そんなのは建前で






「サトシ、大丈夫そう?」


ポケモンたちをジョーイに預け、シンジはカスミの元に向かった。
サトシは2人が見える位置にあるソファに腰掛けて、2人の会話の終了を待っている。
そんなサトシを見つめながら、カスミはシンジに尋ねた。


「私と引き分けた。完全にとはいかないかもしれないが、持ち直しはしただろう」
「そう、よかった・・・」


ほっと息をつき、腕に抱くルリリに頬を寄せ、安堵する。
その瞳がわずかにうるんでいたことには気づかないふりをして、尋ねた。


「そっちはどうだった」
「あれはひどいわ」


きっ、と、別人のように目を吊り上げたカスミがきっぱりと言い放つ。
その変わりように目を瞬かせたが、すぐにいつもの仏頂面に戻る。


「・・・やはりか」
「ええ。シンジの言ってた通り、やっぱり周りの人間の影響で、あいつの不調が長引いていたんだわ」
「あいつの口から言質もとった。しかし、具体的な説明を聞こうとするとすぐにはぐらかし、奴らの話ばかりするんだ。まぁおかげで説教の材料は増えたが、お前から見て、あいつらはどうだった」


シンジが肩をすくめて告げた言葉に、カスミもため息をつく。


「彼らの名前、覚えてる?」
「一応は」
「そう・・・。じゃあ言うわね。まず、ベル。あの子、私にいきなりポケモンを交換しろって言ってきたの」
「は、」


カスミの言葉に、シンジがぽかんと口をあける。開いた口がふさがらないとはまさにこのことである。
まぁそれが当たり前の反応よね、とカスミはうなずいた。


「次にカベルネとデント。ソムリエの2人よ。職業柄仕方ないこととは言え、値踏みするような目が嫌だったわ。私の見た感じだと、カベルネは高飛車で自分の実力を過信しているわね。デントは自分の方が上だと心のどこかで思ってる感じね」

「で、コテツってバンダナの男の子。あの子もイッシュの考えが浸透してる感じ。ついでに言うなら相手をなめてかかってるわね」

「一番ひどいのはシューティー。あいつ、何の断りもなくルリリの写真を取って挙句、ルリリの攻撃を受けて逆切れ。ルリリたちを刺激するなといったうえでよ。その上、他地方を馬鹿にするような発言を繰り返していたわ」

「アイリスはちょっと強引なところがあったけど、理由があれば引いてくれるわ。でも、自分が正しいって考えを持っているうえに、ドラゴンタイプの扱いに対してかなり過信しているわ」

「で、唯一まともなのがケニヤンとラングレー。あの2人は他地方を擁護する発言に加えて未進化のポケモンにも肯定的。あの2人が旅の仲間だったらよかったのに・・・」


そこまで言って、カスミは口を閉じる。
シンジも思わず沈黙した。
しばしの間、静寂が続き、らちが明かないというように、シンジが口を開いた。


「予想外、だったな・・・」
「あえていうことでおないけど、ねぇ・・・?」
「「サトシの周りがここまでひどいとは思わなかった/わ」」


2人そろってため息をついてしまったのは、いたしかたない。


「(人間相手にもトラブルホイホイなのか、あいつは・・・)」


シンジはがっくりと肩を落とした。





そのあと、夕飯だと言って、自分たちを笑顔で呼びに来たサトシの頬を、思いっきり引っ張ってやった。
八つあたりだとは自分でもわかっているものの、やらずには居られなかったシンジであった。




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