように首を振った。

倒したって認めないだろう・・・。
ゴウカザルたちの言葉は理解できないがアルセウスが人語を解しているため、彼の言葉は理解できる。
彼の駄々を聞いて、冷めた目で見てしまったのは仕方がない。
ラティアスが気にしないで、というように頬に擦り寄り、セレビィが笑いかけてくる。
それだけが今のシンジの癒しだった。


「ダーネ、ダネフシ・・・(あのベイリーフまで認めたってのに・・・)」
「ベ、ベイリー!ベイベーイ!ベイリー!(み、認めてはいないもん!ただサトシの幸せそうな顔が見れるならいいかなーって思っただけだもん!認めてはいないもん!)」
「ダネダーネダ(絆されちまってるじゃねぇか)」


ベイリーフは最初はサトシがシンジと婚約することについて反対していた。
けれどもシンジが隣にいるときのサトシの幸せそうな顔。
シンジとかかわっていくうちに知った厳しさの中にある彼女の優しさ。
かたくなに認めないと意地を張っているが、フシギダネの言うようにほだされているのはだれの目から見ても明らかだった。


「ダーネ、ダネダーネダ、ダネフッシ(つーか、お前はいい加減認めろよアルセウス。他でもないサトシが選んだんだ)」


フシギダネがそう言った瞬間、アルセウスと、こちらに来てからずっと沈黙を保っていたホウオウが同時に吠えた。
2匹が同時に叫んでいるため、声が重なり、ポケモンたちでさえ何を言っているのかわからない。
特にポケモンの言葉がわからないシンジには、ただの騒音でしかない。
ピキリ、とこめかみのあたりに青筋が立った気がした。


「うるさい!特にホウオウ!何を言っているかさっぱりわからん!話せるようになってから出直してこい!」


シンジが怒鳴った。
んな、無茶な、とは思わないでもないが、シンジも混乱しているのだ。
きっと自分でも何を口走っているのかわかっていないだろう。
地味にショックを受けたらしいホウオウが肩を落としてトボトボとルギアの元に向かう。
何やら慰められているようだった。

え?ホウオウ弱っ!メンタル弱っ!
何?何なの?伝ポケってチートの癖にどっか弱いの?
頭とか精神とか、どっか致命的なところが弱いの?
フシギダネたちが冷めた目を伝説に向けた。


『認めん・・・。私は認めんぞおおおおおおおおおおお!!!』
「!?」


―――――裁きのつぶて。
岩石が降ってくるのを視認した瞬間、シンジが自分の周りにいたポケモンたちを突き飛ばした。
そして自分も後方に飛び退ることで神の裁きを回避した。

アルセウスの放った裁きのつぶては木々をなぎ倒し、このあたり一帯の地形を変化させていた。
その威力のすさまじさを確認したシンジは駄々っ子でも伝説なのだと無意識に息をのんだ。


「ダネフシッ!(危ないっ!)」


再度、裁きのつぶてがシンジに襲いかかる。
油断していたシンジはもう一度放たれた裁きのつぶてに反応できなかった。


「(しまっ―――――・・・!)」


衝動に身構えて耐えるように目を閉じる。
しかし、いつまでたっても衝撃はやってこなかった。
不思議に思い、恐る恐る目をあけるとそこには桜色のポケモンが自分をかばうように立ちふさがっていた。


「バリヤード・・・!?」


リフレクターとサイコキネシスを組み合わせ、バリヤードが裁きのつぶてを受け止めていた。
サイコキネシスで受け止めた岩石を降ろし、けがはないかと心配そうに駆け寄ってくる。
サトシのポケモンたちやセレビィにラティアスも、皆一様に不安げだ。


「大丈夫だ。バリヤード、助かった」
「バリバリィ!」


よかったというようにバリヤードが強くうなずく。
それに頬を緩め、シンジがささやかな笑みを浮かべた。


『私の技を受け止めた、だと・・・?』


アルセウスが目を見開く。
アルセウスは神と呼ぶにふさわしいだけの力を持っている。
例えその中身がただの駄々っ子だとしても、だ。
そんなアルセウスの攻撃が止められ、しかも無傷であることに伝説のポケモンたちは驚きを隠せない。


「まぁまぁ、あなたたちみんなサトシのお友達?」
『!誰だ!!』


緊張の走る空気を払しょくさせるような穏やかな声が響く。
その口調に合わせるようにゆったりとした足取りであらわれたのはハナコだった。
場にそぐわない朗らかな笑みを浮かべている。


「私はハナコ。サトシの母よ」
『サトシの、母・・・?』
「未来の娘に、何か用かしら?」


前節の威圧に臆さず笑みを湛える女性にアルセウスたちが目を見開く。
唐突に表れた愛する友人の肉親にルギアたちは驚きを隠せない。


『未来の娘、だと・・・?』
「ええ」
『・・・どうやらお前には人を見る目がないようだ。その娘がサトシと釣り合うとは到底思えん』


アルセウスが厳しい目でシンジを睨みつけた。
睨まれたシンジは眉を寄せ、アルセウスをにらみ返した。
そんなシンジにハナコがきびきびとした動作で歩み寄る。
シンジの肩に手を置き、穏やかな笑みを浮かべた。


「シンジちゃん。彼らが何と言おうとサトシとあなたがお互いを想い合っている限り、誰にもあなたたちを邪魔することはできない。もちろん、神様であってもね」
「ハナコさん・・・」


優しく髪をすかれ、シンジは心から安堵した。
初見の伝説のポケモンから敵意を向けられ、正直に言えばシンジは緊張していた。
いくらシンジが激戦を潜り抜けた猛者であっても、伝説ともなると格が違う。
その威圧は例えリーグ上位者のポケモンでも比べ物にならない。
伝説に臆さず、優しい笑みを浮かべ、場を和ませてくれるハナコの存在は心強かった。


『ほう?では私を倒せるとでも?』
「母親という生き物はね、自分の子供の幸せのためなら何だってできる生き物なの。だからこうしてあなたに立ち向かっていくことができるのよ」
『・・・愚かな』
「あら、愚かな生き物ほど強いということをご存じじゃなくて?」


ふふふ、と軽やかな笑みを漏らすハナコに、アルセウスは何か得体のしれないものを感じた。
うすら寒く、背筋を這い上ってくる。
その感覚にアルセウスは気圧された。


「それに、私にはサトシ以外にも、たくさんの息子たちがいるのよ?」


そう言って見惚れるような美しい笑みを浮かべたハナコの後ろには、一体いつからそこにいたのか、サトシのポケモンたちが勢ぞろいしていた。
ケンタロスの群れにマイペースなフカマル。いつも寝ているカビゴンまでもがその背後に控えていた。
マグマラシやワニノコなど、かわいらしい見た目をしている者も多いが、その愛らしい目はらんらんと輝いている。
狩りをするときの目に似ている。
それに気づいたアルセウスは、その異様なまでの殺気に完全に圧倒された。


『み、認めん・・・!認めんぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』


叫びながらアルセウスは空をかけ、雲の隙間へと消えて行った。
それを追うようにホウオウも慌てて飛び去った。
それを見てフシギダネたちが伝説の威厳ェ・・・と冷たい目をしていたのは御愛嬌。
あいつらには最初から威厳なんてものはなかったんや・・・。


『シンジ、といったか』
「!ルギア・・・」


ルギアがセレビィとラティアスを伴いシンジのそばに近寄った。
それに警戒の色を示したのはフシギダネとゴウカザルで、シンジの前に立ちふさがった。


「大丈夫だ」
「ダーネ・・・」
「ウキャア・・・」


ルギア達からは敵意を感じない。アルセウスやホウオウからは感じていた威圧もない。
ゴウカザルたちに下がるよう促すと、2匹はしぶしぶ道をあけた。
シンジがルギアに歩み寄ると、ルギアは嬉しそうに眼を細めた。


『先程はアルセウスとホウオウが済まなかった』
「お前が謝ることではないだろう」
『それでもだ。そして何より、ここに来ることを発案したのは私なのだ』
「・・・何?」
『私がサトシの愛する者たちに会いたいと言ったのだ。サトシが生涯の伴侶を得たと聞いて、どうしても一目見たいと』
「・・・つまり、お前たちは私に会いに?」
『そうだ』


ルギアが大きな翼でそっとシンジの背中をなでる。
その感触は予想外に優しくて、シンジはルギアを仰ぎ見た。
見上げたルギアは我が子を見つけるような暖かな目をしていた。


『私たちはサトシを愛してる。だからこそアルセウスたちは厳しい目でお前を見てしなうが、私はお前ならサトシを幸せにできると信じている。お前もそうだろう?』
「ええ」


ルギアの言葉に返事を返したのはハナコで、ハナコはシンジの隣にたち、その頬をそっとなでた。


「アルセウスにはサトシとシンジちゃんは釣り合わないと言われていたけれど、私はあなた以上にサトシに似合う女の子はいないと思っているわ」
「ハナコさん・・・」
「大丈夫。あなたは素敵な女の子よ。私の自慢の息子が選んだ、可愛いお嫁さんですもの」


ハナコもルギアも、ルギアのそばに控えるセレビィやれティアスも、皆一様に穏やかな笑みを浮かべている。
辺りを見回せば、誇らしげに笑うサトシのポケモンたちがいる。
認められた喜びとくすぐったさに、シンジは赤面した。




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