そんなのは建前で
「そう言えば、お前あいつに何かしたのか?」
「え?」
隣に並んだカスミにシンジが耳打ちした。
シンジがちらりと視界にとらえたシューティーは、サトシとともに世間話に興じている。
「先程、あいつはサトシのことを調べたと言っていた。サトシをシンジんだとみなしていたあいつが、自主的にそんなことをするとは思えない」
疑うようなまなざしに対し、カスミはきょとんと眼を瞬かせた。
「別に何もした覚えはないけど?」
「・・・そうか、」
嘘をつけ、とシンジは心の中で悪態をついた。
けれども余計な詮索はしない方が得策だろう。
「(何をされるか、分かったもんじゃない)」
「カスミさんって実はしたたかなのね」
ジョーイがデッキからDVDを取り出しながら言った。
ジョーイは昨日のことを思い出す。
このDVDはカスミが裏手のフィールドで、サトシとシンジがバトルをすると教えに来た時に、一緒に渡されたものだ。
『これを、明日一日ポケモンセンターで流しておいてください』
そう言って渡された、サトシとシンジのシンオウリーグのDVD。
渡された時は驚いた。喉から手が出るほど望んでいたものが、目の前にあったのだから。
受け取った時は手が震えていた。
『一日流していただければ、このDVDは差し上げます』
そう言って笑ったその表情を、ジョーイは忘れない。
「買収、されちゃった、」
そう呟いて、ジョーイは苦笑した。