2人のみこ






あるとき、不作が続き、人々が飢えに苦しむ時代が訪れた。
人々は神に祈り、神々はその願いを聞き、実りある豊かな土地を与えた。

人々は涙を流し、神々に感謝した。

しかし、人々は次第に財を持ち、神々への感謝を忘れた。
神々はそれを嘆き悲しんだ。そして神々は、それをしだいに怒りへと変えた。
神々は感謝を忘れた人々の村を荒らした。

神々には娘があった。
娘は、人間に失望した神々の姿を嘆き、そして心を痛めた。
この悲しい時を終わらせるすべはないものか。
娘は涙を流した。

そんな荒れた時代に、神託を授かる少年が現れた。
少年は、神々の娘の手を取り、この悲しい時代を終わらせることを誓った。
2人は手を取り合い、共に神々の乱心を沈めた。
共に神々と戦った神子の少年と御子の少女の間には、愛という名の絆が生まれ、2人は神々に祝福されながら幸せに暮らした。













「大体こんな感じの伝説だよ。神子の少年と御子の少女。もしかしたら、この伝説は2人のことを指すんじゃないかと思ってね」


そう言ったデントの表情は真剣そのものだ。
伝説の概要を聞いたシンジはわずかだが、遠い目をしていた。


「・・・・なんとも童話染みた話だな」
「これ、童話じゃないのか?」
「イッシュに伝わるれっきとした伝説です!」


興奮気味に力説するデント。
サトシとシンジは顔を見合わせた。


「冗談だよ、デント。・・・もしかしなくても、俺たちのことだよな」
「もしかしなくても、私たちの前世のことだ」
「「「前世!!?」」」


シンジの口から洩れた一言に、アイリスたちが叫び声を上げる。
彼らはあんぐりと口をあけて2人を見ていた。


「じゃ、じゃあ、あの伝説は本当ってこと?」
「っていうか前世を覚えているの!?」
「覚えてるぜ!思い出したのは最近だけどな!」
「私は幼いころから漠然とした記憶はあったな。完全に思い出したのは最近だ」
「でも俺たちの記憶と伝説はだいぶ違うな」
「そうだな」


ケニヤンたちの質問に、2人は淡々と返していく。
返された方はぽかんと口をあけている。
思い切って、ラングレーがたずねた。


「じゃ、じゃあ、あなたたちの記憶では、どんなことが起こったの?」
「えーと、確か・・・感謝を忘れた、あたりは本当だよな」
「ああ。そのあとは神々は人間に無関心だった。村が荒れたのは仕事を放棄した人間たちの自業自得だ。神々は乱心などしていない」
「俺がシンジと出会ったのも、シンジがアルセウスたちと遊んでいるのを見て、俺も混じりないなーって声をかけたからだし」
「そのあと一緒に暮らすことになったのも、私たちに身寄りがなかったからだしな」


サトシたちはこう言っているが、実際には神々はかなり乱心していた。
娘を神子の少年にとられたくはないが、あまりにも楽しそうに遊んでいたため、気に食わないが引き離すこともできないというジレンマに陥り、反転世界を崩壊寸前まで追いやったのだ。
(のちにその少年すらも息子同然と可愛がるようになるのだが、これは少年と仲良くなる前の話である)
そのため反転世界にポケモンが入ってきただけでギラティナがブチ切れるようになったのだが、それは完全に余談である。
知らぬは本人たちばかりなり。しかしまぁ、世の中には知らなくていいことも多くある。


「やっぱ、史実ってあてになんないよな」
「そうだな」


本人たちの口からもたらされた真実に、アイリスたちは呆然とした。
この伝説は、かなりの学者の研究テーマになっている。
ポケモンと言葉を解するのは人間の夢だ。
それも、神々から信託を授かれるということは、神々とも言葉を交わせるということ。
それをこんなにもあっさりと、さも当たり前のように話してしまうとは。
なんとも科学者泣かせな話である。




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