そんなのは建前で
「よーし!次は俺だ!」
シューティーとのバトルが終わり、次に申告したのはケニヤンだ。
元気よく意気込み、彼はフィールドに入った。
「俺はシンジとバトルすることんなってるんだけど、大丈夫か?」
「あ、ああ・・・。問題ない」
サトシたち以外に自分の体調を気にかけるものがいなかったため、シンジが驚く。
大丈夫だといえば、ケニヤンが笑った。
「よっしゃ!なら、やるか!!」
「なら行くぞ。シンジVSケニヤン!試合開始!」
「ダゲキ!出てこいや!」
「エレキブル、バトルスタンバイ!」
正座の状態で出てきたダゲキに対し、エレキブルはやはりというか怒っていた。
電気がほとばしり、火花が散っている。
「ダゲキ!ビルドアップ!」
「エレキブル、自分に向かって雷だ!」
自分の「攻撃」と「防御」を上げたダゲキに対し、自分に向かって雷を落としたエレキブル、ひいてはそれを指示したシンジに驚きの声が上がる。
「じ、自分に向かって雷!?」
「ど、どういうこと!?」
困惑するベルとカベルネ。
口元に手を当て考え込んでいたシューティーが顔を上げた。
「そうか!電気エンジンか!」
「そっか!特性か!!」
シューティーの言葉にコテツが手を打つ。
その言葉に他のメンバーもなるほどとうなずいた。
「エレキブル、雷パンチ!」
「ローキックで迎え討て!」
電気エンジンで素早さの上がったエレキブルの攻撃をよけきれないと判断したケニヤンは、技で迎え撃つ選択を取った。
パンチを止めることはできたが、あまりの衝撃に受け流すことができず、ダゲキがよろけた。
「くっ・・・!二度蹴り!」
「捕まえろ」
「何っ!?」
二度蹴りを素手で捕まえられ、ケニヤンとダゲキが驚く。
エレキブルの手から逃れようともがくが、びくともしない。
「エレキブル、そのまま雷だ」
「ゲキー!!!」
「ダゲキ!!」
ライが直撃するが、ダゲキが何とか持ちこたえる。
特性:頑丈は伊達じゃない。
「よし!今度はインファイトだ!」
ケニヤンが新たに指示を出す。
しかしダゲキは動かなかった。
否、動けなかった。
電気が体に帯電し、しびれで動けないのだ。
「まひ状態だ!」
デントが叫ぶ。
「ダゲキ!」
ケニヤンが叱咤するが、ダゲキは動くことが出来ない。
「エレキブル、雷パンチでとどめだ」
「ゲキ―!!!」
「ダゲキ!!」
エレキブルの一撃をまともに食らったダゲキはそのまま目を回して地面に倒れた。
「ダゲキ戦闘不能!よって、勝者シンジ!」
サトシの宣言に、一瞬あっけにとられるも、勝負が決したことを悟ったのか、ケニヤンが目を伏せた。
「戻れ、ダゲキ。よく頑張ったな」
ケニヤンがダゲキにねぎらいの言葉をかけ、ダゲキをボールに戻す。
ボールをしまい、ケニヤンがエレキブルをボールに戻すシンジに歩み寄った。
「やっぱ強ぇなぁ。俺もまだまだ修行不足だな」
「判断は悪くなかった。後は技の完成度を高め、経験を積むんだな」
「俺も、もう少しイッシュで修行して、他の地方に旅に出るぜ!そしてもっと強くなって、シンジにバトルを申し込む!」
「次はあっさりやられてくれるなよ?」
「おうよ!」
ケニヤンの笑みに、シンジも笑みを浮かべる。
それを見て、カスミが微笑んだ。
「(随分と丸くなっちゃって)」
初めてジムに来たときは、まるで自分に近づくなというような、冷たいオーラをまとって存在していた。
氷のようだった冷たいまなざしも、今ではすっかり溶けてしまったようだ。
冷たい中にも、どこか温かささえ感じる。
「(これもサトシのおかげかしらね)」
ちらりとサトシを盗み見る。
見て、びくりと肩を震わせた。
彼は無表情だった。
「さ、サトシ・・・?」
「ん?」
「な、何でそんな無表情なの?」
カスミが恐る恐る声をかけると、サトシは首をかしげた。
むろん、無表情のまま。
「俺にもよくわからないんだ・・・」
サトシはぽつりと呟いた。
「シンジが俺の友達やライバルと仲良くなるのは嬉しいよ。前よりずっと明るくて、いろんな表情を見せてくれて。それが俺とかかわって起きたことだから、なおさら。でも、それと同時に俺以外の奴と楽しそうにしているシンジを見てると、何かもやもやして気持ち悪くてさ。おかしいよな、友達が増えるのはいいことなのに。こんなことなら前のままでいいから、俺だけを見ててほしいって思ってしまう自分もいて・・・。こんなときどんな顔していいか、わからないんだ」
それであえての無表情なのね、とカスミは口元をひきつらせた。
恋を知り、嫉妬や独占欲などの、そういった感情が持てるようになったことに喜べばいいのか。
そのうちヤンデレを開花させそうで怖いと嘆けばいいのか。
そんなとき、一体どんな顔をすればいいのやら。
サトシが無表情になるのもうなずけるわ、とカスミは1人ごちた。
「(とりあえず、笑えばいいと思うよ、何て軽々しく言えないことだけは確かね)」