そんなのは建前で
「最後はラングレーね。次は私かしら?」
気を取り直して、カスミがラングレーに尋ねる。
ラングレーはちらりとアイリスの去った方を見て、カスミに向き直った。
「そうよ。最後は私」
そう言って、ラングレーがフィールドに入った。
「・・・バトルの前に、一つ聞いてもいい?」
「・・・いいわよ」
「どうしてあなたはアイリスとあなたのドラゴンタイプを戦わせることをかたくなにこばむの?」
あなたのポケモンが嫌がってるからだけじゃないわよね?
「あなたたち、私たちの悪いところを叱ってくれているでしょう?」
もう、みんな気付いているのよ。
そう言ったラングレーの言葉に、デントたちがうなずく。
しかし、カスミは首を振った。
「しかるだなんて、そんな大層なものじゃないわ」
腹が立っただけ、ただそれだけ。
サトシを気づ付けられて腹が立った、たったそれだけのこと。
そう心の中で呟いた。
「・・・あの子の悪いところを指摘するなら、なおさらあなたもバトルするべきだと思う。あなたとだったら、あの子も素直に負けを認められた」
「だからこそよ」
「え・・・?」
「あの子はドラゴンタイプに甘いの。自分のカイリューを負かしたくないからってドリュウズを使おうとした。私のポケモンと戦っても、相手がドラゴンタイプだから仕方ないって心のどこかで思ってしまったと思うわ。でも、それじゃ駄目なのよ。逃げてばかりじゃ強くなんてなれない。立ち向かわなきゃ成長なんてしないわ」
カスミがそういいきると、ラングレーはうつむいた。
フルフルと肩を震わせ、勢いよく顔を上げた。
「悔しい!」
「え?」
「なんか悔しい!あの子のライバルは私なのに、私よりカスミの方がアイリスを分かってるなんて!」
そう叫んで地団太を踏むラングレーに、カスミは驚きに目を瞬かせた。
「カスミ!勝負よ!絶対負けないんだから!」
「望むところよ!」
「じゃあ行くぞ!カスミVSラングレー、試合開始!」
「出陣よ、ツンベアー!」
「行くのよ、サニーゴ!」
試合開始と同時に、2人がポケモンを繰り出した。
相性はほぼ互角。
先に動いたのは、ラングレーだった。
「ツンベアー、冷凍ビーム!」
「かわすのよ!」
ラングレーの指示に、カスミが交わすように指示を出す。
サニーゴは余裕の表情を浮かべ、ひらりと軽く飛ぶようにして冷凍ビームを交わした。
先程までサニーゴが立っていた地面が凍りついていた。
「素早いな・・・。吹雪を冷凍ビームで凍らせて!」
ツンベアーが自分ではなった吹雪に冷凍ビームをあてた。
吹雪がつらら状に凍りつく。
サニーゴは雪に交じって降ってくるつららを軽快なステップでかわしていく。
しかし、次第につららの量は多くなり、サニーゴの表情が真剣なものに変わる。
そうやって、しばらくの間交わし続けていたのだが、ついに、サニーゴのスピードに、つららの量が勝った。
地面につららが突き刺さり、逃げる面積が少なかったこともあったが、つららの量が多すぎてすべてを交わすには至らず、ついにつららはサニーゴを襲った。
「サニゴー!!」
「今よ、きあい玉!」
「サニーゴ!!」
つららがぶつかり、サニーゴがよろける。
そこをラングレーは見逃さず、追い打ちをかける。
サニーゴはふらふらだ。
「おお!一撃入れたぞ!」
「初めてダメージを与えられたんじゃないか?」
攻撃らしい攻撃を始めて入れたラングレーに、ケニヤンたちの歓声が上がる。
「やるわね」
「言ったでしょ?絶対負けないって」
「私だって負けないわよ。ジムリーダーとして、先輩トレーナーとしてのプライドがあるの」
そう言って、カスミはにやりと笑った。
「サニーゴ、反撃するわよ!自己再生!!」
「えっ!?」
予想外の指示にラングレーが驚く。
そうしているうちに、サニーゴの傷は見る見るうちに治ってしまった。
傷の治ったサニーゴは、元気に飛び跳ねている。
「まさか、自己再生が使えるなんて・・・」
「私のサニーゴをなめてもらっちゃ困るわよ。サニーゴ、とげキャノン!」
「かわすのよ!」
「無駄よ!」
サニーゴのとげキャノンを交わすように指示するも、ツンベアーはつららに囲まれ、身動きが取れない。
ツンベアーはとげを食らい、うめき声をあげた。
「ツンベアー!!」
自分のしかけた攻撃で自分の首を絞めることになるとは思わず、ラングレーは唇をかみしめた。
「そこから抜け出すのよ!」
「逃げられる前に体当たり!」
つららの壁から抜け出そうとするツンベアーをサニーゴが追撃する。
ただの体当たりとは思えぬすさまじい威力。
その威力の強さはツンベアーの背後にあった砕けた氷が証明している。
「何て威力・・・!ツンベアー!まだやれる!?」
「ベア!!」
「よし!目覚めるパワー!」
「とげキャノンで相殺して!」
目覚めるパワーととげキャノンがぶつかり合い、爆発が起きる。
フィールドの氷が砕け、砂が巻き上げられる。
砂嵐が起こったようなフィールドはこの上なく視界が悪い。
「これじゃ何も見えない・・・!」
ラングレーは必死にフィールドに視線を走らせた。
土煙がひどすぎて、ツンベアーすら見失いそうだ。
「サニーゴ!背中に体当たり!」
「ツンベアー!後ろに気をつけて!」
「ベア!!」
ツンベアーがラングレーの指示に振り向く。
しかしそこには土煙とつららがあるばかりで、攻撃を仕掛けられるような空間はない。
まさか、とツンベアーが自己の判断で更に振り向こうとしたその時、背中にとんでもない衝撃が走った。
「ベアア!!!」
「!?ツンベアー!!!」
背中に直撃した体当たりに、ツンベアーが悲鳴を上げる。
状況がわからずに困惑するラングレーをよそに、ツンベアーは地面へと倒れた。
ようやく土煙は晴れ、ラングレーは自分の敗北を悟った。
「ツンベアー!!」
「ツンベアー戦闘不能!よって、勝者カスミ!」
ラングレーがツンベアーに駆け寄る。
ラングレーの手を借りて起き上ったツンベアーは悔しそうに顔をゆがませた。
「ありがとう、ツンベアー。よく頑張ったわ・・・」
「ベアア・・・」
そう言って、ラングレーはツンベアーをボールに戻した。
「まさかあの言葉がフェイクだなんて思わなかったわ」
立ちあがり、カスミの前に歩み寄ったラングレーが苦笑した。
それを見て、カスミがくすくすと笑う。
「あら、フェイクじゃないわよ」
「え?」
「私の言葉に振り向いた、その背中に体当たり。それが私の指示だもの」
にっこりと笑うカスミに、ラングレーは思わず絶句した。
簡単に言ってのけるが、かなりの信頼関係がなければできないことだ。
「かなわないなぁ」
ラングレーは眉を下げて笑った。