そんなのは建前で






デントとカベルネは、レストランで黙々と食事をしていた。
2人ともオムライスをずっと無言で口に運び続けている。
とても美味しいものを食べているような食事風景ではない。
ただ、腹を満たすためだけに料理を口にしているように見える。
そしてとうとうデントがスプーンを置いた。


「・・・僕たち、間違っていたのかな・・・」


そう呟いた声はまだレストランで談笑を楽しむ他の客にかき消された。
寂しげにも聞こえる声だった。
誰ともなくつぶやいたような声は、カベルネに向けられたものだ。
カベルネは料理を食べ続ける手を止めずにいった。


「間違っていたのよ」


デントとは違い、はっきりとした声だった。
予想外のカベルネの返答に、デントは眼を見開いた。
探るように凝視され、ようやくカベルネは食事を止めた。


「私・・・考えてもみなかった。私たちソムリエのせいでポケモンたちを捨てる人がいるなんて・・・」


そう言ったカベルネは、とても静かな目をしていた。
悔しさや悲しみ、怒りを通り越して凪いでいた。
つられてデントの表情も暗く曇って行った。


「間違えたなら、正せばいい」
「え?」


カベルネの凛とした声に顔を上げれば、カベルネは先ほどの凪いだ瞳が嘘のように力強い輝きを放っていた。


「シンジの言ってた言葉よ。彼女の言葉が正しいなら、私たちはまだやり直せるわ」
「カベルネ・・・」
「そうときまれば、まずはテイスティングの仕方を変えなきゃね!」


そう言ってカベルネは、がつがつとオムライスを食べ始めた。
それにぱちぱちと目を瞬かせながら、デントがたずねた。


「君は何か考えているのかい?」
「もちろんよ!」


口の周りについたケチャップをぬぐいながら、カベルネが自信ありげにいった。


「テイスティングをする前にバトルをさせてもらおうと思ってるわ!」
「バトル?」
「触れ合ったりするのも大事だと思うけど、バトルとか、そういう切羽詰まった時の方が素が出るでしょ?テイスティングにはそういうものが大事だと思うの。技の攻勢とか、直した方いい癖を見つけることができるかもしれないし」


そういうとデントは驚いたように目を瞬かせた。


「何よ」
「いや、考えてるんだな、と思って・・・」


失礼なことを言っているのは承知の上だ。
怒鳴られるだろうか。そう思っていたのだが、カベルネの反応は意外にも静かだった。


「・・・だって、カスミの話に出てきたソムリエ・・・。私に似てたんだもの・・・」


だから、変わらなきゃって思ったのよ。


「そっか・・・」
「そうよ」


それで?あんたはどうなのよ。
オムライスを口に運びながら尋ねられたデントは少し言葉を濁した後、ゆっくりと口を開いた。


「僕はふれあいを大事にしようかなって思ってるんだ」
「ふうん・・・」
「僕はソムリエであると同時にジムリーダーだからね。バトルをしてしまうと相手を素直にみることができなくなると思ってね。だから、自然体を見ることが重点を置こうと思ってさ」
「そう」


ま、いいんじゃないの?
そう言って、カベルネは水を飲んだ。
デントは少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
そして、ようやく彼はテーブルに置かれたスプーンを持ち直し、食べかけのオムライスを口に運んで行った。
すっかり冷めてしまっていたが味気なかったオムライスがとても美味しく感じられた。






























「あの2人は大丈夫そうね・・・」


少し離れた席で同じくオムライスを食べていたカスミがぽつりとつぶやいた。


「残る問題児は、後2人・・・」


呟かれた声は、レストランの喧噪にまぎれて消えた。




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