そんなのは建前で






「なんか、久々に全力でバトルした気分だ・・・」


砂地の平らだったフィールドは、サトシとシンジのバトルの寄り、無残にも岩場に変えられていた。
ところどころ凍っていたり、クレーターが出来ていたり、切り裂かれたような跡があり、戦闘というよりも戦争が終わった後のようなありさまだった。
そんなフィールドの真ん中で、サトシとシンジは座り込んでいた。

ひっそりと呟くサトシの言葉に、シンジが呆れたように言った。


「それはポケモンがお前の本気の指示についてこれないからだろう」
「う゛っ・・・!」


まさか聞こえているとは思っていなかったため、サトシが目をそらす。
それに盛大にため息をついたシンジは、ため息の余韻を残したような声で言った。


「それで?」
「それでって?」
「・・・あいつらのところに戻るんだろう?」
「うん」


シンジの問いにサトシがしっかりとうなずく。
そんなサトシを見て、シンジが肩をすくめる。


「シンジの言う通りだ、本当なら俺はあの時シューティーに勝たなくちゃいけなかった。でもあの日、俺は負けちゃったから・・・。だから俺はあいつを正さなきゃならない」
「ふん・・・











 まぁ、
 その役目を譲るつもりはないがな」
「え!?」
「あいつらの指導は私とカスミで行う」
「えええ!!?」


驚くサトシをしり目に、シンジはさも当然のように言う。
むしろ、何を言っている?というような目で見られ、サトシは頭を抱える。


「ここは俺がやんなきゃならないとこだろ!?」
「ふん、一度負けてしまっている以上、貴様相手ではあいつらは変えられん。私たちどちらかとバトルし、そのあとで指導を入れる」
「容赦なさすぎじゃないか!?」


いつもは周りを振り回しているサトシが今日はシンジに振り回されている。
あわあわと慌てる様子にピカチュウがほんの少しだけ同情の念を抱いた。
しかしそれよりも同情すべきはバトルフィールドである。
下手をすればフィールドが陥没しかねない。
そんなことは知るよりもなく、会話は続く。


「ふん、それで潰れてしまうなら、そいつらはそこまでの実力だったというだけの話だ」
「そ、それはそうだけど・・・」
「あいつらには一度、本当の敗北を教えなければならない。本当はフルバトルでもよかったんだが、カスミに新人の可能性をつぶしかねないと言われたのでな。まったく・・・お前もあの女もヌルいにもほどがある」


そう言って呆れたように溜息をつくシンジ。
そんなシンジを見て、サトシとピカチュウはこの少女は本当に自分の実力を把握しているのか疑問に思ってしまった。
フロンティアブレーンと戦えるという時点で並大抵のトレーナーより頭一つ抜きんでているというのに、残すはジンダイだけというよほどまれなトレーナーである。
四天王と変わらぬ実力を持つとされる6人を倒しているような少女が、挫折を知らない新人とフルバトルなどすれば、新人の精神など根元から折れてしまうだろう。
サトシのような「折れない精神」を標準で装備しているトレーナーでなければ、バトルそのものがトラウマになる可能性だってある。
そこのところをカスミがしっかりと把握していたからよかったものの、シンジ一人だけならばどうなっていたことか。
容赦などできない(というかしない)シンジである。
下手を知れば、二度とバトルできなくさせていたかもしれない。


「(カスミ、ありがとう・・・!いや、本当マジで!!)」


心の中で礼を述べるサトシを、シンジはジト目で見つめる。


「・・・おい、今何か考えただろう」
「いやっ!別にっ!!」
「・・・まぁ、いい」


冷や汗をたらすサトシに、シンジがため息をつく。
追及されなかったことにほっとし、サトシとピカチュウがそっと息を吐いた。

しばらくの沈黙が続き、ようやく落ち着いてきたサトシがそっと切りだした。


「・・・シンジ」
「・・・何だ」
「・・・ありがとな」
「・・・礼を言われるようなことはしていない」
「でも、やっぱ、ありがとな。そして・・・ごめん」


尻すぼみに声が小さくなっていく。
そんなサトシを横目で見て、シンジは続きを促す。


「ホントは、俺が導かなきゃいけなかったのに、シンジやカスミに迷惑かけちゃうなんて・・・」
「ふん、今までだってそうだったんだろうが」
「う゛っ・・・!」
「私もカスミも、手を貸すのは今回限りだ。今までお前を導いてくれた人たちのためにも、今度はお前が新人を正しい道へと導くんだな」
「ああ!」


久しく見せなかった満面の笑みを浮かべるサトシに、シンジもほんの少し口角をあげて笑った。




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