そんなのは建前で
カイリューをポケモンセンターに連れて言ったアイリスは、無事カイリューの診察を終え、眠っているカイリューのそばで彼を心配そうに見つめていた。
キバゴを膝に乗せ、その体をギュッと抱きしめるアイリスの腕は震えていた。
「・・・キバゴ」
『・・・なぁに?』
「私・・・間違ってないわよね?」
どこかすがるような目つきでアイリスはキバゴを見つめる。
けれどもキバゴは悲しそうな顔をして、ゆっくりと首を振った。
『僕はシンジさんの方が、正しいと思うよ』
「っ!?どうして!?ドラゴンタイプのことは、私の方がよくわかってるはずよ!」
『なら、カイリューの性格、わかるよね?』
キバゴの言葉に、アイリスがいぶかしげな顔をする。
何故そんな当たり前のことを言うのかと、言外にそう言っているような表情だ。
しばしの逡巡ののち、アイリスが口を開いた。
「・・・カイリューは意地っ張りで負けず嫌いだわ。相手が強いとわかると、たとえ自分よりはるかに強くても、どんな相手でも戦いたいっていう衝動にかられちゃって、周りの声が聞こえなくなるわね」
『・・・そこまで分かってて、まだわからないの?』
「な、何がよ・・・?」
キバゴの言葉の意味がわからず、アイリスは困惑する。
そんなアイリスに、キバゴは悲しそうに眼を伏せた。
『カイリューは負けちゃうって決めつけられたくなかったんだと思う。苦手なタイプだからって最初から負けちゃうって決めつけられたら、カイリューでなくとも悔しいって思うよ』
「でも・・・っ!」
『アイリスは僕たちのことを信じてないの?』
「・・・っ!!!」
アイリスが言葉に詰まる。
堪えられないアイリスに、キバゴが言葉を続けた。
『だってそうでしょ?たしかに僕らは氷タイプが苦手だけど、戦ってもいないのに最初から負けるって言われたら、信頼されてないって思っちゃうよ!』
「・・・っ」
『旅に出たばっかりのころは確かに弱虫だったけど、今では「竜の息吹」だってちゃんと使えるようになったよ?シロナさんのガブリアスの「流星群」を受けても倒されなかったよ?それでも僕は弱いの?信頼に値しないの?』
僕より強いカイリューでさえ弱いって言われたら、僕はどうなっちゃうの?
「・・・っ!!!」
迷子の子供のような目が、アイリスを貫く。
アイリスは彼に言葉を与えられずに涙をこぼした。
台の上で寝かされていたカイリューが、うっすらと目をあけ、アイリスを見た。
それからまたすぐに目を閉じた。
それが何を意味するのかは、カイリューのみぞ知ることである。