2人のみこ
サトシはピカチュウと、ピカチュウに変身したミュウ、ピチューに変身したミュウを抱き上げてご満悦だ。
ピカチュウやミュウたちも、サトシを抱きしめ返し、嬉しそうに笑っている。
ふと、シンジがこちらを見ているのに気付き、サトシがシンジを手招く。
シンジが一度デントたちを振り返るが、彼らは手のひらでどうぞ、と示す。
それにうなずき、シンジがサトシに歩み寄った。
「シンジ、話は終わったのか?」
「ああ」
「じゃあ、みんなで反転世界に遊びに行こうぜ!」
「私は別にかまわんが・・・」
あまりの出来事に座り込んでしまったアイリスたちを見ると、自分たちだけで行ったほうがいいだろうと思う。
特にシューティーやカベルネなどは(こちらはシンジの脅しによるものだが)顔が蒼くなっている。
彼らを連れていくのは酷だ。
何より、神々が彼らを歓迎していない。
「行くなら私たちだけでいこう。あいつらは伝説のポケモンなど初めてみた奴らばかりだろう」
「あー、そっか。みんなびっくりしちゃうよな」
「それに、いきなり反転世界は酷だろう。向こうはこちらと勝手が違う」
「むぅ・・・」
みんなを紹介したかったのに、とサトシがむくれる。
ピカチュウがなだめるように苦笑し、ミュウたちは楽しそうに笑った。
『連れて行っちゃえばいいのに』
『僕らは歓迎するのに』
ミュウたちはくすくすと笑っている。
彼らは別に、言葉を発しているわけではない。
これはシンジが訳したものだ。
シンジは、神々の心がわかる。考えがわかるのではなく、今どんな気持ちでいるのか、端的にわかるのだ。
嬉しいとか、悲しいとか、そういった単純な気持ちなら読み取れるのである。
今ミュウたちの胸に渦巻いているのは強烈な悪戯心。
無邪気に残酷な彼らは邪気のない笑顔を浮かべながらデントたちにトラウマを作る気でいるのだろう(本人たちは軽いいたずらのつもりでいるからたちが悪い)
反転世界に彼らを連れて行ったら、彼らは確実に終わる。シンジはそう確信した。
「(こんな確信もちたくなかったな・・・)」
座り込んだアイリスたちはしばらくの間、言葉を発せずにいた。
「サトシって、実はとんでもない人だったのね・・・」
ラングレーがぽつりとつぶやいた。
「見る限り、どこにでもいるようなただのトレーナーなのにね」
シューティーの言葉に、ベルたちがうなずく。
サトシはピカチュウたちとじゃれあい遊んでいる。
時折シンジも混ぜようと奮闘しており、シンジはピカチュウたちに埋もれている。
そのたびにぺしりと額を叩かれて不満げに口をとがらせている。
そんな姉弟のようなやり取りをしている2人が神のみこだとはとても思えない。
そんな2人を見て、デントは首をかしげた。
「どうしたのよ、デント」
「いや、あの2人の関係を、知っているような気がして・・・」
「2人の関係?」
「2人のみこって、どこかで・・・」
考え込むデントを見て、カベルネたちはいぶかしげに眉を寄せる。
「2人のみこ・・・2人の・・・」
「デント?」
「・・・・そ、」
「そ?」
「それだァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
唐突に叫ぶ声を上げるデント。
不意をつかれたケニヤンたちが驚いて振り返る。
振り返ると、デントはコイキングのように口をパクパクと開閉させていた。
「ど、どうしたのよ、デント」
「何かあったのか?」
「具合でも悪いんですか?」
「違うよ、思い出したんだよ!」
カベルネたちの声に否定の言葉を返し、デントは言った。
「2人のみこの伝説を!!!」